モノクロ写真

@North3104

第1話

高校に入学してすぐ、写真部に入った。

好きなモノクロ写真があり、そんな写真を撮りたいと思っていたからだ。

キム・アンダーソン。

子どもの表情も、一部だけカラーになっているモノクロ写真も、心に響いた。


あんな写真を撮りたい。

ただそれだけの思いで入部した。

撮るのはもちろん、現像も自分たちでできるところに好奇心が刺激された。

酢酸の匂いが鼻につくことすら、楽しかった。


子どものモノクロ写真をたくさん撮った。

本当にたくさん。

ただ、キム・アンダーソンにはまったく近づくことはなかった。

きっと好きなんだろうなと思われるだけの構図にしかならなかった。


模倣ですらない。

それはそうだと気づいたのは後になってからのこと。

渦中にいるときには全く気づけないものだと思う。

誰かに憧れて目指す時点で、その人を超えることはできない。

その人がMAXになるのだから、どんなに頑張っても超えられない。


高校生の自分にはそんなことは気づかなかったし、似た写真を撮って喜んでいるだけの子どもだった。


ふと、本の間から写真部時代の作品がでてきた。

それを見た時の感情をなんと呼べばいいのだろう。

気恥ずかしさで体がほのかゆくなってしまった。

技術もなく、プロに憧れてその劣化版とも呼べない写真なのに、なぜかキラキラしている。


自分の夢や純粋な楽しさが、そこにはつまっていた。

自分は何者にもなれなかったけれど、若さと馬鹿さであふれていた。


あれから何年経ったんだろう。

あの時に思い描いていた未来の姿に、少しでも近づけているのだろうか。


写真を眺めていたら、そこにはもうなくなっている建物が写っていることに気づいた。

もう、あの場所には存在しない建物。

だけどこの写真の中では確かに存在している。

自分もきっと同じだ。

あの頃とは違う自分がいたとしても、どこかにあの頃の私が残っている。


そうやって、大人になっていくんだろうな。

私は大人に、ちゃんと大人になれているのかな。

いまの自分を写真に撮って、また数十年後に見てみよう。

いまは便利なカメラがあるからね。

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