101話 暗殺クラン

 ルーのマシンガントークはとどまることなくギルド拠点の説明が続けられる。

「1階の半分は公共スペースになっています」

 拡張魔法の施された室内は広々としていて、中央に受付カウンターがあり、壁沿いには談話スペースとして、いくつかの丸机とそれを囲うようにイスが設置されている。

 メインルームとは別に公共用トイレと応接室が2つ、職員控室などが一階には用意されている。


「受付カウンターの後ろの部屋は資料保管庫になっていて、こちらも厳重に守られています」

 なんだか役所のような作りだが決して5人で運営できるような規模ではない。

 これは早急に事務員を雇う必要があると感じた。

 来訪者だけだとどうしてもリアルでの用事があったりするため長時間抜ける可能性が考えられるので、現地人ローカルズを雇えるというのであれば事務員には現地人ローカルズを当てたい。


「地下は2階までございまして、何に使用するのかはおいおい決めていけばいいとジャンヌ様はおっしゃっていました。耐久性はこの建物で最も高いので倉庫にしたり、危険物取り扱いに使用したり、よくある話だと訓練室に使ったりされるのがいいかと思います」

 地下1階も2階も同じ大きさと作りで白い部屋が広がっていて、シュバルツ城にあった訓練室と似たような作りになっている。

 とりあえず一つは訓練室でいいと思っている。

 シュバルツ城の訓練室が便利すぎたので、あれを目標にしたいところだ。

 そして、できればあの透明な球の入手方法を知りたい。


「2階は従業員スペースになっています。 従業員のための更衣室や倉庫、 簡易的な宿泊スペース、会議室などが設けられています」

 既に必要そうな家具もすべて揃っていて至れり尽くせりの整備がされている。

 王都にある俺が手が出せそうな一般的なホームの内覧をしたことがあるが雲泥の差だ。

 この設備を使用できる権利だけでもクランに入る価値があるかもしれない。

 ただ、宿泊スペースがあるのは解せない。

 泊まることができるなんて福利厚生は、ブラック企業の特徴だ。

 もちろん、夜勤などがあり仮眠が必要な場合はある。

 しかし、それ以外なら最悪だ。

 定時に上がって、とっとと帰宅するのがベストだろう。

 影の館ではそこら辺を徹底させたいものだ。


「3階はクランマスター室となっています」

 階段を上がれば廊下には赤の高級マットが敷かれ、そこを進むと重厚な黒色を基に金の装飾がこれでもかと散りばめられた光り輝く扉が見えてくる。

 少し重さを感じる扉を開くと、そこには超高級スイートルーム……


 これがクランマスター室っておかしすぎだろ。

 1人でこれを独占してたら他のメンバーから恨みを買いそうだ。

 幸いなことに部屋はいくつかあるし、活用方法を考えよう。

 俺は本当にこじんまりとした部屋で十分なのだ。

 こんな訳の分からないベッドで眠れるか!!

 色はシックな感じだが天蓋付きのベッドなんて俺は王族じゃないんだぞ、一般人にはレベルが高すぎる。

 というか、普通に恥ずかしい。

 一応全階層の説明を聞き終えた感想としては、豪華すぎる。

 まぁ、そこらは慣れの問題なのでいいとして、問題はやはり5人での運営は難しいという結論に落ち着く。

 どの程度依頼が来るのか分からないが人数はもう少し欲しい。

 特に事務員は早急に必要だ。

 まず受付をしてくれないと誰かが無駄な時間を過ごさなければいけなくなる。



§



「なんでだ……」

 俺はクランマスター室の机に突っ伏せる。

 事務員募集の広告を冒険者ギルドを通じて出してもらった。

 が、結果は惨敗だった。

 忘れていたがこのクランは暗殺クランだった。

 そして王国で唯一認められているということは前例もないということ。

 しかし、非合法であれば暗殺クランは存在している。

 非合法なだけあって随分と汚い仕事をしていて、その印象があるせいで影の館シャドーハウスも一括りに見られている。


 募集を出してから一週間、待てども待てどもくるのは見た目からヤバそうな人間ばかり。

 まともそうな人間も調べて見ると実は裏の人間だったりと事務員なんて程遠い。

 暗殺クランで働こうとする人間でまともなやつなんていないようだった。

 そもそもが暗殺をして欲しいんじゃなくて事務仕事がして欲しいだけなのだ。

 血の匂いをまとわりつかせている輩はお断りだ。


 募集を出すと同時に依頼の受付もしているが暗殺依頼はまだきていない。

 しかし、他の依頼ならちょこちょこきて俺以外は割と忙しそうにしている。

 直接依頼以外にも冒険者ギルドにある依頼を受けたりもしている。

 冒険者ギルドに張り出されている依頼はここでも受けることができるのだ。

 冒険者ギルドと提携を結んでいるクランは依頼を共有できる。

 他で受理された依頼は受理することができなくなるので二重でとかいうトラブルもない。

 それを可能にしているのがクラン作成時に国から支給されるクランレガリアだ。

 各クランにあるのはもちろん、王宮やギルドにも似た機能を持つものがあり、それらが情報共有している。


 また、クランレガリアにはレベルがあって、メンバーの貢献度の総合が一定値を超えるとさまざまな機能が解放されていく。

 そのためレベルが高いクランに所属している方が恩恵も大きい。

 分厚い取り扱い説明書や各種契約書が机の上に並べられている。

 現在、クランハウスには俺1人しかいない。

 大きめの依頼が重なり俺以外の全員が依頼を受けて出払ってしまった。

 俺も行こうとしたが、クランマスターとして目を通さなければいけない資料が多々あり、こうして1人寂しく格闘しているわけだ。


「リオン、オウカ、ジャックなんて逃げるように行ったからな、本当に助けようとしてくれたのはルーナくらいだ。まぁ、さすがに人数的な問題でルーナには行ってもらったが……みんなは大丈夫だろうか」

 誰もいないクランハウスで独り言が木霊する。

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