第31話 真倉、ユズが家に来る

ユズがやっと初めて家に来てくれた。手土産と言ってとんでもない量のお菓子とカンナへの大量のプレゼントを持って。

「真倉ケーキワンホール買ったの⁈」

「うん、3人で食べ切れるように小さめ買ってきた」

5年前一緒に食べれなかったケーキ。今は4人じゃないけど3人で食べた。

「お兄ちゃんユズさん凄くいい人だね。私リビングにいてあげるから、うまくやりなよ」

食器を持ってきたカンナに小声で言われたせいでメチャメチャ緊張して部屋に入れたのに、ユズは相変わらずだし。

「あっこれも食べてよ!ギリシアのチョコ」

「なんでこんなあるんだよ…」

「まだあるよー。これがねー」

「アイツ何考えてんだよ…」

ユズがユリにカンナに会うと言ったらこの5倍の量のお菓子が届いたらしい。ユリ、カンナの事大好きだったもんな。会えなくてもそれだけ思っていてくれたことがわかっただけで充分だ。

「…聞いてる?」

「俺…今、問題解いてんだけど」

「ねー勉強なんていーじゃん!話そ!」

「いいから解けよ!」

頼むから顔覗き込まないでくれ。ただでさえ部屋狭くて顔近いんだから。でも、初めて自分の部屋が狭くてよかったと思ってしまった。ユズのガラステーブル広すぎたもんな。

「で、レイがねー」

ほんでユズは当たり前のようにレイさんの名前も出す。俺はレイさんのせいで「へぇ」恐怖症になったってのにさ。

「で、その時のユリの笑顔が最高だったの!」

「…ユズは昔から妹好きだよな」

「うん!」

そんな最高の笑顔で即答されても。ユリを解放する為にユズはレイさんと結婚して子どもを産む。それが決まりでユズの希望は関係ない。俺は凄く卑怯で自分勝手だからユズがユリより俺を選んでくれないかなって思う瞬間がある。最低だよな。

「…あっもう迎えが来るって」

「えっ早くない?まだ15時30だけど…」

「今日ユウトが来てるからねー。多分ユウトが迎え早くによこしたんだよ。全くもー」

「今…なんて?」

「ん?ユウトが家に来てるの、今日」

レイさんのせいですっかり存在を忘れていた。え?ユウトさんってそういや何?ユズを好き…ではないよな。それならレイさんと一緒にいる筈がないし。

「なぁ…ユウトさんってユズの何?」

「親戚だよ」

いやそれは知ってんだよ。知ってんだけどわかんねえんだけど。えっただユズの親戚ってだけなの?意味がわからないんだけど。俺の語彙力頑張れ。

「ユウトさんって…レイさんと仲良いの?」

「仲良いよ!でも昔はあんまり仲良くなかったんだって!お互い性格全然違うからねー」

確かに全然違う。ボウリングでもレイさん睨んでたしな。でもじゃあなんで一緒にいんの?親戚だから?そんだけの理由で一緒にいるか?

「なんか…きっかけとかあったのかな?」

「さぁ?でもなんか先週、俺とレイは利害が一致してるとかなんとか言ってたよ」

利害が一致してる?ユズがレイさんと結婚する事でメリットがあるって事?全然別の何かで利害が一致してんのか?あーもーややこしすぎんだろ。

「ユウトさん俺のことなんか言ってた?」

「いやぁ…別に」

絶対なんか言ってたな。しかも悪い感じだ。まぁ古都のホテルの時から敵意剥き出しだったしな。殴られたし、ボウリングの時怪我完治してたこと聞いたらブチギレ…。

「そういやアレなんだったんだ…?」

「ん?どうかした?」

「いやなんも…」

俺一応入院したんだよな。絶対骨折れたかヒビ入ったと思ったのになんもなかったし。あんな事されて1日で治るってある?彩都の病院でいくら金持ちで最新医療でも1日で治るか普通?確かユウトさんに殴られて、ユズが泣き叫んで記憶途切れた…。

「…なぁ俺ホテルで倒れた後ユズが泣き叫んで記憶途切れてさ。その後どうなったか知ってる?」

「あー確かレイが医者呼んで、そのまま入院したって聞いた」

「聞いたの?ユズいなかったけ?」

「いたんだけど、私ショックで倒れちゃってー」

嘘…はついてないな、耳触ってない。でも目が少し泳いでる?なんで?

「あの後ユズ1週間学校来なかったよな。連絡もなかったし俺すごい心配したんだけど」

「あぁ!あれねー真倉と一緒に行ったことがバレて謹慎処分なってたんだよねぇ。連絡も制限されてさぁすごい怒られたんだから!」

今度は自信持って言ってるから嘘とかはないみたいだな。家には名取さんしかいない感じだったし。

「どこで謹慎してた?」

「彩都の家だよ!3人で謹慎してた!」

「3人?レイさんとユウトさんと一緒に?」

「うん」

検査入院とかは嘘ってこと?白川さんと家庭訪問した時なんか名取さんしか家居なくて不気味だったんだよな。俺あの時もユズがいなくなりそうって思ってピンポン連打したっけ。

「あっ着いたって!」

「そっか。じゃあ早いけど解散にするか」

「なんかごめんねー。カンナちゃんとももっと喋ればよかったなぁ」

ユズは残念そうだけど、俺は正直カンナの事ばっかり喋るユズにイライラしてだからよかった。俺もだいぶ嫉妬深いのかな。まぁレイさんよりは絶対にマシな自信あるけど。

「じゃあね!また月曜日!」

「うん、月曜日」

「カンナちゃんも!またね!」

「はい。また来てください」

「いいの⁈」

「是非。今度は私といっぱい話してください」

「大好き!」

「えっちょ…」

ユズは俺ではなくカンナに抱きついて帰っていった。別にいいんだけどさ!もう慣れたよこの展開!

「帰ったな…」

「あれ迎えの車?凄かったね。お嬢様なの?」

「まぁ…」

プライベートジェットまで持ってるお嬢様なんだよな。どんだけ金あるんだよ。

「カンナ最後抱きつかれてだけど大丈夫だった?」

「うん」

「あんだけ嫌がってたのにまた来てくださいなんでびっくりしたよ」

「私…お兄ちゃんが言ってた意味わかったよ。ユズさんなんとなくだけどシグレお姉ちゃんに似てる。私あの人好きだな。また家呼んで」

「…いつでも呼ぶよ」

カンナに言いたい。あれユズって名前だけどシグレで実は宮家なんだって。もらった刺繍入りのハンカチはカンナがずっと会いたがってるユリからなんだって。

「にしてもユズさん肌白かったねー。引きこもりの私より白かったよ。羨ましー」

「…俺はもっと焼けてる方が好き。あんな白いと少し怖くない?」

「そう?あんな白い肌全女子の憧れだけどねぇ」

「…白けりゃいいってもんじゃない」

「贅沢だねぇ」

「俺、自分勝手で卑怯だから」

「よく分かってんじゃん」

「否定しろよ…」

晩御飯はユズが持ってきた土産を食べただけで2人ともお腹いっぱいになった。

「ていうかお兄ちゃんプレゼント渡せたの?用意してたんでしょ?」

「あっ!やらかした!うわぁ最悪…」

「本当こんなダサいお兄ちゃん、ユズさんにはもったいないよ…」

「そういや、俺が皿洗いしてた時何話してたんだよ?2人してたのしそうだったけど」

「んーお兄ちゃんのどこが好きですかって」

「はっ⁈なんて⁈」

「…内緒」

「えっ⁈ちょい待って!お願いだって!俺の事言ってたの⁈マジで⁉︎」

「…ユズさんって悪趣味だよね」

「はぁ⁈」

結局、カンナは何も教えてくれなかった。マジでユズとカンナ何話したんだよ…。

「やっとメッセージ返ってきたな」

ユズ返信めっちゃ早い時と、遅い時あるよな。まさかメッセージのやり取りまで見張られてるとか言わないよな?なんかもう全部疑心暗鬼になってきた。

電話とか盗聴されてないよな?されないように車で電話してるって言ってたけど。

「怖…」

俺はユズの秘密を知りたいのか知りたくないのか正直よくわからない。ただ今はとにかくそばに居たいし、いてほしいと思う。会えなかった5年もしんどかったけど今は今で凄く辛い。なんで俺は一種じゃ無いんだろう、金持ちじゃ無いんだろ、なんでユズを守れる力がなかったんだろう。

「どうしようもないな…」

本当にどうしようもない。どれだけ俺が頑張っても、俺は主人公にはなれない。せいぜい、2人の邪魔をする悪役だ。レイさんの方が性格的には悪役っぽいんだけどな。てかあれ最早、魔王だろ。悪の化身って言われても余裕で信じるわ。

「寒っ…」

思い出したら寒気がした。レイさんあんなスペック高いのに、俺みたいなザコにあれだけ必死になるってどんだけユズのこと好きなんだよ。しかもユズの鈍感力よ。見舞いの時レイは私にライクって言い切ってたもんな。なんか段々一番の魔王はユズのような気がしてきた。

「佐藤さん…」

佐藤さんからお疲れ様でしたってメッセージ来てる。あの人マジで良い人だよな、ユズのためにあんなに泣いてたし。そんな良い人が誰も信用出来ないって言い切る環境でユズは生きてんだよな。俺も正直、誰を信用していいか分からねぇ。

「なんでユズなんだよ…」

俺最低だからさ、よく分からねえけど、ユズが辛い目にあうなら別の奴が辛い目にあえばいいって今思った。ユズは絶対に思わない事。アイツ純粋ってか、お人好しっていうかさ。危なっかしいんだよ、色々。空気読めねぇし、鈍感だし、簡単に人に触れるし、馬鹿だし、俺の事ラブの方で好きなのか分かんねぇし。

「寝たくない…」

1日が積み重なれば卒業式がきて、ユズと俺は離れる。レイさんのいる高校にユズは行って婚約する。なんでユズに選択肢がないんだよ。なんでユズは今更俺の元に来たんだよ。ユズは何を考えてんだよ。

あんな弱ってあんな可愛くなってあんなお嬢様になっちゃってさ。

「…クソが」

あのクソ担任、無理な期待を持つより、今できる範囲で最大限の努力をした方が意外と期待は上回れるとか言ったな。そんなの無理、泣きたい。

「…」

その日、久々に4人で過ごした夢を見た。

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