斬首の娘と執行人

雨禍津 しう

第1話 首斬りの斧




 彼女は美しかった。


 縄で拘束され、自由を奪われ、その目に生への希望は無かったが、同時に死への恐怖も見てとれない。

 反抗も恐怖もなく、ただそこに凛としてあるたくましい花のような。

 

 彼女は美しかった。


 生と死の狭間、これから彼女は死へ跳躍する。

 世に誕生せし穢れ、これからそれは祓われる。

 私のもつ一振りの斧によって。


 彼女が私に目を合わせる。

 その青は「なるべく上手くやってください」と告げていた。


 この少女がいったい何をしたのだろう。

 どんな罪を犯したのだろう。

 冤罪だろうか、本当は無実なのではなかろうか。


 普段は考えもしない疑問が浮かんでは消えていく。

 だが私は刑吏だ。


 儀式のように酒を口に含む。

 手に馴染みきった斧を引き寄せる。

 彼女の首がさらされる。


 この白雪のような首筋に私は刃を通さねばならない。

 一瞬の躊躇と自身への弁解。


 今まで通り、変わらず、一撃で、なるべく苦痛を与えぬよう。


 今までのなれから、手の震えはなかった。





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