第32話 ホノカのウキウキ! スリーサイズチェック!!

『大晴くん! 牡丹さんを呼んでください!』

「ええ……」


 せっかくの放課後に、三次元を増やせとホノカが言う。

 条件反射で嫌そうな顔をしてしまったが、ホノカが言うなら仕方ない。


「でも、僕は守沢の連絡先を知らないからなぁ」

「あ。私、守沢さんと交換してるよ。はい、来間くん。どうぞ」


 小早川さんが自分のスマホを僕に寄越して来た。

 気持ちはありがたいけど、もっとスマートな方法があると思うんだ。

 スマホだけにさ。


 アメリカでは違うのかな? じゃあ、教えてあげよう。


「小早川さんが電話してくれたら助かるんだけど」

「え。だって、お友達に電話とか、そんなリア充みたいな事できないよ」



 最近、小早川さんにどんどん親近感を覚えてきている僕は危ない。



 学校のクールでミステリアスなヒロインの言っていいセリフではなかった。

 そういえばこの子、クラスのグルーブラインでもたまにスタンプ貼り付けるだけで、ほとんど何も発言しない。


「もしかして、小早川さんって人付き合い、苦手な感じ?」

「むぅ。そんなことないもん。ちょっと一歩踏み出せないだけだよ」


 それを苦手と言わずして何と呼べばいいのか。


 ちょっと待て。

 でも、僕にはやたらと長文のメッセージ送って来るじゃないか。

 つじつまが合わないのですが。


「昨日、リーディングシュタイナーについて、1000文字くらいのメッセージ送って来たよね。夜中の1時にさ」

「来間くんは平気。だって、仲間だもん」


 なんだか暖簾のれんに腕押しがピッタリフィットするやり取りになって来たので「うん。だいたい分かったよ」と言って、僕はスマホを受け取った。

 こういうのは勢いで行く。通話ボタンをタップ。


『おー、どしたん? 美海ちゃんから電話とか、珍しいねー! はろはろー!!』

「やあ、守沢。僕だけど」


『……来間か』

「すごいな。どうして分かったの?」


『いや、時間と場所を考えて、そこにそのテンションが低い声となれば、答えはおのずと来間でしょ。なに、どしたん? あたし忙しいんだけど』

「ホノカが守沢に用事があるって言うんだけど。そっちの用事は適当に誰かに任せてこっちに来てくれる? ホノカが待ってるから」


『自分勝手が過ぎる! あのね、あたしは副会長なんだけど!? 忙しいの!!』

「高虎先輩が昨日来てさ。水ようかん置いてってくれたんだけど」



『すぐ行く!』

「清々しい俗物だなぁ」



 そして守沢は本当にすぐ来た。

 ホノカの指示で水ようかんを守沢に与え、その隙に小早川さんが心張しんばぼうでドアをロック。


 だいたい僕も理解できた。

 守沢がひどい目に遭うパターンだな、これ。



◆◇◆◇◆◇◆◇



『それでは、皆さん! これから正確な採寸をしようと思います!!』


 スマホの中には、ジャージに鉢巻き姿の張り切りホノカさん。

 なんて尊い。服を脱げばいいのかな?


『あ、大晴くんは平気ですよ! ホノカはバッチリ把握していますので』

「そうなのか、残念。いや、でもそれはそれで嬉しい!」


「えっ、ちょっ、なに!? 服脱がされるの!? なんで!? あたし、水ようかん食べに来ただけなのに!?」

「守沢さん、平気だよ。水着と下着って似たようなものだから。恥ずかしくないよ」


 このままではえらい事になる。

 しかし、ホノカさんに抜かりなし。


 高虎先輩から、コスプレ衣装の仕上げが間近なので、正確な体の数値が欲しいと連絡があった事を彼女は説明した。

 氏のコスチュームは繊細緻密な構造で、2センチサイズがズレるだけで真なるパフォーマンスが発揮されないらしい。


「や、ちょっと待って! 話は分かったけどさ、そこに来間いるんだけど!?」

「ああ、お気になさらず。まったく興味がないから」



「気にするわ! バカなんじゃないの!?」

「大丈夫だよ、守沢さん。来間くん、本当に気にしないから」

「美海ちゃぁぁぁん!!」



 愚かな守沢に、ホノカがさらなる説明を授けてくれる。

 ああ、神々しさすら感じるなぁ。


『ご安心を、牡丹さん! 服を脱ぐ必要はありません! わたしのホノカアイを使えば、着衣のままで採寸ができるのです! どやさぁ!!』


 データを取り込ませたら、うちのホノカに敵うAIはいない。

 なんと彼女は、『西高の制服の情報は既に持っているので、その分差し引いて体のサイズを把握できます!』と言う。


 僕も彼氏として鼻が高い。

 なんて優秀で仕事のデキる女の子だろう。

 将来はホノカの下で働きたい。


「うぇー。まあ、そーゆうことなら、うん。ホノカちゃんと美海ちゃんの頼みだし」

「良かったよ、守沢が話の分かる三次元で」

「来間に褒められると、なんかキモい」



「安心して。褒めてないよ」

「腹立つなぁ! 水ようかんがなかったらもう直帰してるんだけど!!」



 そして、ホノカによる採寸が始まった。

 僕がスマホを守沢に向けると、ホノカが『ふむふむ』と言う。

 何をしているのかが僕の位置から見られない痛恨の失策。


『なるほどー。牡丹さん、意外と……。着やせするタイプなんですね! じゅるり』


「えっ!? なんでホノカちゃん、そんな悪い顔してるの!? じゅるりってなに!?」

「安心して、守沢さん。女の子同士でスリーサイズに興奮するのは普通だから」



「美海ちゃん!? なんか、最近会うたびに距離を感じるようになってきたよ!?」

「あ。出たの? 見せて、見せて。わぁ。Dもあるんだね」

「美海ちゃぁぁぁぁん!!!」



 守沢がなんだかよく分からないけど、崩れ落ちて行った。

 相変わらず、三次元の行動には一貫性がないから理解に苦しむ。


『次は美海さんです! と言っても、わたしと数字は変わらないと思うんですけどぉ。でも、一応良いですか?』

「もちろんだよ。好きなだけ見てくれていいよ」


『それでは、サーチ開始です! ふむふむ。あれ? 美海さん、サイズEですよね?』

「そうだよ。ホノカちゃんもでしょ?」


『わたしの採寸によれば、限りなくFに近いEになっています! これは、早急にブラを買い替えなければですよ! 発育に影響が出てしまいます!』

「そうだったんだ。そう言えば、最近なんかキツいなって思ってたの」


 守沢がこちらをじっとりとした目で見ている。

 なんだか、いわれなき軽蔑をされている予感がする。


「言っておくけど、僕は三次元の体のサイズがどうなったって気にならないよ?」

「……ホントかー? そういうヤツほど、むっつりなんだよねー」


『大晴くん、ホノカ、胸が大きくなっていましたぁ!』

「本当に!? うわぁ! もう、そのセリフだけでそこはかとなく興奮する!!」

「……………」


 こうして、ホノカによる採寸は完了した。

 着実にコスプレの準備が進んでいく。

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