目標達成報告会/KAC202110作品「ゴール」

麻井奈諏

第1話

目標を設定してそれを一つ一つ達成していくのが私は好きだ。

それは勉強だろうとスポーツだろうとソシャゲだろうと私は目標を立てる。

「裏を返せば目標が無いと、なにもやる気が出ないんだよね」

「なになに、今日はやる気でないの?ユキちゃん」

「アキちゃん……」

中学時代からの私の親友がそう聞いてくる。

「それがね。こう、学校を卒業したら明確にやりたい事ってなくなっちゃって。で、目標を立てられなくて。でも目標をたてるようなこともなくて……」

他人から見たらおかしく見えるかもしれないが、私にとっては深刻な負のループに陥っている。

大学を卒業して、いい企業に就職するぞと意気込んでみたはいいものの。入ってからは張り合いのない日々が続いている。

「そっか、目標いっつも立ててたもんね。やっぱりその会社向いてなかったんじゃないの?」

アキちゃんはそんな話でも笑わずに聞いてくれる。

「……そうなのかなぁ……」

「んー、じゃあ、目標を立てたいならこんなのはどう?今日から私とどっちが充実した毎日が送れてるか報告しあおうよ。今日はこんなことがあったよってそんな報告をするっていう目標が立つのもいい事じゃない?」

「充実感?……どんなことすればいいんだろ」

「まぁ、それはゆっくり決めていければいいじゃん。仕事で上司に褒められたとか、今日は限定スイーツが買えたとか。どんな些細なことでもいいから、報告し合っていけば充実した毎日って言うのは送れるんじゃないかな」

「……うん、そうだね。やってみよっか」

「じゃあ、さっそく明日からやってみようか。また明日の夜に電話してその時に報告し合お」


―――


この一日にあったことを報告し合って、今日はどっちの方が充実していたかをダラダラと決め合うという、奇妙な関係が始まって三カ月の月日が経った。

「あー、今日は流石にアキちゃんの方が充実してるかなぁ……」

「フフッ、久しぶりに勝てた気がする」

本当にたわいのない話を三カ月毎日欠かさず続けている。

「あー、急なんだけどこの報告会っていつまで続くんだろうね」

その言葉は少し胸がドキッっとした。

「それって、もうこの報告会止めたいってこと?」

「ううん、そういうことじゃないんだけど、次の目標が欲しくなっちゃって。毎日続けてるけど、終わりが見えなくて。どうやったら目標をクリアしたことになるんだろうって考えてもわかんなくて」

「……うん、そうだよね。あんまり目標にするという意味じゃ解決になってなかったね。ごめんね」

そう、わたしは謝った。

「いや、本当にこの提案はありがたかったんだよ?毎日電話して楽しかったし。おかげで仕事のはかどりも良かった。でも、目標じゃないかなぁって。だって、ゴールがないじゃない?」

(私にとってはこの通話にゴールはあるんだけどね)

打算的な提案だったけど、彼女にはもう通用しないらしい。通話こそが目的で彼女自身がゴールなのだ。

「……うん、じゃあユキちゃん。この報告会は次の目標が決まるまでの繋ぎってことでどう?」

「うん、そうだね。それまではよろしくね」

「私もそれまでに目標を達成しなきゃね」

「?秋ちゃんもなにか目標があったの?どんな目標?」

「それはね……秘密」

「えー教えてくれてもよくない?」

ユキちゃんだけには教えられない。私の大きな目標、頑張りやな貴方を近くで見てきた。わたしの目標。

「まぁ、目標が達成出来たら教えるね」

わたしのゴールはかなり遠そうだけど。走り続けるしかないみたい。わたしはユキちゃんのことが好きなんだから。

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