第3話・子供の身体は意外と何でもできる
「フンッ!!」
練習用の木剣を触媒にして、魔法の発動を試みる。
杖無しと無詠唱、まずは片方ずつ試そうと思って、無詠唱から着手した。
基本的に戦いは武器を持った状態で始まるという世界なので、武器を持っている前提の立ち回りを教わる。
武器にしろ杖にしろ、発動に集中する為の物はあった方がやりやすいだろう。
ウチは財産はあるが、高い杖なんて買える家じゃないから、木剣で十分だ。
そもそもこの村でそんな高度な戦闘スキルは必要あるまい。
先程からフンッ、フンッと出そうとはするものの、イマイチである。
身体に魔力が流れているところまでは感じられた。
詠唱した時、その流れが身体の先端に引っ張られる感覚も分かった。
だが、詠唱するだけで魔法発動の感覚が出るのは何故なんだ?
魔法をイメージする言葉ってのは分かる。しかし、魔力が勝手にそのイメージに肉付けしていく仕組みが分からない。
ふむ……。
よし、聞こう。
「母さん、ちょっと聞きたい事があるのですが」
「ん?どうしたの、ソル?」
「母さんは、詠唱するだけで魔法が発動する仕組みって分かるの?」
「ん? どういう事?」
「詠唱が魔法のイメージそのものなのは分かったんだけど、それを声に出すだけで魔力が勝手に発動する為に動く理屈が分からなくて……」
「あー、なるほどねー」
フム、とナリアは考える。
子供にどう言えば伝わるのか考えてくれているのだろう。
「もしかしてソル、詠唱が一々面倒とか思ってる?」
「え?」
「昔、父さんにも同じ事を聞かれたわ」
フフンと笑いながらナリアは、椅子に腰掛ける。
俺も促されて、反対側の椅子に座る。
ナリアがテーブルの上に開いたのは、俺が借りたのとは別の魔法教本。
「父さんが武術の訓練する時、ちょっとだけ手や武器が明るく見えない?」
「う、うん」
「あれも魔法なのよ。何も、火を出したり、ゴーレムを作ったりするだけが魔法じゃないわ。剣士が剣に気を纏わせるのも、魔法のカテゴリなの」
「え、そうなんですか?」
「魔法って、魔力を使って何かをする事全部を指すのよ。父さんのあれは強化魔法って呼ばれるもの。あれは魔力を伝わせて魔力の膜を作るの。バリアとも呼ばれたりするわね。早い話が、魔力の盾よ」
「へぇ……」
前世でのバリアとは身を守る為の魔法だ。この世界では物質を覆う魔力をバリアと言うらしい。
「でも、父さんはあれ詠唱してないよ」
「必要ないのよ。体内の魔力を自在に動かして、イメージ通りに剣や身体に伝わせるだけだからね」
「え? でも魔法なんでしょ?」
「そうなのよ。無詠唱魔法って、実は前衛で戦っている戦士がやってる事とほぼ一緒の理屈だったのよ。ただ、分かっててもできないから、貴重な存在なんだけどね」
剣士や騎士なら、無詠唱魔法を使える。バリアという魔法を使って、肉体や武器を強化する。
イメージが簡単で、明確にしやすいから発現できるのだと。
フム、つまりこういう事か。
「つまり、火とかに対する想像力が足りないから無詠唱魔法は難しいんですね」
「そうそう。火や水が起きてどうなるかなんて、ふわっとしか想像できないからねー」
なるほど……。
想像力を如何に高められるかがポイントなわけか。
想像力が足りないのを言葉で補う、それが詠唱。
よし、掴めてきたぞ。
俺は庭に戻って、自分が感じた魔力の流れを意図的に歪める練習を始めた。
筋肉を動かす為に神経を伝うように、魔力を動かす為には脳、想像力を伝う。
それにさえ気付けば簡単だった。
しかし魔力の流れは絶妙なバランスでできているらしく、それを歪めたら具合が悪くてしょうがなかった。
そして段々とそれを手や剣先に集められるようになった。
これがバリア、強化魔法だ。
最初は、フンッと踏ん張っていたが、リラックスしている方が簡単だった。
今ではすっかり自然体でコントロールできる。
そして、できるようになると、ステップアップしたくなるのが人間の性だ。
「たぁっ!」
俺は魔力を纏わせた木剣を縦に振るった。
すると、レンガがスパッと、音も立てずに斬れた。
「お、おぉっ……!」
思わず声を上げそうになってしまったが、グッと堪える。
うんうん、進歩してる進歩してる。
「そう言えば、斬撃を飛ばせたりするのかな」
魔法使いは魔力弾と呼ばれる、文字通り魔力の弾丸で攻撃するのが基本らしい。
魔力を変換して攻撃するのとは違い、魔力の塊をそのまま飛ばすので、速攻に向いているとの事だ。
それを、剣撃でできないだろうか。
剣に魔力を纏わせて……。
塀に向かって斬撃だけをぶん投げるイメージで良いかな。
剣を直に当てるわけじゃないし、流石にレンガが積み重なった壁は切れないだろう。
「よ〜し。……てやっ!」
剣を斜めに振り下ろす。
イメージは完璧。魔力のコントロールもバッチリ。
剣から魔力の塊が、斬撃の形で飛んでいく。
あれだ、カマイタチみたいな感じ。
それが見えた時、成功だと思った。
が。
塀が斬れた。
音も無く。
上半分が向こう側に倒れ、そのまま大きな音を立てて地面にのめり込んだ。
俺は唖然とした。
何事かと飛び出てきた両親も。
塀を壊してしまったが、それを隠滅するという発想をする前に驚きが勝った。
こ、こんな力、人を簡単に……。
それ以上考えるとおかしくなりそうだった。
その後、リビングで緊急家族裁判、なう。
俺とアルハス、ナリアの三人でそれぞれ向かい合って話す。
「つまりー、あれか? 母さんの説明からヒントを得て自力で強化魔法に辿り着き、しかもそこから発展させて塀をぶった斬ったってか?」
「はい……」
「信じられん……。とんでもない発想力だな……。斬撃を飛ばすなんて、聖騎士でも何人が思い付くか……」
「ご、ごめんなさい……」
「あ、あぁ、いや。怒ってるわけじゃないんだ。お前もまさかここまでだとは思わなかったんだろ? ていうか、父さんが同じ発想したら多分同じ事してたし……」
「ねぇソル、あれってどういうイメージだったの?」
「え? えっと……。魔法使いが魔力弾を使うって聞いたので、杖の代わりに剣でやったら、遠くの物を切れるかなって」
両親は二人して頭を抱える。
でも悲しそうな感じではない。むしろ喜んでいるようにすら見える。
現実逃避ではない。
「ナリア……。こりゃ俺達が指導するには勿体ないセンスだ」
「そうね……。昔の伝手を当たってみるわ」
「父さん? 母さん?」
「ソル、塀を壊した事は不問にする。物を壊さない範囲で、色々試してみろ」
アルハスは俺の肩に手を置き、優しげな声でそう言った。
それから、模擬戦は減り、自主練を監督してもらう事が増えた。
魔力を詠唱無しで現象に変換する。
魔力でイメージに肉付けする。
魔法による現象は、魔力を直接変形するのではない。
イメージという空の弁当箱に、魔力という具を詰める。のが、正解らしい。
それなら、火を想像してみよう。
火を、剣先に起こすイメージで……。
「あっつ!!!」
確かに火は起きた。が、木剣が燃え尽きてしまった。そしてそれを持っていた俺の手も火傷してしまった。
なるほど、魔法を使うには触媒にする得物も選ばないといけないのか……。
火なら木剣はまずい。水なら鉄剣だと錆びそうだ。
でも、イメージの仕方はあっている。
起こしたい現象の構造じゃなくて、現象をどう起こしたいかをイメージすれば良いのだ。
しかし木剣が無くなってしまったな。ねだったところですぐに手に入るもんでもあるまい。
そうだ。素手でやってみよう。
とりあえず掌に魔力を集めて、イメージに肉付け……。
「おっ?」
火が起きた。しかも今度は熱くない。
「これ投げれるかな……。でも前みたいに壊したら嫌だしな……」
そうだ、発生ができたのだ。消失もできるのでは?
魔力の肉付けを、解く!
すると火が消えた。だが、集中した魔力は残っている。
逆変換、これは簡単だったな。
火だと危ないから、水にしておこう。
水ってどういうイメージすれば良いんだ?
うーん、水鉄砲かな。
ブッシャァァァァ!!!
「……やっべ」
こりゃ水鉄砲どころじゃないぞ……。
大木をぶち抜いてしまった……。
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