ヒロインよりも悪役令嬢の方が良い子だったので、すすんで仲良くなりたい

仲仁へび(旧:離久)

第1話



 人間は、死んだら別の世界に転生するらしい。

 そうして魂は巡り、徐々に質を高めて、遥かなエデンに旅立つとか何とか、神様に言われた。


 そんな輪廻転生の輪に組み込まれているらしい俺は、ぽっくり死んで死後の世界にいった後、女神の話を聞いてから、転生先を選んだ。


 普通ならそこで、記憶を消されて生まれ変わるのだが。


 なぜか俺は前世の記憶を保持したままだった。


 赤ちゃんになった時に驚いたのを覚えている。


 神様でもミスするんだな。


 意識が前世のままなのに、自力で動けない赤ん坊でいなければならないのは苦痛だったけど、寝るのが仕事だったおかげでそう退屈でもなかなった。


 そんな俺が生まれ変わったのは、前世でレビューを書いた乙女ゲームの世界。


 ゲームレビューを書くのが趣味だった俺は、普段はRPGとか格ゲーとかのレビューを書いていたのだが、そればかりだと飽きるので、片手間に他分野にも手を出していたのだ。


 その乙女ゲームの名前は「マジカル・ランド」。


 特徴は魔法王国が舞台であるという事。ひねりも工夫もないタイトルだ。






 それから数年が流れて、俺は十代の健やかな男子に成長した。


 せっかく知ってる世界に転生したのだ。

 だったら、可愛い女の子とお近づきになりたい。


 そういうわけで、ヒロインと知り合うために動き出した。


 ゲームの舞台である、エリート魔法学校に入学するために、子供のころから努力を積み重ねた。


 この世界の者達は、五歳くらいになると魔法の力に目覚める。


 大抵の人間は、その魔法の力が大した事はないのだが、たまに突出した力の持ち主が現れる事がある。


 そういった者達を遊ばせておくのはもったいないので、国が学校をつくって優秀な人材を育てているというわけだ。


 その名もマジック・スクール。


 うん、ひねりも工夫もない名前だ(二回目)。







 子供の頃に判明した、俺の魔法属性は炎だった。


 そして、幸いな事に才能もあったようだ。


 火災に気をつけながら、ひたすら練習を積むと、みるみる実力が上達した。


 上達が楽しくなって、魔法マニアになってしまったのは、ちょっと失敗。

 この付近で魔法オタクといえば、あいつ……とかいうポジションになってしまった。


 でも、楽しいので、ひそかに練習。

 そんなわけで、学校入学後も、放課後に魔法の練習をしていた。

 すると、その場にやってきたヒロインが話しかけてきた。


「あの、いつもここで練習してますよね」


 あ、はい。


「良かったら、少しお話しませんか?」


 まあ、オハナシくらいなら。


 それから、色々とおしゃべり。


 桃色の髪の、美人。

 この子はあれだ、ゲームのヒロインだな。


 可愛いし、知り合いになりたかったから良かったんだけど。


 特に接点のない俺に、なんで話しかけてきたんだろう。







 ヒロインと話をしていると、他の女生徒が話しかけてきた。


「あなた、入学式でお会いしましたわね」


 鋭い目をした少女だ。乙女ゲームの悪役令嬢登場。


 きっと、口調は「おほほ」に違いない。


 なんて思ってたら、本当に「おほほ、わたくし物覚えが良いの」とか言ったので驚いた。

 テンプレの期待を裏切らない人だな。


 でも、目線はずっと鋭い。


 人によっては睨んでいると思われるかもしれない。


「あの時は、ハンカチを拾っていただいて助かりましたわ」


 ああ、そういえば、入学式でぶつかった時、彼女がハンカチを落としてたから拾ってたんだっけ。


 特に眼中になかったから、挨拶だけで会話終わらせたけど。


 あの時は時間が無くて、入学式の会場に急いでたから、あんまり意識してなかったんだ。けど、よく考えると登場人物とすでにで会っていたのか。


 ヒロインとか攻略対象に比べると、どうもぱっとしないからな。


 顔は怖いけど、存在が地味というか。


 嫌がらせでやる事も、スケールが小さいんだよね。


 机にごみを入れるとか。物を隠すとか。


 まあ、被害者にしたら大問題なんだろうけど。


 物語的には味が薄い、そんな人間だった。







 この時点ではまだ、ヒロインと悪役令嬢は仲が良い。


 悪役令嬢は親しげな様子で、話しかけてくる。


「この女性、面食いなんですのよ。急に話しかけられて驚いたでしょう」


 え、そんな性格だった!? ヒロインさん。

 まあ、あのゲームではヒロインの内面は詳しく描かれてなかったからな。


 そっか。ちょっと幻滅。


 心の中でがっかりしていると、悪役令嬢さんがツンとした表情で、申し出た。


「何か困った事は? どうしても助けが欲しいなら、何かお礼をしてさしあげてもよくてよ」


 するとヒロインが苦笑しながら、「この方は、ちょっと素直じゃないんですよ」と。


 仲がよろしい事で。


 でも、ヒロインの思わぬ秘密を暴露された後だからか、悪役令嬢の親切にちょっとときめいた。






 せっかくの申し出なので、好意に甘えさせてもらう事にした。


 魔法上達のコツを教えてもらう。


 ゲームでは、悪役令嬢は魔法分野の成績がトップだったからな。


「なるほど、それならまずイメージが大事ですわね」


 ふむふむ。


「中途半端に魔力を形にするより、れっきしとたイメージをくみ上げて魔法を使う方が効率が良いのですわ」


 なるほど。


 それからも悪役令嬢は、あれこれ教えてくれる。


 たまに、魔法発動の姿勢についても手取り足取り。


 おう。


 思春期の男性にそれはちょっと刺激が。


 最後には。


「よければ家に専門書があるので、どうしてもというのなら貸してさしあげてもよろしくてよ」


 との事だ。


 うんあれだ。


 いい奴だな。


 言動の中に含まれるツンが多いけど。


 褒めたら「おほほ、迷える者に手を差し伸べるのは貴族として当然の事ですわ」だそうだ






 それからも放課後にはたまに、そのおほほ令嬢……ではなく悪役令嬢に、魔法上達の指南をしてもらった。


 ヒロインや攻略対象もなぜか集まりだす始末。


 なので、ゲームのイベントが目の前でたまに起こったりした。


「ふふ、教えがいのある生徒ですわね」


 そんでもって、学校のテストなんかで良い成績を収めた日には、いつものとげとげしい目つきが和らいて、ほんわりした笑顔でほめてくれるなんて悪役令嬢イベントもある。


 最初はヒロイン目当てでこの学校来たけど、悪役令嬢と仲良くなってみてもいいかもしれない。


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ヒロインよりも悪役令嬢の方が良い子だったので、すすんで仲良くなりたい 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032

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