青春ホルダー

けけーん

現在



「なんでもっとはやく言わなかったんだろう。」



東京の自由ヶ丘。祥吾は少し酔った足取りで、海外のアパレルショップやオシャレなカフェが並ぶ道を1人歩いていた。雨上がりの8月の夜は蒸し暑く、酒が入っている事もあって汗がとまらない。夏好きな祥吾だったが、今日の一件でこの季節が嫌いになりそうだ。


「飲み直すか。」

先程まで雨が降っていた事もあり、普段はオシャレ好きな人々で賑わっているこの道も、少しどんよりしていて人通りは少ない。祥吾はこの通りの地下にある、行きつけのバーに入った。


「いらっしゃいませ。あ!祥吾じゃん!どしたのそんな顔して。」

ここは大学の同級生の美雪が働いている。彼女とはスキーサークルで4年間一緒だった。勉強もできたので将来はバリバリのキャリアを歩んでいくかと思えば、卒業後はいきなりバーテンダーになると言い出した。当時サークルの皆は驚いたが、3年経った今もちゃんと続けている。


「おぉ、美雪。ここ座っていい?……いやー、聞いてくれよ、俺やっちまったわ。」

「まあまあ、まずはビールでしょ。はい、お待たせ。」

「サンキュー」

ここのビールは凍ったグラスで出てくるからこの季節にはピッタリだな、と思いながら一口で飲み干す。

「いい飲みっぷりだね笑 珍しいじゃん急にきちゃって。なにがあったの?」

そういえばここにくるときは毎回美雪に連絡してきてたっけ。

「聞いてくれよー、俺って島根出身じゃん?んで小学校からの幼なじみがいるんだよね。梨花って子。俺その子の事ずっと好きだったんだけど」

「ちょ、ちょっと待って。初耳。まず、島根出身なのも初めて知ったわ!」

美雪は祥吾の話の冒頭から驚く。


「そうそう。高校2年まで島根にいたんだよね。」

高校2年の夏、祥吾は親の転勤で東京に転校することになった。あの日の決断は今日になって失敗だったと気づく。


「あ、それから優太と一緒なんだね。」

優太とは東京に来て初めて仲良くなれた親友だ。大学も同じスキーサークルに所属して、美雪とも仲がいい。

「それでそれで?その梨花って子が好きで?あ、待って待って、小学校の時からのエピソード教えて」

美雪は面白がって、本題を先延ばしにする。


「エピソードなんていわねえよ!笑 ちゃんと今日の話聞いて」

と、言いながら祥吾はふと小学校時代の梨花を思い出した。

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