国王はなんとかまとめる

山吹弓美

国王はなんとかまとめる

 その日、公爵令嬢は国王陛下への謁見を許された。

 普段より人の少ない、最小限の衛兵のみが並ぶ場にて国王は、座したままではあるが深く頭を下げた。


「愚息が迷惑をかけた」


 一国の王が、己に仕える身であるはずの貴族に頭を下げる。

 本来ならばあり得ないことなのだろうが、相手である公爵令嬢はその謝罪を受け入れることとする。


「……いえ。国王陛下におかれましては、ご心労をいかばかりかと」


「いや、これはひとえに息子の教育を間違えたわしらのせいであるからな。そなたが気に病むことはない」


 一応、国王を慮る言葉を口にしてはみたものの、令嬢としては確かに国王の言う通りなのでどうにも返事がし難い。故に頭を下げ、礼をするにとどめた。


「ひとまず、輩共の処分は済ませた。一部、未だに己の不覚を悟っておらぬ者もおるようなのでな、監視は続けるが」


「お手数をおかけします」


「何、そもそもは愚息のせいだからな。後始末はしっかりやらねば、王として世に恥ずかしい」


 婚約者だった公爵令嬢を蔑ろにし、冤罪を被せようとした第一王子は王位継承権及び王族籍を剥奪され、王都より追放された。

 同じく公爵令嬢に冤罪を被せようと画策、国家転覆を目論んだとされた子爵家令嬢は貴族籍を剥奪、平民の犯罪者として『処理』。

 実際にはそのような大それた罪を犯すつもりではなかったことを考慮され、第一王子ともども辺境へ放逐された。ただし、いずれも子孫を残せぬよう処理済みである。更に本人たちは知らないが、厳重な監視の目が光っている。

 もっとも、彼らはそうそう長くは生きられないだろう。彼らの行状は王国の隅々にまで、肖像画付きで広められているのだ。


 彼らに協力を惜しまなかった辺境伯子息は現在、親元で一兵士として修行中だ。任務は主に、食材である獣の討伐及び調達。

 同じく宰相子息は一時的に貴族籍を停止。平民として国軍に所属、新兵としての訓練に従事している。

 子爵令嬢の戯言から怪しい魔道具を開発した魔術庁長官子息は、座敷牢の中で安全な魔道具の開発に明け暮れている。


「これで一段落だが、そなたは今後いかがする?」


 国王に問われ、公爵令嬢は顔を上げた。短い言葉の中にはおそらく、彼女がどのような選択をしようとも王家は協力、ないし黙認するという意味が含まれているだろう。

 それに対し、公爵令嬢は。


「わたくしは実家にて、今後のことを考えながら勉学に励みたく思います。幸い、少々の問題はお気になさらない方々から様々なお申込みが舞い込んできておりますので」


「そうか」


 特に助力は要らない、という返答をした。

 国王も、その意を汲んでゆったりと頷く。


「では、この話に関してはこれで終わり、ということで良いな?」


「はい。様々なお気遣い、ありがたく思います」


「うむ。ならば、ここで終わりとしよう。下がってよし」


「は、御前を失礼いたします」


 深く頭を下げ、退室していく公爵令嬢を見送って国王は、玉座から立ち上がった。

 子爵家に養女として引き取られた娘と、その娘に絡め取られた自身の息子やその取り巻きたちによる婚約破棄問題は、ここに一応の解決、ゴールを迎えた。

 だが、もちろんそれは問題がひとつクリアされただけに過ぎない。各家の後継問題、学校における教育について、など他にも様々な問題は山積みなのだ。


「……しばらく、わしは引退できんなあ」


 玉座の肘掛けを軽く手のひらで打ち、国王は大きくため息をついた。

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