91話 警備隊
「強化魔法・バイタルブースト」
「ヘヴィシールド!!」
「聖なる加護」
魔法使いによるバフを受けた隊員たちがシールドを展開する。
作戦通りとはいえ、クロツキは苦虫を潰したような表情を見せる。
クロツキの気持ちとは裏腹に隊員たちに動揺はなかった。
訓練通りに連携してシールドを重ね広げる。
鉛色の盾がソーンの発動させた加護により光り輝く。
巨大な光の盾はラフェグの踏みつけを防ぎ、追撃の拳も受け止める。
時間をかけた詠唱と魔法陣などによりその場だけではあるが、警備隊は最強の盾を形成することに成功していた。
「シールド補充、今のうちにポーションを飲んで!! スキルが切れた者は負傷者のサポートに回って!!」
仲間の死と裏切りで憔悴していたソーンは立ち直り、街を守るために今は奮起している。
ソーンの指示で隊員がテキパキと動く。
盾にヒビが入ればそれを補うように控えていた隊員がシールドを展開する。
全員が一丸となってラフェグの攻撃を防いでいた。
一般的に国に仕える警備兵よりも冒険者の方が華があるし強いとイメージされがちだがそれは誤りだ。
たしかに個々で考えれば冒険者の方が優れているかもしれない。
しかし、そもそも警備兵は少数での活動よりも大人数での部隊運用に力を入れている。
チャリック警備隊も部隊規模での防衛を得意としていた。
目的が違うのでひとえにどちらがどうと判断できるものではないのだ。
「挑発を少しでも切らさないように、ここでラフェグを街の中心に向かわせてしまえば大変なことになる」
そのときは突然やってきた。
ラフェグは暴れに暴れてようやく動きを止めた。
まるで燃料が切れた機械のようにその場で止まり腕をだらんと落として俯いている。
よく見ると巨木が枯れてきているような部分も見える。
やったか?
全員が怪訝そうにラフェグを注視する。
話通りに耐久して動きを止めたのだからこれで終わりな気もするが、油断はできないといった感情を全員ほぼ一致で感じている。
ラフェグの体が灰に変わっていき、体の中から3メートルほどの悪魔が出てきた。
「奴らめ、随分と面倒な封印を……とはいえ、お前たちもそれなりには頑張ったようだからな、俺の贄となることを許そう」
力強く低い声が響く。
大きな声を出したわけでないのに遠くにいてもはっきりと聞き取ることができる。
ラフェグは警備隊によって作られた盾を軽くこづいた。
先ほどまでラフェグの猛攻を防いでいた最強の盾。
それが軽い一撃で粉々に砕け散った。
「ハアアアアアア」
動かなければ駄目だという焦燥感に駆られてロックはグランドクロスを放ち、ジャックはスロウレインでラフェグを攻撃する。
しかし、傷一つつけることができない。
小型化しても樹木の鎧は健在、いや、それどころか密度を増して強固になっていた。
ラフェグは両手で2人の体をしめつける。
クロツキは駆けつけて攻撃するがやはりびくともしない。
「ふんっ、貴様らがどれだけ足掻こうとも無駄だ」
ラフェグは2人を投げた。
地面に何度かバウンドしたふたりは壁にぶつかって止まる。
かろうじて息はまだある。
「ラフェグなのか?」
クロツキの問いかけに笑いながら答えるラフェグ。
「あぁ、そうだ。こっちが本来の俺の姿だ。勘違いしてもらっては困るが確かに今の俺は封印されて10パーセントも力を出せてはいないがお前たち如きに遅れは取らない。希望をもつなよ」
「この街の人たちをどうするつもりだ?」
クロツキはさらに問いかける。
「生贄にして俺の封印を完全に解く一助とする。そして奴らに復讐をしてやる」
クロツキはラフェグを止めなければチャリックどころか周辺の都市も壊滅させられると時間を稼ぐ。
「ふんっ、時間を稼いでるようだが無駄だぞ。もう誰も俺を止めることはできない」
「強がりは止せ」
「なんだと?」
「焦っているんだろ、魂のストックは残り少なく実はギリギリなんじゃないか?」
「貴様、何を知ったような口を」
「知っているぞ。お前はもう数千の配下たちの魂しか残っていないだろ」
「貴様……なぜ知っている」
「さぁな」
「ふんっ、よほど死にたいらしいな。楽には死なせなんぞ。魂を啜って永劫の苦痛を味合わせてやろう」
突如、ラフェグについて話す声が聞こえた。
それはラフェグの中にある太古の人々の魂。
ラフェグに魂を啜られて力を奪われ、家族を奪われ、故郷を奪われ、全てを失った人たちの魂の叫び。
それらはラフェグに復讐せんと強く怨念を発していた。
通常時、怨恨纏いをステータスで確認するとグレーアウトしていてスキルの発動自体ができない。
一定以上の怨念が集まることでグレーアウトから白の文字に変わりスキルの発動が可能となる。
では今はどうなのか……
グレーアウトはしていない。
ただし、白文字でもない。
怨恨纏いは不気味な赤文字となって浮かび上がっていた
スキルの発動を躊躇させるに十分なほどきれいすぎる赤色。
しかし、クロツキは躊躇うことなく怨恨纏いを発動させた。
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