まーだだよ、もーいーよ

金子ふみよ

第1話

 ユウは、夜中に、目を覚ましてしまいました。おしっこがしたくなったからです。

 家の中はシーンとしています。トイレの前までくると、小さな音が聞こえてきました。

「はやくおしっこしよう」

 ユウは少しこわくなって、さっさと用をたしました。

 トイレの戸を開けると

「まーだだよ」

 音ではなく、ヒソヒソと声になって聞こえました。ユウは、心臓がバクンとなって、急いでふとんにもぐりこんでしまいました。


 朝、ユウは夜中のことが本当にあったのか、ふしぎでしかたありませんでした。けれど、夢だったのかもしれないと思うことにしました。


 その夜、昨日と同じ時間にユウは、またトイレに行きたくて起きてしましました。

 ユウはぬきあしさしあしで、トイレの前まできました。コチョコチョコチョ。やっぱり音がしています。

 あわててトイレをすませました。

 ゆっくりと、ドアを開け、静かにしめました。

「まーだーだよ」

 どこからともなく聞こえてきた声に、ビクンと背筋が伸びて、ユウはいっきにふとんに飛びました。グーと目を閉じて、

「こわくない、こわくない」

 と何度も何度も言って、そのうち寝てしまいました。


 朝、ごはんを食べながら、おかあさんとおとうさんに「まーだーだよ」の話しをしてみました。

「ジュース飲みすぎだから、起きるのよ」

 と、おかあさんに言われ、

「幽霊かもよー」

 と、おとうさんが声をふるわせました。

 ユウは目を大きくして、

「きをつける」

 とだけ言って、急いでごはんを食べてリビングを出てしまいました。


 夜、また起きてしまいました。トイレはだいじょうぶなのですが、どうにも気になったようです。

 音をたてないようにしてトイレの前に立ちました。

「もーいーよ」

 ユウは首を横にしました。

(ん? きのうまでは「まーだーだよ」で、きょうは「もーいーよ」?)

 耳をそばだてて、ヒソヒソをよく聞いてみました。

「もーいーよ」

 やっぱり言っています。

「もう! だれなの?」

 小声ですが、しっかりとしてユウは聞いてみました。ヒソヒソはすっかりやんでしまいました。

 心臓はドキドキしていましたが、ユウはヒーローにでもなったかのような気持ちになって、ほこらしげにふとんに入りました。


 朝、「もーいーよ」の話しを、おかあさんとおとうさんにしました。

 すると、カレンダーを見ていたおかあさんが言いました。

「ユウ、ほんとうに声がしたのね?」

「うん、した」

「そう。それはね」

 おかあさんは、ニッタリとしています。

「おみそができたからかも」

「おみそ?」

「そう。冬になる前に初めて作ってみたでしょ」

 そうです。ユウもおみそ作りのおてつだいをしました。みそは桶に入れてトイレ前の物置に入れてありました。

「おみそはね、じっくりと時間をかけてできあがるものなの。ちょうどいいころあいがきょうなのよ。だから、おみそがユウにお知らせしてくれたみたいよ」

「なんで、聞こえたんだろ?」

「さあ、おみその妖精かもよ」

 幽霊につづいて、おとうさんは妖精をもちだしました。ユウはほんとうにそうかもしれないと思いました。


 できたおみそでおみそしるを飲んでみました。とてもほんのりしておいしくて、ユウもおかあさんもおとうさんも、にっこりしました。

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まーだだよ、もーいーよ 金子ふみよ @fmy-knk_03_21

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