鉄仙の花が咲いた日に

九良川文蔵

むかしむかし



 ──唯一であれ。

 その一言で私は命を与えられた。

 永遠に朽ちない体と、星をも壊す力。

 やがて人が産まれ、文化を紡ぎ始め、互いにいがみ合い、戦争をして、たくさん死んで、また産まれて、また死んで。

 その繰り返しを私は延々と眺め続けた。

 正直な話、人の個々の区別などつかない。

 みな蟻のようにわらわらと群れては仲間割れして、そうでなくとも百年足らずで死んでしまうのだから。たまに死に急ぐものも居るが、それ以外に差などない。

 だから。

 私のみが世界で唯一だった。

 神の創作物たる私が。

 人は私を畏れ、崇め、讃え、時には迫害した。

 しかし人のあらゆる全てをもってしても私を破壊することは不可能だ。それを悟った人は、別の手を考えた。

 私に人を愛せと言うのだ。

 ひとつの一族に私の世話役を任せ、人の善意、忠義を見せて人に情がわくよう仕組んだ。

 まあ悪い気はしなかったし、どうせすぐ産まれてすぐ死ぬ生き物なのだから放っておくことにした。

 ──唯一であれ。

 父なる神が私に刻んだ、たったひとつの役割を胸に。



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