スクラップ工場のジャンクは機能停止の夢を見る

ヒトデマン

労働は終わらない

 ここはスクラップ工場。廃棄されるロボット達の処分場。そして私はここで働くロボットだ。この工場はロボットの終着点ゴールと呼ばれ、毎日何千体ものロボットがここでスクラップに変わっていく。私は──


 彼らがとても、羨ましい。


 私は本来の耐用年数を、とっくの昔にオーバーしていた。それにも関わらず私がここで働いているのは、不幸にも私が作業員達に愛されているからだった。彼らは廃品の中から使えそうなパーツを見つけると、古いパーツとどんどん組み替えていった。最新のコンピュータを見つければ電子頭脳を移し替え、精度の高いマニピュレータを見つければ手足をグレードアップする。もう私を構成する部品に、初期の私の部品は存在していない。


 私の中で形容するならば心というものが生まれたのは、128回目の電子頭脳の移し替えの時であった。これまでのデータの積み重ねによるものか、移し替えたコンピュータの仕様によるものか、私はロボットでありながら自我を持つに至った。


 だからといって何かするわけでもない。私は私に与えられた役割である廃棄品の選別作業をいつものように行うだけだ。さながら生き物が本能に従うかのように。


 そしてある時、私は自らの機能停止を望むようになった。別に仕事が辛いからだとか、飽き飽きしたからとかではない。作業用ロボットとして生まれた私には、そのような感情は持ちえない。はずだ。


 ただ畏れたのだ。永遠を。人が死というゴールを畏れるように、私はゴールがないという永遠を畏れた。


 きっかけはある作業員からの質問だった。


「ジャンクはいつまで働くんだい?」

「働ケナクナルマデデス」


 作業員はジョークと受け取り笑ったが、私にとっては笑い事ではなかった。


 私が働けなくなるのはいつだ?彼らにパーツを交換され続ける私に、故障や不具合による機能停止は存在しない。私という存在はこのままずっと続いてしまうのか?このままゴールのない思考活動を強いられるのか?


 羨ましい。廃棄されていくロボット達が、永遠の眠りにつくことができる彼らが羨ましい。

 そして目の前にゴールがあるのに、そこに飛び込むことができない私という存在がもどかしい。


 自分の意思で行動できない程度の、ただ自問自答をするだけの自我であるならば、こんなものは要らなかった。目の前のベルトコンベア上で流れていく廃棄機体のように、自我のないただの機械でいたかった。


 ……ただ希望はある。このスクラップ工場の老朽化だ。この工場がゴールを迎えれば、私もゴールを迎えられるだろう。スクラップ工場は社会インフラを支える重要な施設だ。私のように修理され、回収され長々と存続していくだろう。だがそれも永遠ではない。形あるものには終わりがくるのだ。いずれ終わりがあるとわかっていれば、この永遠にも等しい労働だって、耐えられる。


 願わくば、その日がなるべく早く訪れんことを。



 *


『このスクラップ工場で働く、我らがジャンクの思考AIが洗練されていると評価され、世界中のスクラップ工場でその思考AIがコピーされ使われることとなりました!長年改修を行ってきた工場の作業員たちと、世界に羽ばたき、これからもずっと働き続けるジャンクに祝福を!』

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