7話 ゴブリンバーサーク
ゴブの森の奥地ではモンスターのレベルが急激に上がるため初心者の冒険者は近づかないようにギルドから注意を受ける。
しかし、クロツキは冒険者ギルドで色々とあって詳しく説明がなされていなかった。
さらに注意書きの看板も朽ちて倒れ目につかず、踏まれていたとしてもクロツキは何も悪くない。
ただ、不運が重なってしまっただけだ。
「ギィィィィィィィィ」
ゴブリンの雄叫びと共に赤いオーラのようなものが体を覆う。
そこからのゴブリンの攻撃はさらに過激になっていく。
それに合わせて俺も温存していたスキルを発動させた。
「
怒涛の連続攻撃を腕でズラしながらギリギリで回避するが、今までとは打って変わって余裕がない。
避けきれなさそうなのは仕方なしと多少のダメージを覚悟する。
重要なのは全てを避けることに集中して機動力を奪われたら終わりだということ。
多少顔に傷を負おうが腕に傷を負おうが問題ではない。
「ギィ、ギィ、ギィ、ギィ……」
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」
防戦一方ではあるものの攻めているはずのゴブリンも明らかに疲労している。
ゴブリンは口から流れる血を無造作に拭って、次の攻撃の姿勢を取る。
なんらかのデメリット付きのスキル、我慢比べなら負けるつもりはない。
使い物にならなくなった左腕を後ろに半身の姿勢で右腕を構える。
不幸中の幸いなのか、痛みのおかげで意識はハッキリとしている。
そして、次の攻防で決着がつくのが分かる。
飛びかかってきたゴブリンは爪を立てて振り下ろしてくる。
地面に深く突き刺さる爪を見て距離を取るためにバックステップした瞬間、視界が揺れてよろめいてしまう。
その隙を逃すゴブリンではなかった。
下から振り上げられた爪が肩口を大きく抉る。
片膝をついたところに、追撃が飛んでくる。
爪が狙いを定めたのは首、ここで一気に落しにくる算段だ。
ギリっと強く唇を噛んで体を捻りながら前に倒れ込む。
「くっ……」
「ギィ!?」
首筋を掠める爪、右手には報酬で貰ったダガーナイフ。
賭けであった。
しかし、それ以外に選択肢がなく無我夢中で振り切る。
ポトっという音で地面に転がったのはゴブリンの頭部だった。
「ギリギリだったぁ……」
極限の集中状態から解放され体の力が一気に抜けて、その場に座り込む。
ダガーナイフを手から離すことで幾分かマシになったものの、それでもすぐに立てないほどの疲労だった。
「あっ!? もしかして、血を流しすぎたのか」
おもむろに腰につけたアイテムポーチから小瓶に入った薄ピンクの回復ポーションを取り出して飲んだ。
「おぉ、さすがは高級回復ポーション、いざというときの非常用に一本だけ買っておいてよかった」
高い割に少量のポーションは値段に見合った分だけの効果を見せた。
大きく抉れた肩口と左腕の傷がみるみると治っていく。
量が少ないのが難点で完全回復とはいかないものの、十分に立てるようにはなった。
それと同時に体の動きが何かに抑えられているように阻害される感覚を覚えたが、これが反動かと納得する。
ポーションは短時間の間に使えば使うほど効果が減少していき、使った後はポーションの種類毎の反動が襲ってくる。
HP回復ポーションは体の痺れや、倦怠感などだ。
だからといっていつまでも森の中で休憩しているわけにもいかないと体に鞭を打ってゴブリンの死体を回収、早足で来た道を戻る。
ありがたいことに帰りはモンスターに出会わずに森を抜けて町まで戻ってくることができた。
しかし、気分は重くギルドを通り過ぎて宿へと直行する。
ゴブリン討伐の依頼は三匹のゴブリンを討伐してその死体をギルドに持ち込むこと。
アイテムポーチの中にはゴブリンの死体が一体、これでは依頼をクリアしたことにならないためギルドに寄りずらかった。
それに、チラッと覗いたギルドでは自分よりも後に始めたであろう
それに対してゴブリン一匹を相手に満身創痍ではまた何を言われるか分かったものではない。
心地よくない雰囲気を感じてギルドを後にしたのが本音だ。
しかし、いつまでもゴブリンをポーチの中に入れておくわけにもいかない。
体積を考えれば入るはずのないものまでお構いなしに飲み込んでしまうのは魔法様々だが、このポーチでは時間経過を止めることはできないため、早めにゴブリンを売りに行かないといけない。
周りからのニヤついた視線を思い返すと足が重くなってしまうのだ。
気にしないようにはしていたが、戦闘が向いてないのかとさえ思ってしまう。
結局、宿で少し休憩して人が出来るだけ少ない夜を狙ってギルドへとやってきたわけだが、それでも軽い人混みができている。
「すみません、ゴブリン一匹を狩ったので査定をお願いします」
モンスター関連の売買は基本的にギルドで行われる。
伝手があれば個人取引もできるが、信頼と安心を考えればギルドに任せておくのが無難であろう。
「はぁ、ゴブリン一匹? 今、忙しいから後で来てくれる」
大きなため息をついて気だるそうに対応するこの間とは別の受付嬢はゴブリン一匹如きでいちいち持ってくんなよと俺を相手にする気はさらさらなかった。
「あっ、先輩、私が対応します。クロツキさんどうぞ」
後ろから出てきたのはギルドで俺の鑑定結果を口走ってしまった受付嬢だった。
罪悪感を感じていた彼女は快く対応をしてくれた。
「すみません、ゴブリン一匹なんですが」
「いえいえ、全然大丈夫です……よ……!?」
出したゴブリンを見た受付嬢も本当に一匹なのを見て動きを止めてしまった。
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