69話 討伐部隊壊滅

「あーさーはまだいいとして、他の連中はアホやなぁ、ボスの姿が変わるなんてありきたりやのに」

 湖都ことはデスペナルティになった来訪者たちの姿をみて呟く。

「しかも名前が赤竜でしたからな」

「でも、思ってるよりもヤバいかも」

 生き残った3人はアグスルトとタツが向かい合ってるのを遠くから見る。


「なかなか熱いもん持ってんじゃねぇか」

 四次職の喧嘩最強はタイマン性能に特化した職業である。

 その多くのスキルが身体強化や純粋な攻撃スキルだけの脳筋職業ともいえる。

 搦手には弱く、多人数戦も得意としていないが、その代わりにドラゴンであるアグスルトとも殴り合えるだけのステータスを有していた。

 そこにプラスでタツ本人が元々有している喧嘩勘が加わればまさしく喧嘩最強というに相応しい。


 アグスルトの尻尾でのなぎ払いを受け止め、踏みつけは腕で弾き返す。アグスルトは火炎のブレスを吐くがそれにも耐える体力と防御力、そして精神力。

 タツはむしろブレスの中を歩いて、アグスルトの顔面をぶん殴る。


 そこらにいるモンスターでも大なり小なり知能があり、思考する。

 ドラゴンは総じて知能が高く、思考するモンスターだ。

 そんなアグスルトは驚きを隠せないでいた。

 最強の種族のドラゴンである自分と一対一で勝負ができる人間がいるのかと。


 アグスルトは自身の敗北を考え、ある決断を下す。

 本来であれば誇り高きドラゴンにはあるまじき行為。

 ただの虫相手にこんなことをするのは甚だ遺憾ではあったが、アグスルトは敗北の恐怖を知っている。

 負ければ全てを奪われる。


 アグスルトは氷の鎧という重りのなくなった体で翼のひとかきで軽々と上空へと飛翔する。

 氷の鎧を纏ってから長き時を重ねたせいで、それが突如なくなった最初は動きがぎこちなかった。

 しかし、それも徐々に慣れてきている。

 アグスルトは上空から火炎のブレスを自分と対等に戦っていた虫へと吐いた。

 タツの周りは炎に包まれ、体力が異常な速度で減っていく。


「これはきちぃな」

 タツはこういうことをされると途端に厳しくなる。

 空という圧倒的なアドバンテージを誇るアグスルトに対して使える手札があまりにも少なすぎる。

 それがドラゴンとも殴り合えるステータスの代償ともいえるが、しかしタツは諦めない。

 絶体絶命の状況でむしろ笑みを浮かべて右腕に力を込める。


「天にそびえる高き頂きへと届け!! 竜牙撃滅りゅうがげきめつ

 タツの唯一の遠距離攻撃はステータスアップを支えていた背中の龍の刺青が右腕へと移る。

 刺青は眩く光り、右腕から飛び出ると、螺旋を描き空へと昇っていく。

 使用後は一定時間ステータスアップがなくなるため、かなりのリスクを伴う技ではあるが手段はないと判断して即座にスキルを使用した。

 アグスルト向かって銀竜が吼える。


「ちっ、避けやがったか……」

 銀竜はアグスルトの翼に当たったものの、致命傷とまではいかなかった。

 ただ、飛行を維持できなくなったアグスルトは地上に降り立った。

 そして、再び肉弾戦が始まる。

 ブレスを撃つと隙ができるため爪と尻尾が主な攻撃手段。

 およそ10分ほど行われたと壮絶なドラゴンと人間の殴り合いはドラゴンに軍配が上がった。

 いくつかのステータスアップのスキルが残っていたとはいえ、最も大きな恩恵を与えてくれるスキルが使用不可となったのが痛かった。


「団長負けちゃったね」

「アグスルトは拠点を壊しにいくみたいやなぁ。どうしよか。オウカたん」

「拠点で迎撃する」

「ほな、拠点にいこか。アートマ足止めよろしく」

「これまた厳しいことを言ってくれる」

「団長がダメージ入れてるんやから、気張りや」

「じゃっ、よろしく」

「おいで、可愛い可愛いストールちゃん」

 湖都ことの従魔であるバイコーンに跨り2人は拠点へと急ぐ。


 2人が拠点に着くと戦闘職は少なく、残ったメンバーも既に満身創痍だった。

 職人達は採掘をある程度の目処で済ませいつでも下山できるように準備をしていた。

「これは無理やな」

 湖都はアグスルトのダメージと拠点の戦力を計算してそう判断した。

「オウカ、上はどうなったんだ?」

 クロツキが2人の姿を確認して駆け寄る。

「ダメだった」

 オウカは首を横に振る。


「上はウチら以外全滅、ドラゴンはここに向かっとるわ。でも戦えそうにないな。すぐに職人はんらを下へ逃し。時間はウチらが稼いだるから」

「俺たちもやれるだけはやろう」

「私も残る」

「俺も残るよ」

 満身創痍だったものたちが虎徹を中心に立ち上がる。


「どうやら来たみたいだな」

 温度が急激に上昇しているのが分かる。


「はやっ!? アートラ全然気張ってへんやんけ」

「遠距離攻撃開始!!」

 アイスゴーレムを倒してから多少の時間があったためポーションなどで回復は済んでいる。

 サフランの合図で遠距離攻撃の手段を持つものは一斉に攻撃を開始する。

 しかし、アグスルトの歩みは止まらない。

 ダメージすらないように見える。


「いくぞ!!」

 虎徹の掛け声で前衛職が近づくが炎のブレスが襲いかかる。

 ベルドールにスキルを使う余力はなく、虎徹の盾となって消えていく。

 魔法は魔力を回復させるポーションを飲めばいいがスキル、特に強力になればなるほど再発動まで必要な時間が長くなる。

 ほとんどの前衛職が一瞬で戦闘不能に陥る。

 ブレスはそのままサフランたち後衛にも襲いかかる。

 虎徹は刀に手をかけた。


「居合・一閃」

 抜かれた刀がアグスルトの鱗に傷をつける。

 しかし、本当に少しだけのかすり傷が精一杯。

「くっ、ならば三段突き!!」

 高速での刺突を3発放つも刀の切っ先が欠けて与えれたのは僅かな傷が三つのみ。

 虎徹はアグスルトが腕を振った勢いで刀が根元から折れて吹き飛ばされる。

 まともに戦えそうなのはもう3人しかいない。

 クロツキが前に出るのを湖都は止めた。


「あんさんは隙を窺っておればいいんどす。ウチとオウカたんの2人でやりますさかい」

「団長のお陰であいつは空飛べない。一気に全力で行く。でもそんなに持たないかも……」

 アグスルトの片翼が噛みちぎられたように大きな傷を残していた。

 あれでは満足に飛べないだろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る