第60話 うちの親父はホノカのスク水をすぐに作ってくれるので自慢の親だと思う

「あ、あああ、ああああ!!」

「親父。口からきゅうりが出てるよ。何してんだよ、汚いな」


 今日の晩御飯は冷やし中華。

 季節感があり、しかも作るのが楽というステキなメニュー。


 基本、麵茹でて具を乗っけてタレかけたら完成すると言う、実に手抜きのような工程のくせに、これが美味しいんだから文句のつけようがない。

 ただ、夕飯にこれだけでは夜中に腹を空かせる不規則な生活の中年がいるので、もう一品。


 春巻きの皮を用意して、ウインナー適当に刻んで、ケチャップライスを作って、チーズを持って来て、それを皮で適当に巻いて、油で良い感じに揚げたらば、ご飯春巻きの完成である。


 これが正しい食べ物なのかは知らないが、冷えてもそれなりに美味しいので、気が向いたら作っている僕の得意料理の一つ。


『むーむー! 今日も大晴くんのご飯は美味しいです! 食戟のソーマだったら、ホノカの服は弾け飛んでいますよぉ! むー!!』

「なんてこった。せめて、おあがりよ! って言えば、ワンチャンあったのに!!」


 あ、そう言えば、冒頭で親父がバグったんだった。

 そろそろ相手してやらないと、口からはみ出しているきゅうりに申し訳がない。


「親父。どうしたの? ついに仕事クビになった? 大丈夫、生きてればどうにかなるよ。僕、大学には行きたいから、土木作業員とかの時給が良いバイト探しておくね」


「発想が悪魔かお前! 我が息子ながらちょっと引くわ! 父さんはな、お前が、女の子と海に行くって事に驚いて、口からきゅうりが出て来たんだよ! あとちょっとで煮卵も出て来るところだったよ! 父さん、ナメックスタイルで産卵しちゃうところだよ!!」


「汚いから、食事中にそういう話するのヤメてくれる?」

「いや、ドライか!! どういう心境の変化でそうなったのか、父さんにも教えてくれよ! これはマジな話、人間の主義主張が変わる経緯って言うのは、人工知能の研究に生かされるんだよ! 父さんの仕事に付き合ってくれ!」


「嫌だよ。面倒くさい」

「スーパードライか!! 発泡酒飲んでる父さんへの当てつけか!!」



『大晴くん! 壱成博士はお仕事頑張っているんですよ! めっ! です!』

「協力してくれたら、ホノカちゃんの衣装にスク水を実装しようじゃないか!!」

「お父さん、何でも聞いてくれよ! 僕はいつも尊敬しているよ!!」



 こうして、親に自分の交友関係を話すという、思春期男子からすると割と拷問プレイを僕は粛々とこなした。

 ホノカのスク水姿が見られるとか、拷問の1つや2つ、どうつてことない。


 ひざの皿を叩き割られるくらいまでなら許容範囲。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「なるほど、部活動の一環でなぁ。小早川さんが良い発奮材料になってるんだな」

「ちょっと待って。別に小早川さんは関係ないよ」


「だって、お前。小早川さんしか部員いないんだろ?」

「ああ、言ってなかったっけ。新入部員が1人増えたの。女子が。それから、生徒会の守沢って子がもうほとんど部員みたいになってる」


「お、おまぁ!! そんな女子だらけの環境にいて、平気なのか!? 動悸やひきつけを起こしたりとかしてないのか!?」

「親父は僕を何だと思ってるんだ」


 デザートに、スーパーで安売りしていたリンゴを剥く。

 ホノカが『ウサギさんが良いです!』と言うので、全力でウサギさんを量産した。


『大晴くんは女の子たちと仲良くしていますよ! 博士のご心配には及ばないのです! なによりわたしが一緒ですから!! ふんすっ!!』


 ウサギさんカットのリンゴをモグモグするホノカが尊い。

 もう僕は、これからリンゴの皮を剝く時、生涯ウサギさんにする事をここに誓おう。


「そうかぁ。いやぁ、大晴がなぁ! 分かった。父さんに任せとけ」

「ホノカのスク水、1時間以内に仕上げてね」


「お、おう。いや、それも良いけど、ホノカちゃんを防水仕様にしてあげないと。せっかく海に行くのに、1人だけビーチに置き去りはあんまりだろう?」



 僕は親父の二次元愛に満ちた考えに敬服した。



「親父、そんな事を考えてくれていたのか! やっぱり、すごい研究者だったんだね! 2日置きに疑ってごめん! 明日は親父の好きなもの作るよ!!」

『大晴くんは親孝行な男子です! これはホノカポイント高いですよぉ!』


「スマホでは心許ないから、専用のデバイスを用意するか。防水はもちろん、耐熱仕様にしなければ。夏の砂浜って熱いからなぁ。そうなると、バッテリーの根本をいじらないとダメか。よし、アメリカに発注しておこう。10日後だったな? 間に合わせるから安心しろよ!!」


 明日の晩ごはんはウナギにしよう。

 日本の宝である研究者な親父だったら、ウナギを食べる資格があると思われた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 部屋に戻って、ホノカとイチャコラしていたら、彼女の頭上に「!」と表示された。

 ……来たか!?


『むーむー! 壱成博士から、スク水のデータが送られてきましたぁ!!』

「着てください。お願いします。僕に出来る事なら何でもします」


 男は簡単に土下座をしてはいけない。

 心から必要だと思う時以外にそれをすれば、いざという時に価値が下がるからだ。


 それを踏まえた上で、僕は土下座をした。


『じゃじゃーん! ホノカ、スク水バージョンです! これは一般的に旧スクと呼ばれる仕様のようですね! どうですかぁ?』

「明日死んでも、多分僕は成仏できると思う」


『ではでは、お願い聞いてもらっちゃいますよぉ?』

「貯金は10万あるよ。全額下ろしてきたらいい?」


『夏休みも、美海さんの事を気にかけてあげてください! 異国で過ごす初めての長期休暇ですから、色々と心細いと思うんです!』


 あまり気は進まないが、ホノカの言う事ももっともだと思ったし、何よりホノカのお願いを僕が突っぱねるはずがない。


 明日辺り、ラインでもしてみるか。

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