永遠に一緒に

「そうそう変な話聞いてさ、お前怖い話集めてるって言ってたろ?これが本当なのか良くある怪談話なのか分からないから判断してくれよ。」


僕はその時25歳で料理屋で働いていた。啓志はその店の常連で初めて来た時に意気投合し、良く飲みに行くようになっていた。

これは2人で飲みに行ったバーでの出来事だ。


––俺の友達にミナってのが居てさ、旦那が最近死んだんだ、銀行員の


それも自殺でさ、自宅のマンションから飛び降りて即死。顔も身体もぐちゃぐちゃになっていたらしい

ノルマが厳しくて死ぬ間際は半狂乱のようになっていて一緒に死のうと心中を何度も持ちかけられてたんだってさ

暴力も振るわれ、お前しかいないと優しくされそれが一年くらい続いて怖くなったミナは実家に帰った

その直後、履歴が埋まる程の着信と罵詈雑言の留守番電話が続き最後に今から死ぬと言い残して彼はそのまま飛び降りた

「今から飛び降りる、ずっと愛している、すまなかった。」

その留守電を聞いてすぐ住んでいたマンションに駆けつけた時にはすでに遅かった

ミナは後悔よりも先に安堵したと言ってたな、分からなくもない

葬式の時、最近は故人の好きだった曲を流すサービスがあるらしくて、旦那の大好きだった結婚式の時にも流していた「永遠に」みたいな曲をかけたんだってさ

永遠に一緒にって感じの歌詞を繰り返すやつ?葬式だから凄く変な雰囲気になったってミナは言ってたな

葬式も終わり一週間後経った夜にどうしても必要な荷物があったミナは旦那と一緒に住んでいたマンションへ向かった

そこに彼の恨みや辛みが残っていそうで怖かったけれど意を決して鍵を開け中に入った、夜の8時くらいに

驚く程に中は整頓されていて私物は殆ど処分されていたらしい、最期の身支度ってやつだろう

ミナが探していた物を見つけた辺りで置いてあったCDプレイヤーから永遠に共にが爆音で流れ始めた

最初は何が起きたか分からなかったが曲を聞いた瞬間に怖くて堪らなくなった

そりゃそうだ、旦那にずっとそばに居てって言われてるようなもんなんだから

このままではヤバイと思いプレイヤーに駆け寄り電源をオフにした

消えない、どんどん音量が上がっていく、そしてCDを取り出そうとすると…


中にはCDが入ってなかった、そしてコンセントも抜かれていたんだと


CDプレイヤーを床に叩きつけ命からがら逃げ出してそれからはあの家には行ってない


それから夢に毎晩旦那が出るようになったと、悲しそうにこちらを見てくるので夜怖くて眠れなくなった

だから啓志、今夜私のそばに居てくれない?ってさっき電話で言われたんだけど、これってどうしたらいいと思う?


「居てやれよ!」

とアードベッグを飲み干し僕は言った。


怖い話を聞いていると思っていたらいつのまにか惚気話に変わっていた、そんな夜だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

真夜中奇譚〜あの世にまつわる不思議な話〜 神楽 羊 @NyasoNostalgic

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ