食狩!~食べる為に狩る~
ごません
1品目~地竜の尾肉のステーキサンド・1~
「死ぬううううぅぅぅぅ!絶対死ぬううううぅぅぅぅっ!」
情けない悲鳴を上げながら、一人の青年が荒野を駆けていく。その後ろを追うように、もうもうと土煙を上げながら疾走する巨大な影。長い首と尻尾をくねらせながら、四つ足を素早く動かして走るそれは、己の前を走る久々の
「こんな所に『地竜』がいるなんて聞いてねぇよおぉぉぉぉぉぉ!」
青年が身体中から様々な液体を撒き散らしつつ、そんな事を叫ぶ。この世界において人間は圧倒的弱者である……それは、この世界において赤子でさえ知っている常識だ。何しろ、人間よりも巨大で、強靭で、何より強い生物がそこかしこに
さて、怪物達の生態系の頂点に近い竜種……それも、飛べないだけで他の竜種と何ら変わらない頑強さと力強さを兼ね備えた地竜に追いかけられている不幸な青年もまた、冒険者である。ただし、つい2~3日前に冒険者となったばかりの駆け出しであるが。彼は初仕事としてこの荒野に生える稀少な花を採集してくる、という依頼を受けてやって来たのだ。初仕事で失敗はしたくないと
「ちくしょお、何が安全だぁ、何がガキでも出来るお使いだぁ!組合に帰ったらふんだくってやるからなぁ~っ!」
青年は尚も叫びながら、後ろから追いかけて来る恐怖から全力で逃げる。体力の消耗を考えるなら叫ばない方が良いのだが、叫んで発散しないと恐怖に飲まれて足が竦んで止まってしまいそうなのだ。だからこそ悲鳴なのか怨み言なのか解らないが、彼は叫び続けていた。やがて体力の限界を感じ始めたその時、青年の目の前に一条の希望の光が射す。目の前の岩棚に人が入り込めそうな裂け目があったのだ。しかも上手い具合に地竜は首すら突っ込めない程度には狭い隙間だ、これ幸いと青年は無我夢中でその裂け目に飛び込んだ。
「うぐっ……」
ヘッドスライディングの様に前のめりに飛び込んだせいで強かに腹を打った。息が詰まる。しかし詰まる息があるという事は生きている証だ。まだ背後からは堅く重い物がぶつかる様な音や、ガリガリと岩を爪で引っ掻く様な音がしている。地竜はまだ諦めてはいないらしいが、ひとまず青年は九死に一生を得たらしい事に安堵した。
「おい兄ちゃん」
いきなり声をかけられた事にビックリして、口から心臓が飛び出しそうになる。裂け目はほとんど陽光が射し込まないので薄暗いが、奥に続いていた様だ。その暗がりに誰かいる。目を凝らしていると、暗さに慣れて来たのかその姿がハッキリと見えてきた。そこには、大柄な人(恐らく男だ)が砂地に寝そべっていた。
かなりの大柄だ。何しろ狭いとはいえ青年が身体を横にする位の広さはある裂け目の中で、足を曲げて窮屈そうに寝そべっている。服装は旅装、恐らく
巨大な金属塊に柄が付いている。
「おい兄ちゃん、聞こえてんのか?」
「あっ、は、はいっ!ななな、何でしょうか?」
まじまじと男を観察するあまり、話しかけられているのに気付かなかったらしい。その顔は
「お前さん、見たところ駆け出しの冒険者だな。こんな所に何しに来た?」
「え、えぇと……シルフィウムの花を採集してくる依頼を受けて」
「成る程、シルフィウムの花はある程度乾燥した地域にしか咲かんものな。……しかし、今の時期この辺りは地竜が産卵の為に営巣するってのは常識だろ?」
「えっ?組合では誰もそんな事……」
「そりゃ組合の手抜き仕事か、それか先輩の冒険者に一杯喰わされたな」
偶にいるのだ、自分達の稼ぎが減るのを恐れて、新人冒険者に嘘の情報を流して『間引き』をしようとするこすっからい連中が。勿論、バレれば組合から締め出されて最悪犯罪者になって奴隷送りだ。だが、バレなければ自分で手を下す訳ではないし、冒険者は自己責任の世界なので冒険の途中に死んでも本人の責任となるのがほとんど。完全犯罪の成立である。
「そ、そんなぁ……」
「ところでお前さん、あの地竜をどうする気だ?」
「へ?ど、どうするって」
「狩るのか?狩らんのか?どっちだ」
「むむむ、無理ですよぉ!俺組合に登録したばかりの駆け出しですよ!?それなのに地竜なんて……」
「そっか、それもそうだな。じゃあアレは俺に譲れ」
「…………はい?」
「だから、あの地竜の討伐権利を俺に譲れって言ってんだよ」
基本的に怪物を討伐する権利は組合に出された討伐依頼を金を支払い買い取った冒険者、若しくは不意の遭遇戦であれば発見者に権利がある。討伐すればその素材は討伐者又はそのパーティの総取り、その為獲物の横取りは冒険者間では仲間殺し、組合の規則破りに次ぐ三大禁忌とされている。だが、その発見者が討伐不可能と判断した場合、他の冒険者に助力を頼める。助太刀料はまちまちだし、場合によっては全て助太刀した冒険者に持っていかれる事もあるが、そこは命あっての物種だ。
「で?どうする。どっちにしろあのデカブツをどうにかしねぇと俺達ゃここから出られんがな」
「どっ、どうぞどうぞ!俺にあんなの狩れる訳がないし」
「そうか。どれ、久々の
男はやおら立ち上がり、戦鎚を肩に担いでのしのしと歩き出す。その際、兜の下からジュルリという音を聞いたのは青年の空耳だったのだろうか?
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