35話 ルーナとリオン

 クロツキがオウカと地下迷宮に潜っている頃、ルーナとリオンはレストリアから南へ行った辺りでモンスターを狩っていた。


「もー、あいつらマジでムカつくんだけど」

「もう忘れなよ、ダガーナイフくらいの武器なら手に入るでしょ」

「ち・が・う・の!! モノじゃなくて盗られたことがムカつくの。やり返さないと気が済まない」

「はぁ、センお婆様はやめといた方がいいって」

「ふんっ、やるなら落ち目の今がちょうどいいんだよ。街にも入れないなんていい気味」

 

「目撃があったのはこの辺のはずだけど……」

「あのババァの言うことなんて当てになんないよ。今までも外ればっかだったし」

「リオン、失礼だよ……あれっ、あそこにパーティがいるよ」

「ようやく当たりか?」

 2人が見つけたのは数人の男たち、それを遠くから観察していると特にモンスターを狩っているというわけでもなく村の周りをウロウロとしている。


「何してるんだろう?」

「怪しさ満点じゃねぇか!!」

 完全武装された装備から冒険者であることは明白、ただしその目的が不明だった。

 10人以上で行動することはよっぽど高い難易度を誇るモンスターなどになるが、この辺りでそんなモンスターが出るという情報はない。

 それにモンスターを探しているよりは何かに警戒している。


 何を警戒するのか、この辺りにあるのはヒコ村という30人ほどが暮らしているのどかな村だけのはず。

 交代制のようで他のグループがやってきてさっきまでいたパーティはどこかへ行こうとしている。


「追いかけるよ」

「えぇ? わかったよ」

 ルーナは昔からリオンのワガママさを知っている。

 こうなっては退くことはないだろうと諦める。


 男たちについていくとまさしくヒコ村があった。

 遠くから見ると雰囲気は異様で村人が歩いていないのがわかる。


 そして衝撃の光景を目の当たりにすることになる。

 そこでは外にいた仲間と思われる奴らが村人を蹂躙している光景が広がっていた。

 倒れた村人はどこかへと運び込まれていく。

 せめてもの救いは虐殺ではなかったことか。


「ひどい……どうしてこんな……」

「なんでもいいだろ、あいつらが屑だってことは知ってたけど、ここまでクソ野郎だとはな。今すぐぶち殺してやる」

 リオンの表情に怒りが浮かび殺気が漏れ出る。


「あれあれ、どうしてこんなとこに美女が二人もいんのかねぇ」

 それは不意の一言。

 背後から男の声が聞こえた。

 振り向いてもそこには誰もいない。


「見たところ二次職ってところか」

 声がするのは木の上からだった。


「姉ちゃんっ!!」

 リオンの掛け声でルーナは詠唱を始める。

 木の上から放たれた手裏剣をリオンがナイフで弾き飛ばす。


「ディグレテーション」

 まず全体ステータスを減少させるデバフをかける。

 

闇槍ダークランス

 さらに続けて三次職でも十分に通用する黒い槍を放つ闇魔法を敵に向けて撃つ。

 相手が隠者系統、というか忍者なのはすぐにわかった。

 忍び装束に手裏剣を投げてクナイを構えるのは忍者以外の何者でもない。


火遁かとん焔玉ほむらだま

 忍者の男が印を結んで口に手を当てるとそこから炎の玉が飛んでくる。

 忍者の特徴はなんといっても忍術だろう。

 魔力を使用することにより発動するため魔法と似ているが大きな違いといえば詠唱の代わりに印を結ぶことである。

 魔法は正しい詠唱を唱えることで威力も精度も格段に上がる。

 それに対して忍術は印を結ぶことで威力と精度を上げる。

 どちらが優れているということはなく、一長一短だ。

 さらに忍者は防御が低いがそれ以外のステータスは均等に振っていて接近戦も遠距離もこなせる万能タイプに育つ。


「アウトローブレイク!!」

「ありがとう」

「あぁ」

 ルーナに向かう炎の玉をリオンは切り裂いた。

 リオンは少しのダメージを負ったが怒りで痛みなど感じていない。

 ルーナは守りを任せて次の魔法の詠唱に入っている。


闇鎖ダークバインド

 一本の黒い鎖が木の上にいる忍者を追いかける。

 避けるために木の上から降りてきたところをリオンが追撃。

 ナイフとクナイがぶつかり合う。

 忍者は鎖を避けながらリオンと打ち合うが余裕の表情だ。


「全く、何を一人で楽しんでんだよ」

 騒ぎに気づいた忍者の仲間がやってきてしまう。

 手には大きな斧を握っている。

 ここは敵のホームで時間が経てば立つほど仲間が集まってきてしまう。

 忍者がわざわざ仲間を呼ばないのは余裕があって戦闘を楽しみたいからだろう。


「姉ちゃん、あれを」

「でも……」

「はやくっ!!」

闇霧ダークミスト

 忍者と大男の周りを黒い霧で包む。

 相手の視界を潰すための魔法。

 リオンは意を決して霧の中に飛び込む。


「ハァッ!!」

「こんなものが忍者の俺に効くわけないのに」

 ナイフを持った右腕がクナイで切り落とされるが、リオンは笑みを溢していた。


「喰らいやがれ!!」

 リオンの左拳が忍者の脇腹にクリーンヒットする。


「ちっ、一撃もらうなんて遊びすぎたか」

「くっ……そが……」

 忍者のクナイには麻痺毒が塗られていてリオンはその場で痺れて動けなくなった。

 霧が晴れたときルーナはその場にいなかった。


 ルーナに選択肢は残されていない。

 2人だけなら最後まで残って戦ってもよかった。

 しかし、今回は死ぬわけにはいかなかった。

 村人を助けるためには逃げて助けを呼んでくるしかなかった。

 走って走って走った。


 そして、今に至る。

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