102話 オークの巣食う森
ルーナとオウカは森に巣食うオークの群れを狩りに来ていた。
かなりの数がいるらしく、殲滅戦の得意な2人が行くことになった。
オークの巣がある森を目指すルーナとオウカは近づくにつれ増えるモンスターに異常さを感じていた。
ゴブリンや昆虫型モンスター、鳥型モンスターなどを筆頭に、元々森に住んでいたであろうモンスターたちはルーナとオウカには脇目も振らず、ひたすらに森から離れようとしていた。
数としてはそれほど多くない上に危険度も高くないため、2人は仕方なくモンスターを無視して先を急ぐ。
オークといえばそれほど強いモンスターではない。
体格は2メートルを超え、力は強いが残念ながら頭が弱い。
魔法もほとんど扱うことができず、戦闘手段はシンプルに殴ったりするだけ。
棍棒を武器にしている個体が多いのは扱いの難しい武器は使えず剣すらも彼らからすれば扱いづらいといえるのだ。
オークの勢力がどれだけ大きくなれば、森中のモンスターが逃げ出すのだろうか。
モリノヌシノイカリニフレルコトナカレ、ヌシノキソコナエバ、ヒャクネンノカンバツニミマワレルコトダロウ。
付近の村々で森の主について数々の話が伝わっている。
最も有名なのが森の主カリブニウは六神バルドブルグの加護を持つとされている。
その力は豊穣そのもので、大地の恵みだ。
カリブニウに見放されることはすなわち大地の死を意味する。
カリブニウの怒りを買わないためにも、森には安易に近づいてはいけないし、森を壊してはならない。
カリブニウは鹿のような出立ちで性格は温厚、攻撃を仕掛けることなんてなく、森の奥深くでひっそりと暮らしている。
しかし、領域である森を荒らす存在を許すことはなく、敵だと判断されれば一瞬で殺され森の栄養とされる。
森近くの村からは守護者と崇め祀られる存在であり、森の向こうからやってくるモンスターを村に来る前に始末してくれるありがたい存在でもある。
依頼主である村の村長によると、どこかのバカがカリブニウに攻撃を仕掛け弱らせてしまったため、オークの侵攻を止めることができなかったらしい。
厄介なのは自分たちは死んでも復活できるという甘い考えで特攻してその後のことなど我関せずなところだ。
「ルーナ、来たみたい」
「分かりました。シューシュ、お願いします」
森近くの村はすでにオークに占領されている。
多くの村人は逃げ出すことができたが、そうでないものはオークの腹の中だ。
村に入ってすぐに複数のオークが2人を囲んだ。
足元で跳ねていた黒ウサギは大きく跳躍して姿を黒いヴェールへと変える。
その瞬間、オークたちはルーナが目の前から消えたことに驚く。
しかし、深いことを考えない彼らはすぐに残っているオウカをターゲットにして、棍棒を持って殴りかかる。
「
オウカは耐久向上の上位スキルを発動させた。
棍棒が当たっても微動だにすることはなく、攻撃力の高いオークをもってしても磨きのかかったオウカの鉄壁を崩すことはできない。
オウカはその場から動かず反撃をしようともせずにただただ攻撃を受け続ける。
次第にオークの動きが鈍くなっていき、一匹のオークが倒れる。
しかし、周りは気にも止めずにオウカを攻撃する。
一匹、また一匹とオークが倒れていく。
その後も同じ光景が続いてとうとう最後の一匹も倒れた。
「見られてますね」
ルーナは終始オウカの隣にいて、終わったのを確認してヴェールを脱ぐ。
黒ウサギのヴェールの能力は認識阻害。
そこにいても相手からは見えず聞こえず感じず、後衛にはありがたい能力となっていた。
「そうだね」
森を見ながらオウカは返答した。
ルーナの魔法を使用して最低限の魔力消費で村のオークを殲滅。
ルーナも成長して得意とする呪術魔法に磨きをかけている。
目には見えない呪いの霧、即効性は低いが持続性が高く、逆に即効性が低いことで相手に気づかれにくく、気づいたときには手遅れになるような呪い。
オウカが動かなかったのは普変不動を発動していたからだ。
静止状態でのみ発動することができるスキル。
クロツキと潜ったアムルニッツの地下迷宮の報酬で獲得した不動の心がランクアップした不変不動は精神状態異常への耐性だけでなく身体状態異常の耐性も付与され、さらに魔力回復速度アップに加えて体力回復速度アップも追加されている。
オークの攻撃を防ぐために発動したのだが、もう一つルーナの呪いの霧からも自身を守る役割があった。
実は不変不動の状態異常への耐性と体力回復速度アップがなければ呪いの霧でオウカはかなりの体力が削られていただろう。
状態異常耐性を貫通するほどの威力があったのだが、そこはルーナもオウカを信頼して呪いの霧を展開していた。
まだ他のスキルを温存して最低限で耐えていたとはいえ、四次職で耐久方面では無類の強さを誇るオウカにダメージを与える呪いの霧。
そこらの三次職ならなすすべなく死を受け入れるしかないほどのそれを受けたオークたちはルーナの想定よりも耐えていた。
森の方から向けられる観察するような視線は不快そのものでしかない。
雑兵を当てて戦力を図ろうとする意思が透け透けだからだ。
つまり、森の中に控えているオークはより強力な力を持っていることになる。
それに本来はこんな面倒なことを考えもしないオークの中に知恵を持つ指導者がいる証拠でもあった。
それがオークなのか別の存在なのかはまだ分からないが面倒なことには変わりない。
「思ったよりも面倒な依頼を安請け合いしてしまったかもしれませんね」
「んっ、でも2人なら大丈夫」
「もちろんです、依頼の失敗は影の館の評判を落とすことになり、ひいてはクロツキさんの評価を落とすことになりますから。それだけは避けなければいけません」
「そうだね、頑張ろう」
「では、行きましょうか」
「うん」
2人は森の中へと足を踏み入れる。
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