34話 暗殺者

 シュバルツ家専属執事のストルフについていくと、王都の外れにあるスラム街へと案内された。

 歩いてるだけで多くの殺気が感じられる。

 浮浪者のようにボロボロの衣服を最低限纏い、髭や髪の毛も何年も手入れしておらず、まともに表情が見えない。

 なにより、たちが悪いのがレストリアやアルムニッツの裏道にいたチンピラよりも醸し出す雰囲気がおどろおどろしく、かなり鍛えられた連中だというのが分かる。

 ありきたりなとこでいくと、やり手の騎士や冒険者が身を落としたといったところか。


「クロツキ様、こちらでございます」

 わざと周りの連中に聞こえる声量でそう言っただけで殺気が薄れた。

 たどり着いたそこには人の何倍もあるドラゴンが待っていた。

 ジャイアントサンドシャークよりも大きな体は黒い鱗に覆われて翼を広げるだけで木々が大きく揺れる。

 ではお乗りください。

 マジか……

 ドラゴンに乗れるのか。


 しかし、大丈夫と言われても恐ろしいものは恐ろしい。

 昔、友達の飼っていた犬を紹介してもらったときに噛まれたのを思い出す。

 そのときも可愛いだろう、噛まないから大丈夫だって言っていた。


 ゆっくりと近づいてまずは指先でちょんと触れる。

 おぉ、これがドラゴンの鱗か。

 吸い付くような感触がなんとも言えない。

 意を決して足をかけ、背中へと乗る。

 ストルフが俺の前に乗りドラゴンに耳打ちをする。


「ではしっかりと掴まっていてください」

 ちょうど持ちやすいように鱗が逆立ちそれを握ると、ドラゴンは翼を大きく広げひとかきして空へと飛び上がった。

 翼を三回羽ばたたせただけで雲の上に出る。


「僭越ながら快適な空の旅をお楽しみください」

 ストルフの第一印象は冷静沈着で大人しそうな少年だった。

 執事として教育を受けたからこその立ち振る舞いなのだろう。

 しかし、ドラゴンの手綱を握ったストルフは人が変わったように目を輝かせている。


 雲間から見える景色が高速で移り変わるのでとんでもないスピードで飛んでいるのは分かるが、ストルフの声は鮮明に聞こえるし、ほとんど風も感じない。


「あぁ、よろしく」

 セバスもそうだった、メイドもそうだった、そしてこのストルフもそうだ。

 シュバルツ家はやばい。

 そうでなければ、どうして執事がドラゴンを操れるだろうか。


 来るときはアムルニッツから馬車で一日かけてきた。

 それがドラゴンの速度なら僅か数十分ほどでシュバルツ城の庭へつくのか。

 俺が降りるとストルフはドラゴンに乗ったままジャンヌに恭しく一礼をしてすぐに飛び立ってしまった。


 ジャンヌは庭でのんびりと食事をしている。

 セバスは例の如くジャンヌの後ろに控えている。

 そして対面にいる2人を見て俺は驚いた。

 セン婆とルーナがいる。


「おぉ、クロツキ、久しぶりじゃな、王都からよくきてくれた、まぁ座れ座れ」

「あっ、あの……どうも」

 ジャンヌはいつもと変わらないが、セン婆とルーナも驚きを隠せないといった様子。

 それもそうか、突如ドラゴンが降ってきたら誰だって驚く。


「クッ、クロツキさんがどうしてここに!?」

「ルーナよ、静かに」

 セン婆がルーナを諫める。


「姫様、こちらが新たな刃で間違い無いのですね」

「うむ、面白そうじゃからな。それにセバスのお墨付きもある」

「左様ですか……来訪者を……」

「問題なかろう」

「英断だと思われます」

 俺とルーナが置いてけぼりで重要そうな話も終わり少しの沈黙が続く。


「そういえばみなさん知り合いだったんですね」

「あぁ、ジャバル・センはシュバルツ家と関わりのある家系だからな。ルーナはジャバルの弟子だそうだ」

「なるほど……」

 まぁ、セン婆がシュバルツ家と関わりがあるのは分かっていたが、まさかルーナがセン婆の弟子とは。

 世の中は狭いものだ。

 とりあえず、引かれた椅子に腰かけ、なぜ2人がここにいて、俺が呼ばれたかを聞くことにする。


「えっ!? そんなことに……」

 詳細を聞いた俺は頭がパンクしそうになっていた。


「というわけで事態は急を要する、すぐに向かってくれ」

「シュバルツ家は動かないのか?」

 セン婆とルーナは準備があると行ってしまった。

 残っているのは俺とジャンヌとセバスの3人だけ。

 戦闘になるのは目に見えている。

 そして人の生死が絡んでいるのなら俺なんかよりもシュバルツ家の誰かが行ったほうがよっぽど戦力になる。


「それは無理じゃな、未だ王宮からの返事はなく、妾たちが動くわけにはいかん」

「分かった。街に寄って準備をしてすぐに向かうことにする」

 こればかりは仕方ない。

 シュバルツ家は貴族である。

 かなりの裁量権を持っていたとしても今回の件には勝手な判断を下せないとのことだ。

 これが現地人だけの問題ならよかっただろう。

 しかし、来訪者が密接に関わっている今回の件ではダメだった。


「時間もないというのに何をしに?」

「転職をして装備を整えようと思う」

「それならここで済ませればいい、装備もそれなりのが揃っていよう」

「ここで転職できるのか?」

「もちのろんじゃ」

 転職ができるのはギルドだけだと聞いていたが違ったのか。

 セバスが半透明の玉を持ってきて机に置く。


「それに触るだけで大丈夫じゃ」

「えっ!? はっ!?」

 セバスがいつの間にか半透明の玉を俺の手に収めていた。


 パリィン……


 強い光を放ったと思った次の瞬間に割れた。


-インフォメーション-

三次職、暗殺者へと転職しました。

ステータスが変更されます。

暗殺者初期スキル『状態異常耐性』、『自然体』を獲得。


「どういうこと!?」

 ジャンヌの方を見るとおもちゃを見つけたときの底維持の悪そうな笑顔。


「言い忘れておった。それは特定の職業になるの決定じゃった。てへっ」

「いやいやいや、明らかにわざとだろ。てへっで騙されるとでも」

「クロツキ様、こちらへ」

 セバスが俺を城内に先導する。


「クロツキ、イタズラの詫びじゃ。使い方は知っとるじゃろ」

 ジャンヌが俺に何かを投げる。

 これはスキル玉?

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