90話 ラフェグの目覚め

 クロツキとジャックはすぐにラフェグに攻撃を仕掛けた。

 それはロックに追撃が行かないように、そして救出の時間を稼ぐために。

 巨体のため、上への攻撃は難しく足を攻撃するが本当に少しの傷を与えることしかできない。

 それでも攻撃の手がロックから2人に移ったので成功ともいえる。

 一撃でロックが落ちたのは想定外だがやれることはひたすらに避けるのみ。

 傍から見ると簡単に回避をしてるように思えるがクロツキもジャックもギリギリだった。


「これは……きついな」

 巨体のせいで動きがゆっくりに見えるが実は違う。

 ラフェグはかなりの速度を持っている。

 この状態で耐久すればなんとかなるという作戦だったがまるで終わりが見えない。

 街の半分はラフェグの攻撃で壊滅状態、足場は悪く避けるのも難しくなってきた。


「ちっ……ジャック、離脱しろ」

 街の建物が残っているうちはジャックも糸を使って攻撃をかわしていたが建物がなくなると一気に厳しくなった。

 ジャックは少しだけ表情を曇らせて、遠くにいる隊員の元へと退いていく。


「……!? ディー」

 ラフェグは地面を蹴った。

 崩れた建物の瓦礫が散弾銃のように広範囲に飛んでくる。

 闇槍ダークランスで瓦礫の一部を破壊して、影踏を使って窮地を脱出する。

 向こうはただの蹴りを出しただけで回避の切り札を使わなければいけない。

 魔力の少ないクロツキでは影踏は簡単に切っていい切り札ではない。

 しかし、そうもいってられない状況になっている。

 今まで回避できていたのはラフェグが殴る蹴るなどの脳筋な攻撃しかしてこなかったからだ。

 ただし、先ほどの瓦礫を飛ばすなどのクロツキが嫌がる行動が増えてきている。

 未だほとんど封印され眠っている状態から覚醒していっているのだ。


 何度避けたか分からない巨木を纏った拳での攻撃。

 体はほぼ反射的に動き横に避けたが、拳はクロツキに届く遥か手前でピタッと止まって、避けた先へと方向を変えた。

「あぁ、フェイントまでいれるようになったのか……」

 とはいえ、分かりやすいシンプルなフェイントだった。

 しかし、その効果は絶大だ。


 避けれるはずのない一撃を前にクロツキは消えた。

 空を切ったラフェグの拳は大地を割って大きな衝撃を街に与える。

 ラフェグが拳を戻すとクロツキはそこに立っていた。

 シャドウダイブ、クロツキの使える魔法の内、最も魔力消費が激しい魔法と言える。

 それはディーにとっても同じ。

 シャドウダイブは魔力を注げば注ぐほど深く潜ることができる。

 浅くてはラフェグの拳の衝撃が届いてしまう可能性があった。

 ディーの発動したシャドウダイブの影の中で、クロツキもシャドウダイブを発動、より深く潜って攻撃を躱した。

 その代償として、ディーは魔力切れで影に戻ってしまった。

 クロツキはというと、影踏を何度も使ったせいでシャドウダイブを発動する魔力は残っていなかった。

 ではどうしたか、魔力の代わりに影気を使用したのだ。


-影気-

影に関するスキル、魔法を発動する際に魔力の代わりに使用することができる。

影気の量はMPに等しい。


 クロツキからすれば、影気は単純にMPを倍にしてくれるといといっても過言ではない有能スキルである。

 しかし、影気も万能ではない。

 クロツキの装備する宵闇シリーズはアイテムとして力を発揮するのに魔力が必要なだけで、スキルや魔法とは別枠判定されている。


 なんとか、危機一髪の状況を避けた。

 しかし、ラフェグの攻撃は止まらず、鋭さは増していく一方だった。

 フェイントがあると頭に入れて回避を行っていたが、そのときはついにやってきた。

 ラフェグの拳が体に触れる。

 完全に当たっておらず、少し掠っただけで数十メートル吹き飛ばされて体が動かなくなった。


 地面に横たわるクロツキにラフェグはゆっくりと近づいて邪悪な笑みを溢した。

 今までならそれはありえない行動ですぐに攻撃していたはず。

 ラフェグの覚醒が進んでいる証拠でもあった。

 元々の性格は残虐性があり、獲物を甚振る癖があると言われている。

 淡い光がクロツキを包みダメージが回復していく。

 回復した足でその場からすぐに離れた。

 遠くの位置でソーンが回復魔法をクロツキにかける。

 回復魔法だけでなく、魔法全般に言えることだが距離のある対象に魔法をかけるのは距離が離れれば離れるほど難易度が上がっていく。

 クロツキとソーンの距離はかなりのものがあるが、完璧な回復魔法を発動させたソーンの実力が窺える。

 戦闘においてヒーラーは真っ先に狙われる危険な役職だが、離れた距離にいればその危険性は限りなく低くなる。

 しかし、ラフェグからすればその距離は特段離れているというほどでもなかった。

 クロツキから目を外してソーンの方を視認した。


「防御陣形!!」

 ラフェグと目があったソーンは隊員たちに指示を飛ばす。

 ソーンの支持は的確だったと言えるだろう。

 次の瞬間にラフェグがソーンを囲うように布陣を組む隊員の真上に跳躍していた。

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