カクシアイ
@hanamaru1006
第1話、真倉
それはなんて事ない1日から始まった。
「はーいじゃあ、昨日までの復習なー。マツリ呼んでくれ」
マツリと下の名前で呼ばれた生徒はクラスの女王だ。自分の手下とのお喋りをやめ少しだるそうな表情をして読み始める。
「私たちは平均5歳で覚醒する炎・水・緑・土・風5つのサガと呼ばれる能力を持っている。サガを使用するには鋭利な刃物で手の平を一直線に切る。傷は一瞬で修復するがその間に出た血が我々のサガの源になり、それぞれのサガに形付けられる。現在は感染症予防の為シンと呼ばれる抗菌作用のナイフを使用しなければならない。私たちはこのサガをもって文明の進化と発展を遂げてきた。現在サガのレベルは世界共通制度に基づき10段階3種別で構成される。レベル1からレベル6までを3種、レベル7.8を2種、レベル9.10が一種と分類する。現在の人口比は二種が人口12%、三種が88%である。一種は極めて稀で人口の約0.03%となっている」
「はーいマツリありがとう。ナラクの学生でお前らと同い年の一種は今2028人だ。こうやって聞くと意外と多いよな。お前らも一種目指して頑張れよ。じゃあ次、外ボーと眺めてる真倉」
げっ当てられた。
「…この全ヴァンパイアの5つのサガの原点とされる5家を(純潔)宮家と呼ぶ。彼らは5サガの頂点とされその血は濃く深い。その血をかつて様々な権力者が恐れ支配しようとした。現在は世界協定により宮家の安全は保証されている。現在、炎と風の宮家は王族として活動をしているが残りの宮家は非公開である」
「はーい、真倉ありがと。俺らが住んでるナラクには水の宮家がいるとされてんな。誰か見たことある奴いる?」
クラスが少しクスクスと笑う。
「先生いっつも授業するたびに思うんだけど非公開っつうなら教科書載せんなよな。あー、俺も宮家になって世界制覇してぇ。それか一種になって自己啓発本の印税だけで暮らしてぇ!」
うちのクラスの担任は心に留めるってことを知らない。
「先生、ちゃんと授業してぇー」
マツリが甘えた声で言う。マツリはこの学校の女王だ。親はどっちも一種で、マツリもレベル8の2種。サガの成長期は5歳〜20歳とされてるからマツリはきっとあと5年以内に1種になるんだろう。
「マツリー!お前が一種になったら先生の老後の面倒は頼んだ」
「それセクハラー」
マツリが笑うとみんなも笑う。いつもの光景だ。この世界は平等って言ってるけど、なんだかんだ家柄とか遺伝子とかで才能決まってしまう。明確な身分制度は禁止されているからないけどお偉い社長さんとかは、みんな一種だ。
教科書には努力次第で3種から1種になれるなんて書かれてるけど普通はなれない。結局1種になるのはマツリみたいな選ばれし人だけだ。
「次ー!おっ真倉君、頑張れよ!」
「…お願いします」
よし。左手の目線の上まで持っていき、手の平を下にしてシンで一直線に切る。その瞬間落ちる血を見ながら頭の中にあるイメージを落ちる血に集中させる!よし!そのまま!何秒持つかも大切だ。
「土サガ。技、ツイスター。18.5秒、19.4cm。レベル4の三種です」
機械のアナウンスが読み上げ、みんながクスクスと笑う。俺は平均以下のレベル4だ。サガも土で俺と同じようにパッとしない。
「真倉君。もうちょっとだったのに!惜しいね!」
また励ましという名の公開説教か。
「みんな!ここはサガ開発のモデル校だ!君たちは一期生で国から期待されてるんだ!頑張っていこう!」
毎回この台詞なんだけどちょっとは変えないのか?
「真倉君も!筆記成績は良いんだから!サガももっと頑張ろう!」
「…はい」
人には向き不向きがある。それが俺はサガだっただけだ。サガが重視される世界に俺は向いてなかった。
「ただいま」
「…」
静かだ。カンナまたネットしてんのかな。
カンナの部屋にいく。
「ただいま」
「お兄ちゃんおかえり。遅かったね」
「サ開の補習」
「あんな学校早く辞めればいいのに」
妹はいわゆる引きこもりって奴だ。俺の学校は中高一貫で、妹も同じ学校に行っていたが妹もサガの才能はなかった。妹はイジメにあい不登校。今は新しくできたホームスクール制度で名ばかりの学校の生徒だ。
「ご飯ある?」
「素麺がある」
「ありがと」
俺たちも昔は頑張っていた。先生の言うことを信じて、努力すれば一種になれるって。でも現実は違う。両親が三種だったら俺らも三種だ。
「あー俺もチート異世界転生したい…」
でも転生なんかできないし前世の記憶もない。現実はそんな甘くない。
目が覚めても学校はある。
「おっチャイムなったな、次はサ開か」
今日も公開処刑か。
「三年1組真倉シュウ君、三年1組真倉シュウ君至急職員室まで」
初めてアナウンスで呼ばれた。胸がざわつく。何か嫌な予感がする。
「…で、真倉なんで呼ばれたかわかるか?」
いやこっちが聞きたいよ。
「えっと先生の授業聞かずに外見ていたからですか?」
「それはいつものことだろ。いや、いつもだめなんだがお前筆記の成績は良いし別にいいわ」
「どっちなんですか」
「やっぱ、ムカつくからよくねぇ!」
「…ハッキリして下さいよ」
「てか、真倉お前ほんとに分からないのか?心当たりもないのか?」
「いったいなんの話ですか」
「いや俺も知らないのよ」
「えっ先生がアナウンスしたんですよね?」
「先生は校長に頼まれただけ。校長が急に頼むからビビったよ。真倉なんかやらかしちまった?どっかの俳優みたいに人妻に手出しちゃった?」
「ないですね」
「まぁだよな。お前3種だしそんなモテねえよな!」
「先生ほどじゃないですよ」
このクソ担任まじでクソだよな。あだ名がクソ担任なだけあるわ。
「すみません。真倉シュン君を呼びに参りました。いらっしゃいますか?」
いかにも秘書って綺麗な感じの女の人が俺の名前を呼んだ。
「ここにいますよ!彼が真倉シュンです!」
先生めちゃくちゃ鼻の下伸ばしてんじゃん。
「君が真倉シュウ君ですね。案内します」
案内?どういう事だ?
「真倉あんな美人と知り合いなのか?保護者?親戚なら紹介してくれよ」
先生が耳打ちしてくるけど俺もあんな美女は知らないので何も言えない。
「校長室に来てくれますか?」
「えっ…はい」
どういう事だ?俺校長と面識あったっけ?
「こちらでお待ちください。」
そう言われ中に入ると誰もいない。本当に訳がわからない。
しばらく待っていると扉に一人の男の人が入ってきた。
「…はじめまして。真倉シュウ君だね」
「は、はい。はじめまして」
思わず訳もなくソファーから立ち上がってしまう。それ位には品がある。風格っていうのかな。
「…座っていい?君も座って」
「は、はい」
ソファーに二人ですわる。
綺麗な紫の瞳がジッと俺を見つめて話す。
「こんな所に呼び出して申し訳ないね。今は授業中だった?」
「いっいえ」
男の人は優しく笑う。今までで一番緊張してるかもしれない。何も話せない。
「そんな緊張しないで。私はこういう者だよ」
「ナラクサガ開発教育長」と書かれた名刺を渡される。サガ開発?違法サイトにアクセスしたのがバレたってこと?
「真倉君は来週から転校生が来るのはもう聞いてる?」
そう言えば先生がなんか言ってたな。
「聞いています…確かユグレユズさんでしたよね」
「そう。その転校生は少し特殊でね。詳しくは話せないんだけど国のサガ開発に協力してもらっているんだ。それで君にも「特別協力要請」がでた。ここまでいいかな?」
「…俺にですか?」
「うん」
「分かりました」
本当は全くわかってない。ただ政府から出る特別協力要請には基本絶対従わなければならない。そう法律で決まっている。従わなければ殺される(処分される)という噂は聞いたことがあるけど実際はどうなんだろうか。
「ありがとう。じゃあ、後はさっき案内してくれた部下が説明してくれるから」
「…わかりました」
そういうと、「ナラクサガ開発教育長」さんは校長室から出ていき、代わりにさっきの女の人が来て座った。
「政府からの特別協力要請は初めてですか?」
「はい…聞いたことはありますけど」
「特別協力要請をされた方には秘密保持契約を結んでいただいていますのでまず漏れることはないですね」
「えっと…とりあえず俺はどうしたら…」
「このアプリをインストールしてください。入れたら仰って下さい。」
「終わりました。ここWifi通ってるんですね」
「…説明に写ってもよろしいでしょうか」
冷たい。さっきの人よりだいぶ冷たい。
「来週の6月16日から貴方に毎日報告書を書いていただきます。学校であった転校生に関する出来事や学校の状況についてなんでも良いので書いて送ってください。日によっては詳しくと言った返事が来ることもあります。その際は速やかに返信お願いします。貴方のすることはそれだけです」
「あの…質問いいですか?」
「守秘義務があるので答えれない質問もありますがどうぞ」
「えっと…なぜ俺なんですか?確かに学級委員だけど、それなら白川さんもですよね。成績は俺の方がいいですがサガなら彼女の方がいいです。」
「上の判断です。」
「上ってあの男の人ですか?」
「機密情報ですのでお応えできません。もし貴方だけでは情報が足りないと判断した場合、別の方を補充するかもしれません」
「毎日報告書って忘れたらどうなるんですか?内申に響いたりします?」
「内申書は特に関係はありません。後、貴方へのお礼として毎月30万の報酬があります」
「そんなに⁈」
30万はナラクの平均月収より5万も高い。中学三年生に渡す額じゃない。
「また忘れず報告書を提出し続けることで内申書の方に特別協力要請の内申書を添付させていただきます。これがあればよっぽど良い大学以外なら推薦で入れると思います」
これはサガが弱い俺には条件が良すぎる。急に怖くなってきた
「特別協力要請の内申書は政府が発行しているんですか?そもそもこれ政府のサガ開発研究にしては気前が良すぎるって言うか…」
そう言いかけた時、少し寒いような空気が流れた。殺気…?俺は流石に気配を察知し言うのをやめた。
「…全て機密情報なのでお答えはできませんが、貴方の将来は保証します。他には質問ありますか?」
「ありません…」
そう言わざる負えない空気だった。
「後私は、時々学校に来ることがあると思いますが、その際は内緒でお願いしますね。では。」
そう言って出ようとした名取に真倉は思わず
「あっ…」
と言ってしまった。
「まだ何か?」
やってしまった…咄嗟に当たり障りのない質問を探す。
「…報酬は現金払いなんですか」
少し気まずい空気が流れる。
「…そちらのアプリを使い返答します。では私はこれで失礼します」
また1人校長室に残される。これ誰も呼びに来てくれないパターンかな。まぁ授業サボれるからいいけど。あっシン返してもらうの忘れた。
「あれ地味に高いんだよなぁ…」
「あれ、君まだ居たの?」
「校長先生。誰にも帰れって言われてなくて。授業戻りますね…」
「君政府から何か要請あったんでしょ?今日はもう家に帰っていいよ。公欠にしておくから」
校長先生はどこまで知ってるんですか?と聞いていいのか分からなくなって学校を出た。
家に帰る途中、電話が鳴った。知らない番号からだ。
「…はい、真倉です」
「すみません、名取です」
さっきの女の人の声だ。名取さんっていうのか。名前ぐらい名乗って欲しかった。
「今かけてある番号が私です。登録しておいてください。もし緊急の場合はこのアプリの右上の緊急マークを押してください。自動で録音と位置情報が共有できますので。では。」
怖い。もう見張られてるんじゃないかと思うぐらいのタイミングの良さだ。
「ていうか名前ぐらい先に名乗ってくれよな…」
これだから政府の人間は嫌いだ。
訳がわからないがとにかく家に帰る。ホームスクール中の妹は昼前に帰ってきた俺にビックリしていた。
「お兄ちゃん体調でも悪いの?」
「いや…帰らされた」
「なんで?」
秘密保持だがあるから、どうやって説明すればいいんだろうか。
「なんて説明すればいいか分からないけど、来週からくる転校生の面倒みてくれって頼まれて分かりましたって言ったら帰された」
自分の説明能力の無さが悲しい。
「意味不明なんだけど。頭おかしくなった?」
妹が言うのも無理はない。
「かもしれない。少し寝るわ」
そう言って俺は眠りについた。
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