118話 次なる暗殺
「随分、稼いでるんだな」
ぱっと、白金貨を4枚も出せるなんて羽振りがいい。
「そういうわけでもないが、これで足りなければもう少し追加で出せる。暗殺依頼を頼みたい」
「依頼ねぇ……裏切ったパーティへの報復なんておすすめしないけど」
「別に報復どうこうはどうでもいい、ただあいつらがこいつの子どもで悪事を働いているのは許せない。監獄送りにすればそのときに所持しているアイテムはまだパーティである俺らに譲渡される。そうでなくともアイテムの剥奪はされるだろうしな。パーティである以上、俺らが直接手を出すのは難しいから頼みたい」
「意外だな、オーウェンはそういうこと嫌いなもんだと思ってたけど」
「たしかにオーウェンは甘々でヒーロー気取りな奴だが、やるときはやってくれる奴だぞ」
紫苑が横からオーウェンのほっぺたをつつきながらちゃちゃを入れてくる。
「ちっ、やめろよ。まぁ、俺は世間が思ってるような聖人君子じゃないさ。でっ、どうなんだ?」
オーウェンがデスペナルティから復活する間に一応そのパーティの情報は集めている。
情報収集は重要だ。
報酬はターゲットの暗殺の難易度によって上下させるし、そもそも暗殺出来なさそうなら断らなければいけない。
俺よりも強者なんて腐るほど存在している。
そして今回のようにターゲットが複数でパーティを組んでいるとなると暗殺の難易度が上がる。
依頼に必要なくても集めておけばいつか役に立つ日が来るかもしれないとジャックに任せてあった。
「調査して見積もりを出すから少し時間を貰う。暗殺するかどうかはそれからになる」
「分かった、よろしく頼む」
「それと、暗殺に成功しても監獄送りになるかどうかは分からない。国が判断することだからな」
「そうなのか……なら、可能性は低いか。まっ、やってみればわかることか」
「えぇ~、あの子たちが戻ってこないんなら暗殺する意味ないじゃん。そんなんなら、そのお金を私にちょうだいよ」
「……とりあえず見積もりを頼む」
「まぁ、今回に関してはもう調査終わってるけどね」
「マスター、手伝おうか?」
資料を作成してくれたジャックが俺の横に現れて問いかけてくる。
「ジャックお疲れ。そっちの仕事がまだだろ」
「うーん、まだもう少しかかりそう。 あいつら逃げ足だけは早いから」
現在、ジャックが受けている依頼はとある盗賊団の捕縛依頼。
暗殺ではなく犯罪者の捕縛だ。
「俺1人でも大丈夫だよ、それほど難しくなさそうな依頼だし」
ジャックは小さく頷いて消えた。
「びっくりしたぁぁぁ」
紫苑は音もなく現れてジャックに驚いてオーウェンの腕にしがみついていた。
オーウェンはというと、特に姿勢も崩さず堂々としている。
「なるほど、噂通りに少数精鋭だな」
「噂?」
「くる募集、くる募集、全部断ってるだろ。いまだに最低人数から増えてないようだしな」
「別にそんなに高い基準を設けてるわけじゃない。一般常識さえあればすぐに加入させるよ。人手が足りてないし」
「ふーん……」
オーウェンが何やら考え込むのを横目にジャックの置いていった資料に目を通す。
リーダーの男の名前はTOMO、三次職狂戦士。
もう1人の男が ヒイロ、三次職重装砲兵。
女性の1人がニナ、三次職大司祭。
最後の1人がシャロット、三次職上級薬師。
資料を見る限りでは暗殺に問題はなさそうだ。
三次職が4人、しかも生産職とサポートの後衛職が1人ずつで火力のありそうな前衛2人も問題ない。
もちろん三次職でも四次職に匹敵する力を持っている者だっているが、今回は俺1人で十分に対処できる依頼と判断して、オーウェンの依頼を受けることにした。
§
夜の街を歩く。
多くの人で賑わい、飲食店はどこも満席の大繁盛。
そのうちの一つの店に入り、ごく自然に席について軽めの料理を注文した。
俺の目線の先にはターゲットの4人がクエスト成功の打ち上げをしていた。
店を出た4人は2組に分かれて移動を開始するのだが、どう動くかは既にリサーチ済みで今夜暗殺を決行する。
まずはヒイロとシャロットのペアの後をつけて、人混みの少ない通りに入ったところで話しかける。
「すみません。ちょっといいですか?」
「あぁ!? なんだよ、こっちはこれからお楽しみなんだぞ」
顔を赤くして完全に酔っ払っているヒイロを支えるようにシャロットが肩を持っている。
近づいて一閃。
ヒイロの首を斬り落とした。
重装砲兵は重量のある銃火器をメインウェポンにしていて、火力、射程が高く殲滅力はかなりのもので、さらに防御力も高いときている。
しかし、装備の重量がかなりあって移動速度が遅い。
こういった重装備の職業は街中では装備が邪魔になるので多くがサブ装備や私服のような戦闘には不向きな装備に着替える。
ヒイロもサブ装備に着替えていたし、メインウェポンはアイテムボックスに入れていた。
フル装備でここが王都の中心でなければそこそこの勝負ができたかもしれないが、今の状態では相手にもならない。
何が起きたか分からず呆然と落ちた首を眺めるシャロットはようやく俺が何をしたか理解できたようで腰につけていた護身用のナイフを手に持つ。
「あんた、王都でこんなことしてどうなるか分かってんの!?」
王都で犯罪を行えば衛兵が動き、下手をすれば指名手配がかかってしまう。
恐らくそのことをシャロットは言っているのだろう。
だが、ウチが暗殺依頼を受けれて他のクランが受けないのには訳がある。
暗殺クランはその名の通りに暗殺許可証を国からもらっている。
他のギルドが暗殺を受けて実行すると、クラン側が他者を一方的に攻撃したとみなされてそのクランはペナルティを受けてしまう。
そういったペナルティを受けなくて済むのが暗殺クラン
もちろん、好き放題にできるわけではない。
暗殺依頼は国に申請して厳しいチェックを何度もくぐり抜けて問題ないと判断された場合だけ許可が降りる。
ただし、来訪者がターゲットの場合は話が別で事前に国に申請する必要がなく、事後報告すればいい。
もちろん、その際に問題があればクランはペナルティを受けてしまうが、オーウェンの件で数日とはいえ監獄送りになるのなら問題なんてあるわけがない。
紫苑が所属する至高の一振りが今回の一件で遺憾の意を示し、各所に圧力をかけて指名手配を出させたと風のうわさで聞いた。
「どうにもならないよ」
戦闘職ではないシャロットに俺の動きは追えず、簡単に背後へ移動して首を掻っ切った。
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