魔法の使える異世界に連れて来られたけど付き合ってる彼女と結構いい感じだったのでもとの世界に戻るために頑張ります 〜彼女にもう一度会うための物語〜

ねこぶた

プロローグ的なもの

第1話 死ぬわけにはいかない

「——————————!」

 警報音が頭に鳴り響く。

 その警報音が何を言っているのかはわからない。

 だが伝えたいことはわかる。

 先程の揺れからして地震の警報だろう。

 まあそれもときすでに遅しで、水無月は瓦礫の下敷きになっているわけだが。

 

「息が……苦しい…」


 中学からの帰り道、その途中で地震が起きた。

 地震発生時水無月はボロ屋の横を通っていたわけだが、不運にもそのボロ屋が崩壊し、下敷きになってしまった。

 現状命に関わるような大きな怪我はしていない。

 だが、瓦礫が胸を圧迫していて息が苦しくなっている。

 自分の上に乗ってある瓦礫をどかそうと何度も挑戦しているのだが瓦礫はびくともしない。

 何かないかとポケットを探すもリップクリームとハンカチしかなかったことに気づいた時は水無月も絶望したものだ。

 なぜ今時自分は携帯電話の一つも持っていないのだろうか、と。

 それも仕方ない。水無月は両親がいなくなってから近くの親戚に世話になっている。水無月が増えるだけでも負担が増えるのにそこからさらに中学に学費と来年からは高校の学費も払ってもらうことになっている。そのため水無月はこれ以上負担をかけられないと欲しいもののほとんどを諦めてきた。

 高校生になったらバイトしてお金を貯めようと考えていた矢先にこれだ。

 携帯電話が欲しい理由は彼女に連絡手段が欲しいと言われていたからなのだが。

 

━━やばい。まじで苦しい。

 

 声を出すことに苦しさを感じる。

 思った以上に肺は押し潰されているようだ。

 このままでは助けを呼べない。

 なんとか呼吸をしようとするも肺がうまく動かない。

 呼吸がどんどん浅くなっていく。

 このままでは酸欠になってしまうが水無月にはどうしようも無い。


━━どれぐらい経った?そろそろ助けがあってもいいぐらいだと思うんだが。


 耳を澄ます。

 しかし周りから人の気配は感じられない。

 季節は冬。もうじき日が沈む。

 体が冷えてきた。

 意識も朦朧としてくる。

 視界がものをはっきりと捉えなくなってきた。

 脳に酸素が回らなくなってきたのだろう。


「やあ少年。このままじゃ助けも来なくて死ぬことになるけどどうする?僕と一緒に異世界に来ない?」


 ショタ声が水無月の前方から聞こえる。

 力を振り絞り声の主の方へと向く。

 そこには小柄な少年。といっても中性的で幼い顔立ちなので声からしか判断できないが。

 髪は長くも短くもない白髪で瞳は深い青。

 その少年が瓦礫の下敷きになっている水無月を見下ろしている。


「今ここで助けるだけってのは無理か?」

「それは…できないかな。僕は純粋な善意で君を助けようとしてるわけじゃないから」

「そう…か…」


 水無月の声が掠れてくる。

 

「さてどうする?このまま誰にも見つけられず死ぬか、僕と一緒に異世界に行くか。ちなみに後者を選ぶと最終的に願いをなんでも叶えてくれる権利が貰えるかもしれないよ?」


 全力で異世界に誘い込もうとする少年。

 が、少年の言った権利は水無月を決断させるに足るものだったようだ。


「行く」


 短くそう伝える。

 次の瞬間には水無月の意識は途絶えていた。

 息はまだあるので死んだわけではない。


「それじゃあ一名様ご案内♪」


 楽しそうな声で少年は水無月を連れ白い光を輝かせながら地面へと消えていった。

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