第21話 僕の聖域に新入部員が正式加入した件
「わぁ。これで今日から一緒だね。ホノカちゃん。来間くん」
『ですね、ですねー! とってもアガるってヤツですね!! ね、大晴くん!!』
2人がとってもアガる事に関しては、異論なんてものは存在しない。
ホノカはテンションが上がっても可愛いので、スマホが熱で耐えられなくなるまではどこまでもアガってもらいたい。
小早川さんも、日頃からストレスを抱えていたとは知らなかった。
ならば、テンションを上げることに僕は待ったをかけるのも残酷。
ただ、わざわざ文芸部に入らなくても良かったじゃないか、と思わずにはいられない。
「コラー! 御用改めである!! あれ、今日も開いてる。ちょっと、最近不用心なんじゃないの? 来間ー? おや、美海ちゃんだ」
守沢がやって来た。
僕は、この副会長、自称・鬼の副長を利用できないかと考えた。
親父は生活力がなくてどうしようもない大人だが、その頭脳と技術は僕も認めるところ。
ならば、僕にだって
遺伝子学とかよく知らないが、そう言う遺伝があったって良いと思う。
お願いだから、良いって事にしておいてくれないか。
「美海ちゃん、どしたん? こんな学校の
「ううん。そんなことないよ。私が自分から来たの」
『
「ありゃ、ホノカちゃん! おっすおっすー!! で、自分で来たとはどういうことかね!?」
ここしかない。絶妙のタイミングを僕は察知した。
我ながら、完璧と言っても良い。
「いやぁ、小早川さんが部活を探しててさ。うちに入りたいって言うんだよ」
まずは守沢が「暗部」とまで言う我が文芸部の、悔しいけども汚名を利用する。
「僕は、もっと彼女に向いている部活があるような気もするんだけど」
そして、守沢のお節介焼きの精神を弱火でじっくりと
「そういえば、守沢って生徒会とは別にテニス部も兼部してたよね? どんな感じ?」
最後は強火で一気に仕上げる。
どうだ、この完璧な方程式は。
もう、小早川さんを救いたくて、我慢できないんじゃないのか? 守沢?
「テニス部? ダメ、ダメ! 美海ちゃんせっかくお肌白いのに、日焼けするじゃん! 髪も痛むし、スキンケアはダルいし、テニス部はおススメできないっしょー!」
「自分の部活のこと、そんな風に言うなよ!!」
「お、おう。なに、どうした、来間? あんたテニス部好きだったん?」
「いや、ごめん。よく考えたら何でもなかった」
守沢はパッションに訴えるタイプの情熱派で、まさか理屈による反撃を喰らうとは予想外だった。
だが、まだ終わってはいない。
「いやー、でも文芸部かー。確かにね、冷蔵庫完備、冷暖房使い放題、ゲームに漫画にラノベにアニメと、色々あるから居心地は良いだろうけど」
何かつけ入るスキはないかと様子をうかがっていたところ、思わぬ動きが。
小早川さんがここで前に出た。
「私が文芸部に入りたいのは、日本の文化をよりよく知りたいからなの。サブカルチャーって、日本の文化の完成形だと思うし。それを熟知してる来間くんは、とってもステキな先生になると思うんだ」
守沢が呆気に取られている。
かく言う僕も、口を開けて、餌を貰う時の鯉みたいな間抜け面。
小早川さんも、そんなに早口で喋ることってあるんだ。
「なるほどねー。うむ! そーゆうことなら、あたしは応援しちゃう! しっかり学んで、楽しい事たくさん見つけて欲しいし!」
『おおー! 牡丹さん、頼りになりそうな発言!』
「やー、ははは、そんな風に見えちゃう? んもー、仕方ないな! あたしも余裕あるときはなるべくここに寄るようにするから! みんなで頑張ろー!!」
『おーっ!! ほら、美海さんも!』
「おー!」
なんか、余計なのが増えただけだった。
何が遺伝子学だ。
生半可なことを言うから、メンデル先生の怒りを買ったのだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「という事で、今日からよろしくお願いします」
『これで文芸部は3人になりましたね! みんなで仲良く過ごしましょう!!』
「そうだね。もう諦めた……いや、もうなるようになれば良いよ」
キョロキョロと辺りを見回す小早川さん。
まあ、彼女には物珍しいものばかりだから、当然の反応だろう。
「気になるものがあったら、好きに手に取ってみていいよ。僕も高虎先輩から譲ってもらったくちだから、ケチな事は言わないからさ」
「うん。でも、すごくいっぱいあるから、迷うね。来間くんのおススメが聞きたいかも」
「おススメって言ってもなぁ。日本っぽいってのを求めるんだったら、ホノカと読んでるBLEACHとか、鬼滅の刃とか」
「あ。その作品、どっちも知ってる」
「そうなんだ。まあ、海外でも人気みたいだからね。ゲームだったら、ペルソナシリーズとか良いかも。日本の高校生が主人公だから」
「ジョーカーとか出て来るヤツだ。それも知ってるよ。やったことある。プラチナトロフィーまでだけど」
「いや、すごいやりこんでるじゃん!? プラチナまで、って表現がもう既にオタクなんだけど!?」
ああ、いや、待て待て。
小早川さんに向かってオタク呼ばわりは良くなかった。
たまたまペルソナ5にドハマりしたと考えるのが自然。
だって面白かったもんな。
「小早川さん、ゲームとかするんだね。ちょっと意外だったよ」
「アメリカにいた時、あんまり同じ趣味のお友達っていなかったから」
まずい。悲しい過去みたいなスイッチが、目に見える地雷が近くにある。
マインスイーパーもやり込んだ僕には分かる。
よし、
「じゃあ、アトリエシリーズとかどうかな? どの作品もキャラ可愛いし、最近のシリーズだと制限時間がないから、自分のペースでできるよ。ここにはPS3からしかないけど」
「うん。久しぶりにやろうかな。私としては、アーランドシリーズまでの制限時間アリの方が、効率の良い方法を見つける楽しさもあって好きだったんだけど。でも、そのせいでシリーズが先細りになっちゃうのは嫌だし、アーランド以降も好きだよ」
小早川さん、ガチオタじゃないのか。
僕は一旦、小早川さんに本棚の探索を勧めてから、ホノカには僕のスマホに戻って来て貰う。
普段なら、「おかえり!」と言った後、しばらく楽しい会話を堪能するのだけど、ちょっと今回は確認が先。
「ホノカ? 僕の気のせいなら良いけど、小早川さんさ。……オタクじゃない?」
『んっふっふー! そこに気付いてしまいましたかぁ! そうです、美海さんは大晴くんに匹敵するオタクです! これまではインドア派だったのですが、今回、大晴くんと一緒にコスプレデビューして、オールラウンダーを目指しています!! ふんすっ!!』
満足そうなホノカさん。
その感情に水を差すのはと思い、僕は次に発するべき言葉を探した。
ギャルゲーのように選択肢が出てくれたら良いのになどと思いながら、
「どうりでホノカが小早川さんを推す訳だ」
『えへへ。気が合いそうでしょう? 彼氏の環境を一番に考える、彼女の
ドヤ顔が可愛いから、もう無駄な思考力は使わず、とりあえず眺めとこう。
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