慧遠10 慧遠と桓玄 下

当時の仏僧業界、

末端がだいぶクソだったのだろう。

なので桓玄かんげん、仏僧業界の弾圧を

手掛けようとする。


ただ執行に当たり、こうも言う。


「僧侶が虚心に経典を学び、

 その教義を正しく修め、

 禁欲的に、行いを整え、

 教化に精励しようとする、

 のであれば構わんのだ。


 しかし今、そのような道から

 外れているものも多い。

 そういった者たちについては、

 還俗させるべきであろう。


 ただし、廬山ろざんについては慧遠えおん様以下、

 教育がよく行き届いておられる。

 調査の手を入れるまでもあるまい」


この話を聞き、慧遠、

桓玄に手紙をよこす。


「御仏の教えが広まるに従い、

 その戒律がないがしろとなり、

 僧らの行状が

 収まらなくなりつつあったことに、

 まこと嘆き、怒りを抱いておりました。


 このままではみ仏の名のもとに、

 狼藉を働くものも現れましょう。

 ともなれば、我々がその流れに

 巻き込まれうるのは必定。


 ここに桓玄殿が僧侶らの行状を

 清め整えんと志されたこと、

 我が意にも適うところです。


 涇水けいすい渭水いすいとの違いは、

 かたや濁り、

 かたや澄んでいるところにあります。


 よからざる流れを

 清く正しき流れによって正せば、

 仁ならざる振る舞いをするものらも、

 自然と仏僧界より遠ざかりましょう。


 桓玄殿のご命令が行き渡れば、

 このふたつの理は得られ、

 み仏の道を騙る者より仏門は閉ざされ、

 実直に教えを求める者が

 世間から排斥されることも

 なくなりましょう。


 こうして仏道と世俗とが

 正しき交わりを取り戻し、

 仏教はさらに

 栄えることとなりましょう」


それから様々な方策を桓玄に与えれば、

桓玄もまたその指示に従った。




俄而玄欲沙汰眾僧,教僚屬曰:「沙門有能伸述經誥,暢說義理,或禁行循整,足以宣寄大化,其有違於此者,悉皆罷道。唯廬山道德所居,不在搜簡之例。」遠與玄書曰:「佛教陵遲,穢雜日久,每一尋至,慨憤盈懷。常恐運出非意,淪湑將及,竊見清澄諸道人教,實應其本心。夫涇以渭分,則清濁殊勢;枉以直正,則不仁自遠。此命既行,必二理斯得,然後令飾偽者絕假通之路,懷直者無負俗之嫌。道世交興,三寶復隆矣。」因廣玄條制,玄從之。


俄にして玄は眾僧を沙汰せんと欲し、僚屬に教して曰く:「沙門に經誥を伸述せる能い、義理を暢說し、或いは禁行循整にして、以て大化を寄せるを宣ずに足る有れど、其れ此に違有れる者は悉く皆な道を罷らしめん。唯だ廬山は道德の居す所にして、搜簡の例に在らず」と。遠は玄に書を與えて曰く:「佛教の陵遲し、穢雜なること日に久しく、一尋の至れる每、慨憤の盈つるを懷く。常に恐るらくは意に非ざるの運出し、淪湑の將に及びたらんことを。諸道人を清澄したらんことの教を竊い見たるに、實に應に其れ本心たらん。夫れ涇は渭に分さるを以て則ち清濁は勢を殊とす。枉ぐるを以て直正せば、則ち仁ならざるは自ら遠ざからん。此の命の既に行わるるに、必ずや二なる理は斯く得られ、然る後に令し偽を飾る者をして假通の路を絕たしめ、直を懷ける者をして負俗の嫌無からしめん。道と世とは交ごも興り、三寶は復た隆まらん」と。因りて玄に條制に廣まば、玄は之に從う。


(高僧伝6-10_政事)




うーん、この「慧遠様ただお一人が正しい!」的方向って危ういよなあ。まぁ世界が皇帝一尊を基調とするわけだし、どうしてもそういう方向に話が行かざるを得ないとは思うんだけど。


ただ廬山も、すでに見た曇邕のエピソード

https://kakuyomu.jp/works/1177354054894645693/episodes/1177354054897690241

にもあるとおり、結局は人間集団。トップが偉大だからと、どこまでトップの教えを徹底できていたんでしょうか。まぁここで曇邕がおん出されてるタイミングはここのエピソードよりちょっとあとのことでしょうから、そのまま当てはめるわけにも行かないとは思いますが。


なお、この話のうち「二理斯得」の部分がうまく解釈できない。何と何をそれぞれで理としてるんでしょうかね。

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