142話 影の魔法使い
魔術学院に来て三日目、初日のようなイチャモンをつけられることもなく淡々と時間が過ぎていく。
俺が手伝いをする講義は一日に2コマだけなので、余った時間は他の講義を聞かせてもらっている。
これがなかなかに興味深く面白い。
まぁ、まだ難しくて言われたこと全部を理解するのは無理だがなんとなくは分かってきた。
魔法使いを相手にするときは活かせそうだ。
今日もいつものように講義が終わり夜食の時間となる。
基本的にスーリャとペアで行動することが多いのだが、今日はスーリャがやることがあるとのことで1人で食堂へやってきた。
ポツンと隅で食事をしていると俺の顔を見て驚いた男が近づいてくる。
「お前クロツキだろ。噂は本当だったんだな」
「誰ですか?」
俺には見覚えがない男だ。
「あぁ、俺はシャドウマスターのハザルっていうんだが……」
「ハザルっ!? ヘルハウンドの?」
ユニオール山脈で一部隊を率いていたやり手のハザルだったとは。
あれ以降めっきり声を聞かなくなって引退しただなんて噂されてたけど、こんなところにいるなんて。
「元な、お前が倒したアグスルトの一件のすぐあとに色々あってヘルハウンドは解散したんだよ」
「そうですか、ここでは何を?」
「シャドウマスターは魔法使い系統だからな、新たな力を求めてやってきたって感じだ」
「それよりも、そっちの方が変だろ。隠者系統が魔法使いの講師をするなんて。しかも、学生相手に大暴れしたらしいな。どんな経緯でここに来たんだ? あっ、席いいか?」
ハザルの態度からは純粋な好奇心が見える。
俺の聞いてたハザルの印象とは違うな。
ユニオール山脈でハザルたちヘルハウンドは手柄を独り占めするために独断専行して失敗している。
もっとピリピリとした蛇のような狡猾な男だと聞いてたんだけど。
「どうぞ」
ハザルは俺の前の席に座る。
「俺はクランの代表をしてるんだけど、クランの拠点に冥海アルバート・オルターが突然やってきた」
「へぇ、クランというと影の館だな。それにしても冥海が暗殺者クランを訪ねるとはな」
「そこで講師として短期間手伝ってくれと言われた。それだけだ」
「なぜわざわざ冥海がクロツキにそんな依頼を……」
そんなこと俺に言われても知らないものは知らない。
俺だって驚いてるし意味がわからないんだ。
「それは俺も知らない。短期間で報酬が良かったから受けた。それだけだ」
「その報酬とは?」
「秘密」
「まっ、当然だな。経緯は分かった。俺にとっては幸運だったかもしれない。そっちの空いてる時間ならいつでもいい、一度でいいから俺とも模擬戦をしてもらいたい」
「一応は雇われだからな、勝手なことはできない。どうしてもというなら許可がいるし、なんならスーリャの講義を受ければいいんじゃないか」
学院の講義は事務に申請をして受理されたのち。講師が認めれば講義に参加することができるようになる。
この時期だとその申請はもうやってないが、単位を必要とせず、学ぶだけなら申請がなくても講師の許可さえあれば参加できなくもないはず。
俺の初日の噂を聞いた物好きの生徒たちが見学許可をスーリャに求めてきたそうだ。
しかし、人数が多かったのと、不純な動機すぎてすべて断っているとスーリャが口を吐いていた。
スーリャ的には見学なのが気に入らなかったらしい。
自分も腕を落とされる覚悟で模擬戦への参加なら許可したとのことだ。
それでいくならハザルは許可されると思う。
「来訪者は受けることができる講義が決まってるんだ。それに現地人のように簡単に講義に参加することができない」
「そうなのか」
「まぁ、受け入れてくれてるだけでも御の字ってわけだ」
となると俺としてはわざわざ受ける必要があるのかという話になる。
ハザルは俺よりも先をいく来訪者だし、いい経験になると思えばいいのか。
職業からも分かる通りハザルは影魔法を得意としている。
「模擬戦の許可が降りるかどうかだな」
「それなら懇意にしてる講師がいるから俺の方で当たってみる」
「分かったよ、じゃあ決まったら教えてくれ」
こうしてハザルとの模擬戦が俺のスケジュールに組み込まれた。
ハザルが去っていって、食後のコーヒーを飲んでいると後ろから声をかけられる。
「クロツキ先生、今お時間よろしいですか?」
「あっ、あぁ、どうしたんだ」
そこにはセレンが立っていた。
「魔法使いにとって隠者は苦手な職業だと思います。もしも先生が苦手とする戦士を相手にするときはどう立ち回りますか?」
「逃げる、もしくは他の仲間に任せる」
「どうしても1人で倒さなければいけないなら」
「スキルもしくはアイテムを使用して弱点を補って戦闘をするだろうな。それと言っておくけど、俺は魔法使いとの戦闘は得意ではないぞ」
「ですが一般的に魔法使いは魔法の行使までのタイムロスがあるせいで隠者との戦闘は厳しいと言われています」
「それは魔法使い視点からはそうだろうな。だが、隠者視点からすれば魔法使いの広範囲魔法は脅威としかいえない。そこそこ近い距離ならタイムロスをつくことができるかもしれないけど、距離があった場合は近づく前に殺されるだろうな。それだけでなく、威力がなくても早く広範囲の魔法は隠者からすれば致命傷になる」
「なるほど、ありがとうございます」
セレンはノートにメモをとりながら、その後もいくつかの質問して寮へと帰っていった。
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