トイレのおばけ
記憶があやふやでこれが本当に起こったのか僕には正直自信が無い。
思い出せる中で一番古い不思議な体験の話をしようと思う。
これは確か僕が小学校4年生の頃、もう30年以上前の事で忘れている事も多いので補完しながら書く。
悪ガキだった僕はクラスでも同じような個性的なメンバーといつも一緒にいた。
僕を含めて男子が3人、女子が2人の5人グループで遼と純一、綾ちゃんと堀井さんと僕は何をやるにも一緒で家も近く仲が良かった。
ある時期学校中におかしな噂が流れる。
良くある七不思議の一つにありがちな話で夜中に一階にある女子トイレ、その一番奥にある個室を開けると女の霊が出て来て呪われるというもの。
学年中で怖い話が流行っていて皆が読んでいる怪談本の中に似たような話がいくつもあった、噂の出所はきっとそこだろうと僕は冷静に捉えていた。
ただ一つ気になったのはその女の子の霊は昔不慮の事故で亡くなったこの小学校の生徒だと言う。
名前も花子さんだとかそういうありきたりな名前では無かった。
昼休み、給食が終わった後いつもの様に5人で集まっていると純一が皆に言う。
「トイレの※∮§≦さんの話聞いた?」
(名前は伏せる。)
「聞いた聞いた!開けると呪われるんだってね、怖いなーでも俺ならサッカーで鍛えた蹴りで倒しちゃうかも。」
クラスで一番人気のある遼が食い気味に答える。キャーキャーと黄色い声を上げる女子二人を遮って僕が聞く。
「じゃあ確かめてみる?」
5人の間の空気が少し変わった。
「やだよー怖いじゃん!ほんとに出たらどうするのよ!」
お姉さん的存在の綾が言う。
「じゃあやめとこうか、みんなこんな嘘に騙されるなんてお可愛い事。」
何故僕はあの時あんなに焚きつけたのか自分でも良く分からない、もしかしたら呼ばれていたのかもしれない。
お嬢様育ちの堀井さんが思いの外乗って来た。
「クラス替えももうすぐだし最後の思い出に行ってみようよ。」
鶴の一声で僕達は夜の小学校に忍び込む事になった。
男子は3人ともサッカー教室に所属していて夜の6時まで練習があるので隙を見て校舎のトイレに忍び込み窓の鍵をこっそり開けておいた。
約束の時間は夜中の11時、金曜日だったので親には友達の家に泊まると伝え僕はマフラーと手袋をして、眉毛切り用の小さな先の丸いハサミを持って家を出る。
僕はこっそりとドッキリを仕掛ける事にしていた。
***
夜の通学路を息を切らしながら走る。
昼間とは景色がまるで変わっていて街路樹も畑も何もかもが暗く塗りつぶされている。一人で見る初めての真夜中の世界だった。
時間ちょうどに裏門に着くとすでに皆が集まっていた。
遅いぞとかビビって止めたのかと思ったとか全員にからかわれたが今からビビるのはお前達だと内心笑いが止まらなかった。
裏門の横にある花壇に足を掛けそんなに背の高くない壁を越えて音が出ないようにソロソロと歩く。
周りの明かりはほとんど無い。
明るい月に照らされながら歩いていると校舎の外側からトイレの窓に着いた。
用務員さんが泊まり込んでいるので懐中電灯もトイレの電気も付けられないというストロングスタイル肝試しだ。
遼が窓をゆっくり開けた。右手には件のトイレが見える。漆黒の暗闇が中を支配していた。
ここに来て全員が声を失う、思っていた以上に不気味だった。
「俺が行くよ、怖くないし。」
僕は内心ビクビクしながらも女子に良いところを見せようと窓に手を掛ける。中に入ると目が慣れたのか外にいるよりは辺りが良く見えた。
「大丈夫だよ。」
と声をかけながら窓に背を向けて前髪を3センチ程切りそのまま左手に握る。
4人が入ってくる、声を出来るだけ上げないようにと内緒のポーズをしてゆっくりと僕は入口の鍵を開ける、何かあった時に逃げられる様に。
皆は奥のトイレが怖いらしく出来るだけ入り口に近い場所に固まっている。
「誰が開ける?」
遼が心細そうに言った、お前幽霊を蹴るって調子良い事言ってたじゃないかと心の中で突っ込みつつ僕は答える。
「俺が開けるよ、逃げられるように扉開けといて。」
遼も純一も綾ちゃんも怖がりすぎて入口からもう逃げ出しそうにしている。
堀井さんだけが僕の後ろからトイレの扉を見ていた。
ゆっくりと皆に聞こえるくらいの声で3秒数え勢いよく扉を開いた。すると
そこには普通の洋式トイレがあった。
心の中で僕は心の底から安堵してドッキリを実行する事にした。
トイレを調べる振りをして大声を上げる。
「うわわああああああああああ!!!!!」
余りに突然の事に慌てふためき蜘蛛の子を散らす様に校庭へ向かって走り出す4人
暗闇の廊下を疾走する。
そのまま裏門を飛ぶように乗り超え僕達は近くの公園に辿り着いた。
「何があったんだよ洋!!」
純一が息も切れ切れに尋ねる。
「トイレ調べたら髪の毛が落ちてた。」
笑わない様に注意しながら握りしめていた左手をゆっくりと開くと自分の髪と一緒に僕の物では無い明らかに長い髪の毛が混ざっていた。
血の気が引く、この髪の毛は僕の髪の毛の長さを10cm以上超えている。
「呪われたんじゃないか?」
皆が心配する中、泣きそうになりながら僕はドッキリだと告白した。
途中までは確かにドッキリだったのだ。
本当に勘弁してよーでも楽しかったねー凄くドキドキしたなどと安心した声を上げる3人
を尻目に僕はとんでもない事をしてしまったとショックで呆然としていた。
どうやって帰ったのか分からない、鍵を開け家に帰ると和紙を取り出し持って帰って来た髪の毛を包み仏壇にお供えして月曜日※∮§≦さんに謝りに行こうと思った。
***
月曜日こっそりとあのトイレに行き和紙と一緒に家で燃やした髪の灰を流すと両手を合わせた。
休み時間に金曜日の夜の事で盛り上がっている4人に合流する。
「洋がドッキリかましたけど凄く楽しかったんだ!なー?あんなに怖い思いしたのは初めてだったよ。」
純一が嬉しそうに話す。
「そうなんだ、ごめんね家出るのが厳しくてさ私も行きたかったなー、綾ありがとうね!」
堀井さんが申し訳なさそうに言う。
「うん、次は堀井さんも行こうね、でもあんまりそういう場所に行き過ぎるとそのうち本当におばけ出てくるかもね。」
綾が答える。
話が上手く理解出来ない、僕は尋ねた。
「え??堀井さん来てたよね?」
「そんな怖い事言わないでよー!綾に電話して行けないって伝えたの聞いたでしょー?もう!」
「またドッキリかよ洋!今のは怖くないぜー!!最初に合流した時に綾ちゃんが言ってたじゃないか。」
笑い声を上げる4人を見ながら1つの言葉が頭の中をぐるぐると回る。
後ろに居た女は誰だ?
この話も彼等に話せないままでいる。
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