第34話

 その時、阿部がフラフラと起き上がり、松浦の方へ歩いて行った。まずいな、助け出すチャンスを伺っていたのに。 

 阿部は体操服姿の藤井さんをちょっと見た後、いやらしく伸びた松浦の手を引っぺがした。


「へへへ……! 阿部さんもどうですか? こいつ、意外と胸ありますよ」


 その言葉を聞くが早いか、阿部は松浦の首根っこを掴み、藤井さんへの拘束を解いた。

 そして、そのまま襟と腕を掴むと背負い投げで松浦を投げ飛ばした。その際わざと体重を乗せたので、松浦は息ができないほどの衝撃を受けたのだ。

 藤井さんを助けてやったのか……。腐っても柔道家なんだなと角畑が感心したのも束の間、今度は阿部が、怯える彼女を背後から襲った。

 ――何という事だろう! 無力な女性に対して羽交い締めを躊躇なく行うとは。


「藤井さん、俺がどれだけ思っていたのか、知らないとは言わせんぞ。角畑のモノになるぐらいなら……」


 藤井さんは阿部の腕に絞めあげられ、顔を真っ赤にして脚をばたつかせた。

 ……本気なのだろうか、中学生の分際で狂ってやがる。

 角畑は、阿部が傷害事件で少年院送りにされるのを防ぐため、超高速で奴の足元に移動すると、藤井さんのブルマ越しに金的を蹴り上げた。

 手加減なしの攻撃だったので、阿部は悶絶し、口角から泡を吹きながら気絶するように大地に伏した。もちろん角畑の両腕には、藤井さんが優しく抱擁されていたのは言うまでもない。

 ――この場から脱出しよう。

 まさか先生、来賓、生徒達が見守る体育祭のど真ん中までは追ってくるまいと角畑は踏んだのだ。

 藤井さんを抱き抱えると、加速をかけながらその場を離れた。


「か、角畑君、走るの早い。スピードが、すごすぎる!」


 グラウンドまでくると、マドンナを抱っこした角畑は、大勢のクラスメイト達から注目を浴びた。中盤の体育祭が盛り上がっている最中にも関わらず、である。

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