62話 ヘルハウンド

 第一陣出発前、ユニオール山脈麓では鉱山跡地の奪還とドラゴン討伐に向けての作戦会議が行われていた。

 まず話し合いで出た話題はチーム分けである。

 三つのルートで第一陣、第二陣、第三陣の九つの部隊に分かれるのだが、四次職は第三陣に入ることはない。

 第二陣に入るのも僅かな人数。ほとんどが第一陣になる。

 すると三つのルートのどこになるかだ。


 Aルートは最短で鉱山跡地まで登ることができるがモンスターの数が多いと予測される。

 Bルートはモンスターの数こそ少ないが距離が長くなっている。

 CルートはAとBを足して2で割ったようなコース。


「俺らはAコースを行かしてもらうぜ」

 冒険者クラン『ヘルハウンド』リーダーのハザルが提案する。

 四次職が8人所属のヘルハウンドは現在の王国にあるクランで最多である。

 クランとはギルドを少し小さくした組織のことで依頼を受けてそれをこなすという点ではギルドとそれほど変わらない。

 クランはギルドの傘下として作られるので当然といえば当然である。

 ギルドと依頼を共有できるので直接の依頼でもない限りは同じ役割を担うことになる。

 ではクランのメリットは何かというと第一に信用である。

 そのクランの名が有名なら、それだけでそこに所属しているクランメンバーは個人では受けれない依頼を受けたりすることができる。

 今回の大規模クエストなど、ギルドはまずクランに話をつけている。

 四次職からまずはお声がかかるわけで、三次職以下にはこのクエストの存在を知ることすら難しい。

 知ったところでクエストを受けたいと願いでても門前払いに会うだけだ。

 それがクランに所属していれば推薦枠としてクエストに同行できる。

 もちろん四次職限定の第一陣は無理だが第二陣、第三陣には入ることができる。

 これは大きなメリットといえるだろう。

 他にもお得な機能もあったりするが、とにかくクランはパーティ以上、ギルド以下という位置づけになる。


 ハザルの提案に真っ先に否を叩きつけたのは冒険者クラン『修羅』の湖都だった。


「なんでであんたが勝手に決めとんねん」

「あぁ? 殺んのかよ」

「そっちがその気なら……」

 ハザルと湖都の間で殺意が交わるのと同時に互いのクランメンバーが一歩前に出る。

 一触即発の中で空気を読まずに間に割って入ったのは青のラインの入った白を基調としたコートを羽織るあーさーであった。


「こんなところで争い合ってる場合じゃないだろ。ハザル君、あたり構わず殺気を飛ばすなんて仮にも隊を率いる人間のすることじゃぁない。もしも文句があるなら他のものに譲ってもらうよ。それから湖都君、君の発言はクランの意向なのかな? ぼくには違うように見えるけどね」

 あーさーはハザルと湖都に顔を向けながら笑顔を見せる。

 金の短髪が似合う美形で性格は品行方正。

 一部の人間からは高い信頼を得ているが、性格の荒い人間からするとめんどくさいやつだと思われている。

 あーさーは空気の読めない学級委員長タイプだった。


 普通ならハザルも湖都も簡単に退いたりはしない性格をしている。

 しかし、あーさーとなると話が異なる。


「ちっ、じゃあクジでいいだろ」

 ハザルは殺気を解く。


「団長……」

「俺はクジでいいぜ」

 湖都は壁に背を預けて頭の後ろで手を組んで一連の様子を伺っていたタツに目を向ける。


「よしっ、クジなら誰も文句ないだろう。言い合いっこはなしだぞ」

 クジが採用されてそれぞれがルートを選択していく。


「よっしゃ、オメェらとっとと行くぜ。足手まといは置いてくからなぁ」

 Aルート第一部隊隊長のハザルが自分のクランメンバーと後から決まった3人に発破をかけ出発した。


 道中は穏やかなもので3000メートル付近まではスイスイと進んでいく。

 現実世界ならこんな簡単には行かないが、ここはゲームの中であり、メンバーは全員がトップクラスの精鋭たちだ。

「随分と楽だな。これじゃあピクニックだ」

「猛吹雪のピクニックはきついっすね」

 ハザルに返答するのはヘルハウンドのメンバー。

 登り始めてすぐに吹雪が襲ってきたのだ。

 昔のユニオール山脈は吹雪いたとしても頂上付近だけだった。

 それがドラゴンが来てからは少し登ると吹雪に襲われるような雪山へと変化していた。

 しかし、高いステータスと寒冷対策の装備のおかげで寒さ自体はそこまで大したものに感じない。

 問題は視界の悪さだった。


「そっ、そんな……大量の敵影を捕捉しました。囲まれてます」

「ちっ、使えねぇな。テメェら準備しな。ここからが本番みてぇだからな」

 ここは寒冷に強い大量のモンスターが住み着く地獄の山である。

 モンスターの気配を察知したのは後から決まった3人のうちの1人。

 いつもならもっと先まで気配を察知することができるが猛吹雪がそれを邪魔していた。

 感知系のスキルを阻害する吹雪は遠くとの連絡を取るアイテムやスキルの能力も阻害する。

 そのため、別ルートの様子、後発組の様子などの情報が入らない孤立した状態にあった。

 しかし、そんなことははなから承知で挑んでいる。

 すぐに全員が戦闘態勢に入る。


 ハザルたちを囲むのはブリザードエイプ。

 全身真っ白な毛に覆われた2メートルをこす大型の猿のモンスターたちが目視できるだけで二十匹以上。

 一匹、一匹がかなりの強さを誇るであろう上に猿型は知能が高いのも特徴だ。

 さらに慣れない吹雪の中での戦闘となる。


 隊の1人に飛びかかったエイプがバトルアックスで縦に両断される。

 ヘルハウンドメンバー、ハルバードジェネラルのレスタントはその後も強敵のはずのエイプを一撃で屠っていく。

 同じく雪原の魔女、カリアナも魔法で攻撃を仕掛ける。

「凍てつけ猿ども」

 吹雪の中を生活し、寒さには強いはずのエイプが凍っていく。

 カリアナがその氷を指で叩くとエイプは粉々に砕けて崩れ落ちる。


 クラン『ヘルハウンド』は全員がバリバリの戦闘職でほとんどの時間をモンスター狩りに費やしている。

 ブリザードエイプをものともせずに進行を続けていると、前から巨大な雪玉が戦闘を歩くハザルに襲いかかるが、ジェネラルガーディアンのレオポルドの盾で防がれた。

 

 雪山で激しくドラミングするのは4本腕のブリザードエイプだった。

「ボスモンスターか、俺に任せろ」

「まぁ待て、犬どもが腹が減ったらしい。あいつは俺が喰らうぜ」

 レスタントが前に出ようとするのをハザルが止める。

「喰らい尽くせ、ヘルハウンド」

 クランの名前にもなっている、ハザルの魔法。

 影から無数の犬型モンスターがボスのブリザードエイプに向かっていき次々と噛み付いていく。


 何匹ものヘルハウンドが拳で潰され影に戻っていくも、それ以上にとめどなく影から出てくる。

 圧倒的な質量での攻め。

 最初は激しく抵抗していたエイプも徐々に力をなくし地面に崩れ落ちた。

 その後もヘルハウンドによって喰い尽くされ、周りにいたエイプはボスがやられ統率力はなくなり、戦意喪失したのかなす術なく全匹喰い殺された。

 後には何も残っていない。

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