第39話 イベント会場の下見に行こう!
高虎先輩の運転で、ようやく当初の目的地である
車内では、なんだか表情に締まりのない小早川さんが、ホノカと楽しそうに話をしている。
状態異常攻撃でも喰らったのだろうか。
『良かったですねー。美海さん、一気にオシャレ
「うん。えへへ。来間くんのおかげ」
助手席に座って、女子トークには介入せずを貫く僕だけど、必要な時には口を挟む臨機応変さを持ち合わせている。
「僕は何もしてないってば。高虎先輩と
「えへへ。うん。そうだった。来間くんとホノカちゃんと松雪先輩と弥子さんのおかげ」
「はぁ……。まあ、もうどうでも良いよ。好きにして」
「うん。好きにするね。このお洋服見る度に、今日のイベントを思い出すの」
小早川さんは本当に好きにするから困る。
アメリカには皮肉とかないのかな?
「小生としては、実に有意義な時間の過ごし方ができて嬉しいでござるよ。弥子姉さんも喜んでいたし、これはみんな幸せなパティーンでござる」
「僕は貴重な休日を無為に過ごしているようで、ちょっと不服ですけど」
「ツンデレでごさるなぁ」
『むーむー! 大晴くんはツンデレです!』
「えへへ、ツンデレなんだね」
なんだろう、これまで感じた事のない、このアウェー感は。
これ以上何を喋ってもマホカンタされる気がして、僕は反論を諦めた。
代わりに、目的地の説明でもして時間を潰そう。
涼風多目的ホールは、バンドのライブから演劇、市の主催する成人式をはじめとしたイベントに講演会、そして今回のコスプレイベントなど、まさに多目的の名に恥じぬ用途は多岐にわたる。
建設には税金が投じられたため、当初は批判的な意見もあったらしいが、数年前にドラマの撮影に使われた事で若者の支持を得て、さらに人気イケメン演歌歌手が定期的にコンサートをするようになって、主婦層の支持も得た。
もの言う市民を味方につけたら、もう勝負あり。
一番税金を納めている働くお父さん層は基本的に何も言わない。
涼風市はなんと穏やかな街だろう。
「到着でござるよ。ささ、各々方、我らが戦場の視察に繰り出すでござる!」
随分遠回りをしたけども、ようやっと当初の目的が果たせるらしい。
もう、早いとこ済ませて帰ろう。
あと、高虎先輩は運転お疲れさまでした。
◆◇◆◇◆◇◆◇
『やや! すずめるるちゃんを発見しましたぁ!』
「あ。この鳥さん? そんな名前だったんだ。知らなかったよ」
ホノカのお気に入り。
涼風市のマスコット、すずめるる。
気付いた時からマスコット面しているものだから、まったく異物感がない。
多目的ホールの入口に、2羽も銅像が立っている。
誰か税金の無駄遣いすんなって叫ばないのか。
いらないだろう、マスコットの銅像。
よしんばいるとしても、1羽までだろう。許容範囲は。
『大晴くん、松雪さん! みんなで写真撮りましょうよ! 写真!! すずめるるちゃんと一緒に! これは
「じゃあ、私のスマホで撮るね」
ホノカが撮りたいって言うのなら、断る理由なんてあるはずもなく。
気付けば僕以外のメンバーはスタンバイしていた。
仕事が早いなぁ。
『皆さん、笑顔ですよぉ。大晴くん、もっと笑って下さい!!』
「結構全力で笑ってるよ?」
『もっと本気が出せるはずです! いつもの大晴くんの笑顔は、思わずキスしたくなっちゃうくらいステキですよ!!』
本気を出さない理由を知りたい。
こうして、僕の本気スマイルが悪しき記録に残されたのち、みんなで中央イベント広場に向かった。
高虎先輩ナビによると、コスプレイベントはこの広場が戦場となるらしい。
「ご覧の通り、屋根がある部分の極めて少ない場所でござるゆえ、当日は水分と塩分の補給はマストでござる。女子はスキンケアも必須でござるぞ」
「はい。メモしておきます」
『おおー。美海さんのやる気! わたしも記録しておきます!』
じゃあ、僕は何もしなくて大丈夫かな。
それにしても、本当に遮蔽物がまるでない。
当日の天気によっては、どこか休憩できるスペースが欲しいところ。
「ふふ。大晴くんのご
「ああ、そうなんですか。良かった。先輩以外は素人ですからね」
「来間くん。優しい。みんなのこと考えてくれてたんだ」
『本当に大晴くんはステキな彼氏です』
「まったくもって同感でござるなぁ。よっ、この性格イケメン」
何なんですか。
今日は僕をいじらないといけない縛りプレイなんですか。
いい加減にしないと、タクシー拾って帰りますよ。
「そう言えば、着替えってどうするんですか? トイレとか?」
「おっと、大晴くん。レイヤーにとってトイレを更衣室替わりにするのと、家からコスプレしてくるのはギルティでござる。そんな事をしたら、レイヤーの
なんと、そんな鉄の
僕の没個性な顔が、ネットの大海に欲しくもない汚名を得て船出してしまうところではないか。
「コスプレイベントにおいて、着替えは戦争でござる。今回みたいな小規模の場合、いくつかの部屋を更衣室としてあてがわれるので、持ち物の管理は厳重に」
確かに、窃盗犯がさも暗躍しそうな話である。
僕たちは全員で「着替えが一番ヤバい」と復唱した。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「なかなか有意義な1日でござったな! では、小生は小早川氏を送って行くでござるよ。大晴くん、ホノカ氏。来週のイベントでまた会おうでござる! 何か分からない事があれば、いつでも連絡を!」
「じゃあ、来間くん。また、学校でね」
「うん。またね」
『美海さん、わたしはあとで遊びに行きますねー!!』
僕とホノカは、家の前でもう一度、本日ドライバーに徹してくれた高虎先輩にお礼を言って、走り去っていく車に向かって手を振った。
『大晴くん、大晴くん! 楽しみですね、イベント!!』
「そうだね。ホノカと一緒なら何だって特別なイベントに早変わりだよ」
ウキウキしながら話をしている僕とホノカ。
足元にモニョっとした感触を覚えて下を見ると、親父が倒れていた。
ああ、そう言えば無理言って働かせたなぁと思い起こして、とりあえず冷蔵庫から出したアクエリアスを死体に乗っけたら、晩ごはんの支度をする僕。
当日は晴れるだろうか。
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