ロリババア魔女がこんな美人なお姉さんな訳が無い

霖雨 夜

序章

「おい!無法者!」

 まるで人が法律を無視した横暴な人間かのように言う女児の見た目をしたこの人は僕の隣人だ。

 隣人と言っても、僕のおじいちゃんが持っている山に勝手に住み着いていた魔女だ。

 僕の住む使魔市は使い魔ではなく、魔法使いがいたと言われている。

 しかし、今じゃ普通の人間ばかりだ。

 今目の前で僕のドーナツを盗み食いしてる女児の言葉を借りれば無法者ばかりということになる。

 そう、魔法が使えない者という意味で彼女は使っているらしい。

「ちょっとそれ僕のおやつですよ」

「しらん。私の目の前にあったのだ。私のものだ」

 勝手に人の部屋の窓から入ってきておいて何様なのだ。

 窓の鍵を閉めていても、魔法で開けてしまうので対策のしようがない。

 今日のおやつは諦め、彼女の住む山の方を見る。

「そういえば今日、この山でお祭りがありますね」

 なにやら提灯が木々の隙間からチラホラ見える。

「その準備のせいで無法者まみれでいられなくなりここに逃げてきたのだよ」

 憤慨したようにドーナツを握りしめ、フガフガと声を荒らげる。

「仕方ないですね。僕は特に祭りに行く予定ないのでこのままここにいますか?」

「なんだと。ふん、この私が無法者の家に転がり込むなどあってはならないことだが、今日は緊急事態とみた。仕方ないその話に乗ってやろう」

 珍しく話の早いちびっこ魔法使いは、手をパンパンとはらい、高すぎる椅子から飛び降りると、ベッドの端に座る僕の目の前までとてとて歩いてきた。

「ただし、お前は物置で寝るのだ無法者」

 ビシッとベッドとは逆方向にある物置を指さし、ニヤリと笑う顔はどう見ても小学生くらいの女の子がしていい表情ではなかった。



 そんなこんなで、今日うちに妹くらいの年頃の女が止まることとなってしまった。母親は大歓迎!夕食がめちゃくちゃ豪華になった。父親は本当に僕の部屋でいいのかと聞いていたし、じいちゃんとばあちゃんは孫が増えたって大喜びだった。

 全てにいつものあけすけな態度で返していたが、美味しいものをたらふく食べたあとは少しは満足気な態度をとっていた。


「ふーお前の母上はとてもいい調合を知っているんだな。こんなに美味いものもう百何年ぶりに食べた」

「え、ルリアさんってそんな長生きなんですか」

「お前は魔法使いがどれくらい生きるものなのか知らんのか」

「魔法使いについてはあんまり興味なくて……」

 自分の無知を誤魔化すために窓の方を見る。すっかり暗くなった山を提灯の赤が彩っていた。

「お前はあの山で明日行われる祭りがなんのためなのか知っているか?」

「いえ……」

 生まれてこの方あの祭りに行ったことも、詳しく聞いたこともなかった。

「お前はなんも知らんのだな。あの祭りはな、魔法使いの長生きを願う祭りなのだ。ただ、本当の魔法使いが伝授した本当に長生きできる薬を祠にお供えしているから、あそこに置かれた薬を飲んでいる間は死なぬのだ」

 自慢げに鼻を鳴らすルリアさんを横目に疑問に思ったことを聞いてみる。

「へぇ……じゃあなんでルリアさんだけになっちゃったんですか?」

「……知った方がいいことと知らん方がいいことがあるんだ無法者」

 暗い顔で呟くルリアさんはつまらなさそうに電球の紐を触れずに魔法でクルクルと回していた。

「というか今日向こうに居なくていいんですか?」

「あのな無法者。私はもともと住む地域が違うのだ。だから別の方法でその薬を得ていたのだよ」

「そうなんですか!」

「ああ!そしてその薬というものがだな……」

 調子を取り戻したように元気になったルリアさんはゴソゴソと服についたポケットをひとつずつ漁っていく。

「……毎年同じ日に飲まねばらなくてだな。私は毎年今日に飲んでいてだな……」

 最後のひとつまで探り終えるとさっきまでのドヤ顔をそのままに一言

「忘れてきた!」

「ええ!?大丈夫なんですか!?」

「えぇい!うるさい!一日くらい誤差だ!大丈夫に決まってる!」

 そういうと、僕のベッドにもぐり込む。

「私はもう眠い。それにこんなにふかふかな寝床は初めてだ。出たくなどない」

「明日には返してくださいよーそれではおやすみなさい」

 電気を消し、手探りで物置へとはいり、ひいておいた予備の布団へもぐり込む。

 本当に大丈夫なのかあの人。適当だなぁ。




 目覚めても真っ暗だった。

 襖の隙間から光が差し込んでいるので多分もう朝なのだろう。

 ふぁと起き上がり、伸びをしようとしたら手をぶつけた。

 体も痛い。狭くて寝返りが上手くうてていなかったようだ。

 もうこんなもの懲り懲りだと、物置から脱走する。

 立ち上がり、全力で体を伸ばす。押し込められていた関節をバキバキと解放してあげ、カーテンをあけ、さらに日をいれる。

 物置で寝ることになった因子を起こそうと、ベッドの方へ振り返るとなにか違和感があった。

 違和感の正体が分からないまま、眉をひそめ、布団をめくりあげる。

「起きてください〜朝ですよルリアさー」

 布団を半分まで上げたところで時が止まった。

 幼女が身を屈めて寝ているであろうと思ったその布団の下には、

 成人ほどある、髪の長い女性が膝を丸め、僕のお気に入りのぬいぐるみを抱きしめて、収まっていたのだった。



 誰だこれは。

 ルリアさんはどうしたのだ。

 パニクり、声も出せないでいると、急にその謎の女性が寝返りをうち、そのまま布団が捲られていることに気づいてしまったようだ。

 こちらに向けた顔はルリアさんによく似ているが、ルリアさんの母と言われても納得のいく顔立ちだった。

 パチリと開いた瞳はルリアさんと同じ金色だったが、長い髪はルリアさんの薄い金色と違い、しっかりした深い金だった。

 驚くほどの美女が僕の布団で寝ている。

 流石の僕も頭が真っ白になる。

「あ、あなたは……?」

「何を焦っているのだ無法者……?」

 いつもの口調で、いつもよりしっかりした低めの声で発するその女性は、自分の声がいつも耳に入ってくるものと違うと気づいたらしく、話しながら困惑を浮かべていた。


 とりあえず、部屋にある鏡を見せると、女性はあんぐり口を開けた。

「……久しぶりに見た」

「えぇ?」

「久しぶりにこの姿の私を見たよ!」

 ハハハハ!と高笑いをする美人なお姉さんは笑い終え息を着くと僕の方をみた。

「だいたい百年程前の私の姿だ。これは」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る