第26話 来間大晴、悩む
家に帰った後、親父に「これ食っとけ」とコンビニで買って来たおにぎりを数個投げつけたのち、僕は速やかに自室にこもった。
原因は明らかである。
小早川さんの意味不明な告白。
端的に情報をまとめると、こうなる。
1つ目が、ホノカの研究に協力した理由を僕に知ってほしかった。
2つ目は、小早川さんが編入してきたのはホノカのため。
3つ目に、ホノカのテストプレイヤーの僕を観察していた。
ここまでは、どうにか、5万歩くらい譲れば理解できない事もない。
問題は4つ目。
僕に興味があると彼女は言う。
意味が分からない。
小早川さんだって、オタクなら誇りを持って欲しい。
三次元に興味を持ってどうするんだ。
別に、恋愛するなとか暴論を振りかざすつもりはない。
けれども、よりによって僕なんかに興味を持たなくてもいいじゃないか。
そんな事言われて、僕はどうすれば良いんだ!
「ホノカ。教えて欲しいんだけど」
『なんですかぁ?』
「小早川さんが何考えてるのか、前にも増して分からなくなったよ」
『んー。その相談に乗る段階ではまだありません。しかるべきタイミングで、もちろん相談に乗っちゃいます! ノリノリで乗っちゃいますよ!!』
頼みの綱のホノカ。
だけど彼女は、「まだ時ではない」と言う。
「時が来たら相談に乗る」と言った彼女の考えを覆せるだろうか。
無理だ。僕のホノカの考えだぞ。僕が尊重しないでどうする。
しかし、これではあまりにも心がモヤモヤして寝付けるかどうか怪しい。
ホノカがダメなら、せめて別の誰かに話を聞いて欲しい。
その
『それなら全然オッケーですよぉ! わたしも美海さんと内緒話してましたし! 恋人でも、プライバシーはあって当然だと思うのです!』
なんという理解のある恋人だろう。
彼氏のGPSを追いかけたり、ラインを盗み見したりしている愚かな三次元に告ぐ。
世界よ、これがアプリのカノジョだ。
三次元に宣戦布告したのち、僕は三次元に電話をかける。
矛盾してる? 大丈夫、オタクに恋は難しいって言うじゃない。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「あ、もしもし? 高虎先輩、今って時間大丈夫でした?」
『平気だよ? コスプレ衣装作ってたからね。どうかしたのかい?』
『おじゃましまーす! 大晴くんが良いって言ってくれたので、ホノカも参加しちゃいます!』
『ほ、ホノカたんキタコレ!! おおー! テレビ電話でも分かる最強の可愛らしさ! キタコレ、キタコレ! んほぉぉぉお!!
相談する相手を間違えた可能性が一瞬で70%を超えた。
しかし、他にこんな話ができる相手なんていないので、致し方なし。
親父? 自分の父親と女子の話するとか、死ねって言ってるのと同じだよね?
「あのですね、ちょっと相談があるんですよ」
『キタコレ! スクショ撮りたい! キタコレ!!』
「僕、高虎先輩のコスプレしてる写真、実名付きでネットにばら撒きますよ?」
『とんでもない脅し文句!! 分かった、聞くからヤメてもらえるかい?』
僕は、今日部室で起きた事をだいたい話した。
話した途端に「キタコレ!」と言う高虎先輩。
まずは、キズナアイの写真からだな。
『待ちたまえよ! 今のキタコレは、大晴くんに春がキタコレと言う意味だよ!!』
「何を言ってるんですか?」
『だってそれ、完全に君の事好きじゃないか、小早川氏! ラブだよ、ラブ!』
「そんなバカな! 彼女だって言ってましたよ、好奇心だって」
『大晴くんはアレだね! 色々とアレだ! 小生だって女子とお付き合いしたことはないけど、今の話を聞いてラブストーリーが突然に始まった事くらいは分かるよ! キミキスとアマガミをプレイし直したらどうだい?』
高虎先輩はいつになく断定的な口調で語る。
キミキスだってアマガミだって、フォトカノも、全ヒロインの全ルートをクリアしています。
「だって、本人が言ってるんですよ? そんなの、推測でしかないじゃないですか!」
『大晴くんも強情だね。じゃあ、ホノカ氏の意見も聞こうじゃないか』
いいでしょう。
僕の彼女のいう事ならば、それはきっと絶対的に正しい。
『んふふー! まだ言えませんが! でもでも、キュンとしちゃう展開ですよね!』
『ほらぁ! 聞いたかい、大晴くん! ホノカ氏だってラブって言ってる!』
「えっ!? そうなんですか!?」
その後、話は平行線をたどるので、いい加減バカらしくなってくる。
そもそも、三次元女子の心理を暴こうという自体、僕にはレベルが足りなさ過ぎる。
こういうのは、どこかでレベル上げして、しかるべき準備を
『いいじゃない、大晴くん! ついに三次元でリア充デビュー! 小生は応援するし、祝福もするよ! ハッピーウェディング!!』
「いや、そういうのはいいんで。僕にはホノカがいますから。これ以上何かを望むのは罰当たりと言うものです」
あと、そもそも三次元は望んでいないから。
これは大事なところである。
僕はオーダーしていないのに運ばれて来た料理を前に頭を抱えている。
しばらく雑談に興じて、コスプレの話になるとホノカがテンション高めで乗っていったので、僕は「ホノカは可愛いなぁ」と眺めていた。
結果として、高虎先輩との通話で得たものは、氏のよく分からない恋愛力学と、こちらはよく分かり過ぎるコスプレ愛について。
何にしても、電話で時間を貰ったのは事実なので「お忙しいところすみませんでした」と丁寧にお礼を言って、通話を終えた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
『大晴くん、大晴くん! 質問があるのですが、良いですかぁ!?』
「もちろん! 僕はもう、ホノカの質問にだけ答えていたい!」
そうだ、ウザったい宿題めいた議論なんか、その辺に置いておこう。
そしていい感じに土に
『大晴くんは、美海さんが好きって言っても、ホノカとの関係を選びますか?』
「当たり前だよ!」
即答できる質問で助かった。
秒で答えるどころか、今のはコンマ何秒の世界。
明日からアイルトン・セナの後継者を名乗ろうか。
『むーむー。それはとっても嬉しいです! けれど、ちょっぴり困りました! 大晴くんは結構面倒な人なのかもしれません! ホノカは学習しました!』
「ええ……。なんか、酷い事を言われてない? 傷つくなぁ」
『面倒な人でも、わたしの大好きな彼氏さんに変わりはありませんよ!』
「あ、そうなの!? じゃあ、いいや! 面倒でもなんでも!!」
ホノカの大好きは、全てを優しく包み込んでくれる。
僕の中に湧いた、ちっぽけな疑問も例外なく、フワフワした泡に包まれて空高く昇って行った。
もう帰って来るなよと念を押して、僕は眠りにつくのだった。
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