08話.[それぐらいなら]

「なるほど、きみがめーがよく話していた犬塚犬子ちゃんか」

「はい、犬塚犬子です」


 なるほど、この人が小熊先輩か。

 確かに格好いい、碧とはまた違った格好良さを有している人だと思う。

 ……なんでこんな差が出るんだろうね、不公平だ。


「それでそっちの子が藤塚碧ちゃんね」

「はい」

「みんないいね、可愛くていい!」


 あ、誰にでも言ってそうだとすぐに想像できてしまった。

 でも、わざわざこっちに来てくれたのはありがたい。

 電車に乗ってまで会いに行きたいとは思っていなかったから。


「それで? めーはどうして不機嫌そうなの?」

「……犬子が小熊先輩に会いたがったからです」

「ただ関わっている人をチェックしておきたかったんでしょ」

「違いますよ、絶対に興味があったんです……」


 あー、これは後で大変なことになりそうだ。

 とりあえずこのメンバーでファミレスへ――ではなく、猫子――めぐみとも合流して五人で向かう。


「乾杯!」


 おお、圧倒的女子率だ。

 右横に座っている碧は柔らかい表情を浮かべていて、左横に座っている恵はどこか緊張したような面持ちだった。

 対面に座っている小熊先輩は楽しそうに、その左横に座っている芽生彼女はどこか納得のいっていないような顔をしていたけど無視。


「碧ちゃんは綺麗だね」

「ありがとうございます」

「仲良くしてよ」


 どんどんと小熊先輩のイメージが崩れていく。

 いや、勝手にどこかいい存在だと考えてしまっていた自分が悪いだけなんだけどさ……。

 まあ、それでこの判断は勝手だろうと苦笑することになった。


「すみません、犬子と芽生がいてくれればそれで十分ですので」

「そうか、それなら仕方がないね」


 そういうところだぞ碧っ、悪い気どころかいい気しかない。


「めー、ジュースを注ぎに行こうよ」

「はい……」


 ふぅ、連れ出してくれたのは正直に言ってありがたさしかなかった。

 変に目の前でふたりと会話していると文句を言われそうだからだね。


「恵、そっち狭くない?」

「はい、大丈夫ですよ」


 なんかやたらと端に座っているから不安になる。


「碧も大丈夫?」

「ええ、もっと寄ってもいいぐらいよ」

「あ、それなら恵、もっとこっちに来ていいよ?」

「そうですか? それなら寄らせていただきますね」


 そこからもわいわい彼女を除いて楽しくすることができた。

 別れる際には何度もお礼を言って駅まで送って、恵や碧もきちんと送ってから彼女と向き合うことになった。


「芽生」

「……知らない」

「私を変えたのは芽生と碧だよ」

「だからっ? 碧ちゃんだってそうってことじゃんっ」

「だけど碧にそういうつもりはなかったし、私は芽生からの告白を受け入れてこういう関係になっているんだよ?」


 小熊先輩と仲良くしていようと文句なんて言わなかった。

 それに私は芽生を優先して動いているんだ、信じてほしい。


「……ごめん」

「いいよ」

「帰ろ」

「うん、帰ろう」


 よし、これからもそうじゃないって言い続けようと決めた。

 なにかがあったら全部吐いて、彼女が不安にならないようになるべくする。

 それぐらいなら私にもできるから。

 全部言ったら「ありがとう」と笑って言ってくれた。

 あとはこの笑顔を、元気さを見られるように近くにいたいとそう思ったのだった。

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