私の日々

わたしのひび

生（せい）を亨（う）けた。

母（ぼ）胎（たい）を飛び出した。

産声（うぶごえ）を上げた。

両親が微笑（ほほえ）んだ。

だから、今日（きょう）は私（わたし）の日。

初めて笑った。

初めて人見知りをした。

初めて立ち上がった。

初めてありがとうを言った。

だから、今日（きょう）は私（わたし）の日。

新しい服を着た。

新しい言葉を知った。

新しい友達ができた。

新しい目標ができた。

だから、今日（きょう）は私（わたし）の日。

本当の気持ちが言えなかった。

周りに変だと笑われた。

独（ひと）りで弁当箱を空（から）にした。

それでも私（わたし）らしくあろうと思った。

だから、今日（きょう）は私（わたし）の日。

上手（じょうず）に嘘が吐（つ）けなかった。

慣れないことに齷齪（あくせく）した。

私（わたし）の意見は否定された。

休む間（ま）も無く急な仕事が舞（ま）い込んだ。

だから、今日（きょう）は私（わたし）の日。

桜が咲いた。

蛍光灯（けいこうとう）が切れていた。

ご飯が美味（おい）しかった。

目覚めたら既（すで）に午後だった。

だから、今日（きょう）は私（わたし）の日。

自身の無力を思い知った。

信じていた人に裏切られた。

家族が帰らぬ人となった。

いつまでも心が晴れなかった。

だから、今日（きょう）は私（わたし）の日。

眼前に血が広がった。

不安で夜も眠れなかった。

取り返しの付かない状態だと言われた。

もう長くないことを悟（さと）った。

だから、今日（きょう）は私（わたし）の日。

そろそろ、この人生とも決着が付く。

苦（くる）しくて悲（かな）しくて悔（くや）しくて情（なさ）けなくて

俯（うつむ）いてばかりの毎日だったけれど

私（わたし）は「私（わたし）」を決して諦（あきら）めなかった。

夢を叶（かな）えた訳（わけ）でも

華（はな）やかな恋をした訳（わけ）でもなかったけれど

紛（まぎ）れもなく、この人生の主人公は私（わたし）だった。

だから、どんな日だろうと私（わたし）の日だ。

私（わたし）が不器用なりに生（い）き抜（ぬ）いてきた日だ。

この命がどれほど続くのか分からないけれど

私（わたし）は最（さい）期（ご）まで私（わたし）らしく生きてゆく。

だから、今日（きょう）は私（わたし）の日。

きっと、明日（あした）も私（わたし）の日。