第63話 夏合宿へ出発!

 夏合宿の日がやって来た。


「大晴。出来たぞ……。ホノカちゃんのバカンスデバイス……。防水、耐熱仕様で、海水に浸かっても平気だし、温泉に入っても問題ない。思ったよりも苦戦したから、当日になってしまったけども。ホノカちゃんにはいつもの、マーキングした端末に移動する要領で使ってもらえるかな」


 徹夜明けの親父が、ホノカのために作った新アイテムを持って登場。

 なんて頼りになる父親だろう。

 僕もそれなりの誠意をもって応えなければ。


「ありがとう、親父! 留守の間の食事は、冷蔵庫に入ってるから! ただ、それは今日の分だけだから、明日からはカップ麺でも食べといて! 山ほど買っといたよ! 好きなだけ食べて良いからね!!」


「お、おう。コンビニで適当に済ませるから安心してくれ」

「ダメだよ、親父」

「お前、父さんの健康を気にしてくれるのか?」



「いや、コンビニで2日分の食糧買ったら高いじゃん。カップ麺食ってて」

「お前は本当にブレないな。旅行に行く時くらい景気が良くてもいいんじゃない?」



 とりあえず、ホノカのデバイスをゲット。

 別荘に到着したら、早速移動させてあげよう。


 親父が床の上で動かなくなったタイミングで、玄関の呼び鈴が鳴った。

 なんだ、この忙しい時に。

 もう僕たちは出かけないといけないんだけど。


「あ、どもっす! 来間先輩! おはようございまっす!!」

「あ、うん。おはよう、玉木さん。あの、なんでうちに?」


「松雪先輩に来間先輩の家で待つように言われました! いやぁ、ビックリっすよ! 自分の家と先輩のお宅、ものすごく近いんす! 自転車で5分でした!!」

「そうだったんだ。今後は出来るだけ気軽に来ないでね」


「うわぁ! 嫌そうな顔! 来間先輩のそーゆうとこ、自分好きっすよ!」

「どうして僕の周りには精神耐性持ちばかりが集まるんだろう」


 死体みたいになった親父に「行って来ます」を言って、僕とホノカと玉木さんは、家の前で高虎先輩の車を待つ。

 時間に正確な氏の事だから、もう3分もすれば来るだろうと見積もっていたところ、1分で来た。


 さすがは高虎先輩。さらなる高みを目指されるか。


「やあやあ! おはようでござる! 大晴くん、ホノカ氏! それに玉木氏! みんな、体調は万全でござるか? 外は暑いでごさろう? ささ、中へ中へ!」


「お世話になります」

『松雪さん、今日もカッコいい車ですね!』

「お邪魔しまっす! すごいっすねー! ピカピカじゃないっすか!」


「小生の親父殿の持ち物でござるよ。アルファードと言う車種でござる、しかし、車なんて走れば良いのでござる。中に乗る最高の仲間の方が重要でござるよ!!」


 高虎先輩、僕たちの好感度を早速上げにかかる。

 ちなみに、僕のハートは2つ増えた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「おっすー! やー、暑いね! 松雪、運転お疲れ! 来間はナビよろしく!」



「無礼な三次元だなぁ」

「まったく同感でござるねぇ」



「おはようございまっす! 牡丹先輩! 私服姿を拝見するの初めてっすね! 意外とガーリーな感じで、新鮮っす!」

「やー、あははー。そんな風に見られると、恥ずいなぁ! 陽菜乃ちゃんは割とボーイッシュな感じなんだねー! 似合ってるよ!」


『松雪さん! 美海さんからメッセージが来ました! ドラッグストアで経口補水液けいこうほすいえきを買って待っているそうです!!』


 小早川さんの経口補水液に対する異常な信頼は何なのだろうか。

 いや、もちろん経口補水液の有用性は存じ上げているけども。


「この炎天下で乙女を待たせるは重罪! 急ぎ向かおうぞ! 大晴くん、ナビを任せるでござるよ!」

「あ、了解です。ホノカ、表示してくれる?」

『はーい! 位置情報はこちらです!』


 ホノカナビがあれば、世の中で道に迷う者が減るだろうと思う一方で、ホノカに見惚れてわき見運転からの交通事故が増える未来まで予見できた。

 だから、同士諸君はホノカナビを諦めて頂きたい。


 どうしてもと言うのならば、二次元のカノジョを作ったら良い。ふふふ。


 それからアルファード高虎号は僕の道案内で軽快に国道を走る。

 件のドラッグストアは次の交差点の手前にある。


「さて、小早川さんは……。おお、またすごいデカい袋下げてる。デジャヴを感じるなぁ。高虎先輩、ちょっと僕荷物受け取って来ます」


「優しいでござるなぁ、大晴くん」

「意外と紳士っすよね、来間先輩」

「確かに。割と気が利くんだよねー」

『大晴くん、ステキです! むーむー!!』



 なに、この空気。そういう一体感とか求めていないから、本当にヤメて欲しい。



「あ。おはよう、来間くん」

「うん。おはよう、小早川さん。また、えらく買ったね」


「えへへ。頑張っちゃった」

「まあ、いいや。半分持つよ。……やっぱり全部貸して。小早川さんは自分のバッグを後部座席に運ぶと良いよ」


「うん。ありがとう。来間くん、優しい」

「普通だよ。早く乗らないと、着く前に熱中症になるから」


 助手席に戻ると、なんだかみんながニヤニヤしていたので、僕は舌打ちをしておいた。

 浮かれるのは分かるけど、僕をいじって遊ばないで欲しい。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「それでは、これより松雪家の別荘へ向かって出発するでござるよ! 各々方、気持ちの準備はオッケーでござるか? 昂ってるでござるか!?」


「松雪の事をちょっと好きになるくらいテンション上がってるし!」

「自分、カメラの準備は完璧っす! いっぱい写真撮ります!!」


「楽しみ。ね。来間くん」

「あ、うん。僕は、まあ。そこそこに」

『大晴くんもとっても楽しみだそうです! 松雪さん、よろしくお願いします!!』


 こうして、僕たちの夏合宿が始まった。


 ところで、もう一度だけ確認したい。

 こんな事を言うのは無粋を承知しているので、同士諸君に問いたい。



 文芸部の夏合宿ってなんだ。

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