123話 魔性

 威嚇してくるカマキリを前にごぶは怯むことなく巨大な鎌を素手で掴んでへし折り、カマキリの顔面を蹴りつける。

 三段階目の進化サードフェイズ『ゴブリンバーサーク』は狂戦士と同じで狂乱状態に入ることでステータスを上げるのだが、ごぶは素の力でカマキリを圧倒していた。

 もう片方の鎌も引きちぎり、カマキリの頭部をかかと落としで潰す。

 首が潰れてもバタバタと暴れていたがごぶに押さえつけられたカマキリは動きを止めて生き絶えた。


「下からくるよ!!」

 いつの間にか消えていた百足の居場所をラムが感知、直後に百足が地面を掘って下から出てきた。

 ラムのお陰で百足の不意打ちは不意打ちではなくなり格好の的となる。

深淵槍アビスランス

「アシッドテンタクル」

「適当に石を拾って投げる」

 トロンとラムが攻撃している横でごぶはそこらに落ちていた手頃な石を拾って百足に向かって投げた。

 決してふざけているわけではない。

 ごぶは近距離の攻撃手段しかなく、2人が攻撃しているのに自分が近づいては危ないと考えて、石を拾って投げたのだ。

 しかし、その威力はふざけていて、硬いはずの百足の体を石が突き破った。

 2人も慣れているので気にしないことにしている。

「よし、じゃぁ出発しよー!!」

「ごぶ、そっちは反対方向だよ。こっちだ」

「あははは」

 こうして3匹のモンスターの旅は始まった。



§



 監獄内では大幅なステータスダウンが施され、スキルや魔法が封印される。

 そんなものが使えてしまえば脱獄が簡単なので当然の処置であろう。

 厳しい規則に縛られている囚人たちだが裏道がないわけではない。

 看守側に協力者がいれば本来は禁止されているアイテムなどを渡してもらえたりする。


 看守のゴーグは監獄に勤めて10年。

 これといったミスもなく真面目に勤務している。

 ゴーグは10年のうちでここ最近が急に忙しくなったと感じていた。

 来訪者の登場で監獄の体制が見直され来訪者と現地人で仕事が分けられた。

 ゴーグは来訪者の監獄に異動となった。

 囚人数が増えて激務に追われる毎日。


 看守長は囚人に対して厳しい。

 囚人からすれば地獄を取り仕切る鬼のような存在。

 問題は囚人ほどではないにしろ、看守に対してまでそこそこ厳しい。

 特にここ最近はピリピリとしている。

 日々のストレスに追われるゴーグの唯一の楽しみは仕事終わりの酒である。

 いつものように通い慣れたバーに足を運びカウンター席に座ってマスターに愚痴を漏らす。

 仕事上、喋れないことが多いので言葉を濁しながらダラダラと喋り続ける。


 マスターは他のお客の接客をこなしながら愚痴を聞き続ける。

 いい感じに酔いも回ってきたゴーグは顔を赤くしてテーブルに顔を伏せる。


「ゴーグさん、あちらのお客様からです」

 マスターの声で顔を上げると、頼んでいないカクテルが自分の目の前にあった。

 カクテルをくれた人物の方へ顔をやると、女性が少し離れたカウンター席に座っている。

 艶やかな雰囲気を醸し出す女性は手を振って横の席へ移動してきた。

「お隣りいいかしら?」

「はいっ!? 大丈夫です」

 近くで見ると美しい顔にゴーグは酒で赤らめた顔をより真っ赤にする。


 付き合った経験なんてない。

 ましてや一夜だけの関係なんて御伽噺だと思っている。

 ゴーグは天にも登るような気分でベッドの上で朝を迎えていた。

 何かに化かされたかと隣を見ると女性がまだ眠っていた。

 昨日のことは酔いも回っていたし、初めてのことでほとんど記憶がないことに深い後悔を覚える。

 その後も何度か女性とお酒を嗜み体を重ねる関係になっていた。


 ゴーグが仕事に向かうのを見届けてベローチェは依頼人に連絡を入れる。

「依頼通りに影の館シャドーハウスに暗殺依頼を出しました。それと看守への接触も問題ないです」

「そうか、クロツキには世話になったからなたっぷりと仕返しをしてやんねぇとな」

「イーブルさん、一つ聞いてもいいですか?」

「なんだ」

「なぜ、暗殺依頼なんて出したんですか?」

「ふっ、お前には関係のない話だ。とにかく餌に食いついてくれればおいしいし、そうでなくてもこちらには痛くも痒くない」

「計画ですか……」

「聞きたいのか?」

「いいえ、やめておきます」

 ベローチェとイーブルの関係はあくまでもビジネス。

 イーブルがイヴィルターズという組織のトップであるのも知っているし、数々の悪行も知っている。

 計画とはどうせロクデモナイものなのだろう。

 知ってしまえば後戻りができなくなるし、知らない方が身のためだろうとベローチェは判断する。


「賢い選択だな。お前ほど優秀なのがいれば俺も助かるんだがどうだ? イヴィルターズに入らねぇか? 特別待遇で即幹部のイスは用意する」

「ありがたいお誘いですけど、断らせていただきます」

 世間ではイヴィルターズは落ち目と言われている。

 クロツキに大々的に敗北し、監獄送りになっているからだ。

 実際に監獄送りにしたのはクロツキではないのだが、世間はクロツキだと思っている。

 世間体は最悪、落ち目のイヴィルターズとは、金払いさえ良くなければ関わりたくない相手といえた。


 ベローチェがイーブルから受けた依頼は看守へ接触して協力者にすること。

 実はゴーグ以外の看守数人にも協力を持ちかけている。

 ゴーグの場合は女の武器を使ったが、それ以外はお金を提示すればすぐに首を縦に振った。

 ゴーグは性格的にお金では落とせなさそうだが、役割としては協力してもらわなければいけないので仕方なく誘惑した。

 ゴーグは夢見心地だろう。

 そういうスキルで夢を見ているのだから。

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