39話 背負った命

「お姉ちゃんが連れて行かれちゃった。お兄ちゃん強いんでしょあいつらをやっつけてよ」

 泣き崩れる村の子どもたち。

 大人に話を聞くと俺がヒコ村にきて少ししてからイヴィルターズリーダーのイーブルと数人の男がリオンを連れて行ったようだ。

 どうにか助けてくださいとお願いされた。


 村人が攻撃の対象にされそうなときにリオンはわざと喧嘩を売って矛先を自分に向けていたそうだ。

 あいつと会ったときの印象は最悪だったが共にイヴィルターズの一員を倒した仲でもある。


「俺に任せろ、必ず助けてくるからな」

 あいつらをやっつけてと懇願してきた子どもの頭に手を乗せて強く宣言した。

 これは俺の覚悟。

 村人へポーションを配り、ルーナとセン婆のいる地点を教える。


 そこまで行けば2人が保護してくれる手筈になっている。

 そしてシュバルツ家の馬車で離脱だ。

 残念ながら中にはすでに失ってしまった命もあり、全員が助かるわけではない。

 逃げる際にもリスクは伴う。


 地上へ出ると20人ほどの人間が一塊に集まっていた。

 その中にリオンもいて手足を縛られている。


「クロツキ……本当に来たんだ、その人たちのこと絶対守りなさいよ」

「分かってるよ、そのつもりで来たんだしね」

「くははははは、分かってるよだってさ。勇者にでもなったつもりかぁ?」

 端の方で真っ先に笑いながら俺を見下す男に続けてイヴィルターズの面々の下卑た笑いが響く。

 男から女に至るまで気に入らない顔をしている。

 顔の良し悪しではなく、村人を獲物と見立てて狩りを楽しむ胸糞の悪い笑い顔。


「大体さぁ……ぴぎゃ」

 投擲したナイフが額に突き刺さる。

 あぁ、嫌なことを思い出してしまった。

 自分は何もせずに権力者にだけ媚びを売って、いい顔をする上司。

 部下を替えのきく道具としてしか見ていないその目つき。

 仲間が死んでも笑みを崩さない。

 最も楽しそうのはリオンの隣にいるリーダーのイーブルだ。

 ゴミ屑どもに煽てあげられてそれで悦に入っている。

 こいつらの何もかもが気に入らない。


 イーブルは全身を巨大な鎧で包んでいる。

 オウカと似たようなフルアーマー装備だが違うのは背に大剣を携えているところ。


「お前、クロツキというらしいな。俺の可愛い部下を殺してくれてるらしいじゃないか」

「安心しろ、お前も同じように殺してやるから」

「はぁ、どうしてそんなに怒っているのか理解に苦しむ。無駄な争いはやめようぜ」

「無駄? 先に手を出してるのはお前たちだろ」

「お前には手を出してないはずだがなぁ」

「こんなことも見逃すことはできない。それに俺は二回もお前たちから襲われてるぞ」

「ハッハッハッハッハ、それは手違いってやつさ。互いに水に流そうぜ」

「悪いが会話をしに来たわけじゃない」

「交渉決裂か……ただのNPCを殺しただけでそんなに怒ることかねぇ、ときどきいるんだよな。ゲームの中にまでしょうもない倫理観を持ち込む奴らが。俺がそんな奴らをどうしてきたと思う?」

 ニヤニヤとしたその顔からは俺へ対しての挑発が感じられる。

 俺が怒りを感じる言葉をチョイスしてるのだろう。

 ここでイーブルに突っ込めばすぐに殺されるのは目に見えている。

 俺が死ぬということは後ろにいる人たちが危険に晒されるということ。

 イライラして燃えたぎっていた心が一気に冷める。

 イーブルの挑発スキルを状態異常耐性が打ち消したな。


「安い挑発だな」

「そうか、残念だよ。いるかを倒したようだし優秀なんだろうが、ゴミ共に感情移入するようなあまちゃんはウチにはいらねぇからな」

「そうか……」

 イヴィルターズの1人の首が落ちる。


 今の俺のステータスはかなり上昇している。

 レベルの低い者からは消えたように見えたかもしれない。

 暗殺者の称号と、新装備でのステータスアップ。

 これに敏捷向上アジリティアップのスキルを発動させればAGIは200を優に超える。

 特に暗殺者の称号の力がすごい。

 ここにいる全員が暗殺依頼のターゲットになっていてその分だけステータスが上がっている。


 近くにいる首をもう一つ。

 一つ、二つ、三つ……そろそろか。

 イヴィルターズの数が半分を切ったところで、少しスピードを落とす。

 次の瞬間にトップスピード、一瞬でイーブルの懐に潜り込む。

 近づいた刹那、イーブルと目が合う。

 顔に焦りはなく、じっくりとこちらを品定めでもするような余裕が見られる。

 自分がやられることなど想像すらしていない。

 間違ってはいない判断だろう。

 人数でもレベルでもこちらが劣っているのは事実。

 だからはいそうですかって負けれるほどこっちも背負ってるものは軽くない。

 集中、集中、集中、負ければ何の罪もない人たちが殺される。

 紫毒のナイフではノーダメージ、刹那無常ならダメージは入るが微々たるもの。


「お前調子に乗りすぎっ……!?」

 後ろから襲いかかってくるゴミを目も向けずに紫毒のナイフで切りつけると、恐怖と毒で悶え倒れた。

 また一つ俺のステータスが下がる。

 だからどうした、足りないステータスは技術で補え、セバスに何を教わった。

 フルアーマとはいえ関節部分は弱くなっているはず、そこから削る。


「ちっ、攻撃が当たんねぇってのはイライラするぜ!!」

 攻撃が雑になってきてる。

 これなら……


「もういいわ、PX殺れ」

 後ろの方で気怠そうに観戦してたこいつがPX441、……ってことは。


「くっ……」

 穏やかだった風が突如吹き荒れだした。

 無数のカマイタチが容赦なく襲いかかってくる中、その場から急いで距離を取る。


「はぁ、はぁ、はぁ……」

 俺にとって攻撃面で苦手なのは防御力の高い相手、防御面でいくと広範囲の攻撃を得意としている相手だ。

 PX441は風の魔法使い、その魔法は広範囲に人も家屋も蹴散らして地面に壮絶な傷跡を残していた。

 俺はなんとか射程の外に逃げることができたが、近くにいたイヴィルターズの面々はそうはいかなかったようだ。

 呻き声を上げながら地面に倒れている。

 リオンも拘束されながら致命傷は避けたらしいが体中に複数の傷跡が見られる。

 しかし、イーブルだけはその場から一歩も動かず不動の構えだった。

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