最高到達点の君と、いずれ到達する僕の話。

最早無白

最高到達点の君と、いずれ到達する僕の話。

「これより第百四十七回亀屋かめや高校、卒業式を閉会します。卒業生、退場」


 二時間ほどの退屈な時間をなんとか寝ずに耐え、やがて三年一組には終わりが訪れる。最後の一年間を駆け抜けたクラスメイト達ともしばしのお別れだ。


「では次。藤宮ふじみやさん、お願いします」おっ、僕の番だ。


「はい。えー……最後の一年間、なんだかんだこのクラスで良かったなぁと思います。進学や就職もあって、また集まれるのはいつになるか分からないけど……。まあ、僕は重乃しげの大に行くので、近い人は一緒にメシでも行きましょ! 最後に不破ふわ先生、それとみんな、本当にありがとうございました!」


 ぱちぱちと暖かい拍手をもらう。それなりに良さげなメッセージも伝えられたし、次のヤツにさっさとパスだ。


北鐘ほうしょうさん、お願いします」「はい」


「一年間、人によっては二年や三年、? ありがとうございました。亀屋で学んだたくさんのことを、この先の人生で活かせたらと思います! あ、実は私も重乃大に行くので、ご飯のお誘い待ってます。……あ、コイツ抜きでも大丈夫ですよ~」


 北鐘夜深よみ。勉強:学年一位、運動:マラソン大会二連覇、顔:かわいいの三拍子揃った所謂『いい女』。僕の幼馴染であり、それゆえ十五年に対応する人物はもちろん僕である。コイツが亀屋高校を選んだ時は、まあ頭いいし妥当かー、と何も意識していなかったが、まさか大学まで被るとは。もっと偏差値の高い所にも行けるだろうに。ともあれ、僕がフリになったおかげで、彼女は多くの拍手をかっさらった。


 そして僕は、この後コイツとケリをつける。

 昨晩のうちに『明日時間ある?』『話すことがある』とCHAINEチェインも送った。五分もしないうちに『了解』とだけ返ってきた。ああ、望み薄。


「それでは……みなさん、またいつかお会いしましょう……! さようなら!」


「「「「「さようなら!」」」」」


 三年一組、解散。これからの明るい未来に向かって、各々は眩しい笑顔を振りまきながら教室を後にし、僕と夜深の二人だけが残る。


「話って……なに? ま、大体分かるけど」


「ああ……多分予想通りだと思う。でも、最後にこれだけは言っとかないとだから。夜深……今まで、ずっと好きだった! 良かったら……僕と付き合ってくれ!」


 いくらこんな告白をしたって、どうせ僕なんかではコイツとは釣り合わない。ならばいっそ、夜深から完全に卒業する。大学でも極力会わないように立ち回る。十五年間で積もった思いを全部伝え、吹っ切れるきっかけを作って強制的に夜深から……いや、夜深に依存している僕自身を卒業する……!


「では質問です。あなたはもう今以上に頭が良くなることもなければ、社会的地位が上がることもないとします。さあ、どうする?」


 ……えっ? なになになになに!? いきなりどうしたんだよ!?


「いや……どういうこと? 付き合えるのかどうかの話はどこに行った?」


「えっとね……気持ちはすごい嬉しいし、私も高陽たかはるのことが好き……。だけど、高陽と私じゃ釣り合わない!」


「それくらい分かってるよ! 夜深は勉強ができて運動神経もすごくて……。それに、十五年前に初めて会った時から今の今まで! 最高にかわいいじゃんか……!」


 いくら全部伝えると決めたからって限度があるだろ! 何やってんだ僕!


「はぅっ……そんな褒めなくてもいいでしょ! というか逆っ!」


「逆ぅ? 僕なんか何にも良い所ないでしょ」


「覚えてないかもしれないけど……高陽はずっと一人だった私と仲良くしてくれたから。私にとって初めての友達で、初めて好きになった人だから……」


 単純に夜深がかわいかったから声をかけた、なんて言えないよなぁ……。


「そっか。あと質問の答えなんだけど、好きな人……夜深と一緒にいれないのに、強くなったって意味ないかなって思う」


 そもそもの前提がおかしいような気もするが……頭の良い夜深が言うんだから多分合ってるんだろう。僕は真摯に答えただけだ。よし、何も間違ってないな!


「いちいちずるい……じゃあ、私はこのままでいいの? ダメならもっと勉強するし、もっと体鍛えるけど……」


「いやいいいい! 僕にとって夜深は、いつだって最高到達点にいるんだから! 僕はそんな最高な夜深と、一緒にいたいだけだから!」


「うん、私もずっと一緒にいたい! そのために十五年、勉強も運動も全部頑張って、ちょっとでも見てもらえるようにアピールしてたのっ! それで今日、高陽に思いを伝えようとしたら、まさかそっちから告ってくるとはだよっ!」


「ああ、ずっと一緒だ! 夜深が頑張らなくても、隣で全部見てるから! だからゴールの向こう側を目指さなくたっていい! ……誰にだってゴールは訪れるよ。早いか遅いか、良いか悪いかだけ。夜深はすごいから、もう充分すぎる所まで行っちゃった。僕はまだゴールまで行ってないから、夜深の隣で一歩ずつ最高到達点ゴールに向かって進んでくね」


「……うん!」

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最高到達点の君と、いずれ到達する僕の話。 最早無白 @MohayaMushiro

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