人生最大のレース

宵野暁未 Akimi Shouno

厳しい予選を通過して今ここに居る

 会場には、数え切れい合い程の参加者達がひしめいていた。


「予選通過の諸君。おめでとう。これから最終レースに移るが、それに先立って4人一組で面接を行う。適当に4人の班を作るように」


 係官のアナウンスに、次々に4人の班が出来ていったが、アーニはどこの班にも入れずにいた。


「よし、班が出来た組から面接会場に向かうように。全員、班は出来たな」


 次々に4人組ができて面接会場へと去り、最後の班も面接会場へと向かっていく。アーニ1人だけが取り残されそうだ。


「ン? 君はどうしたんだね」


「すみません。私ひとり残ってしまったみたいなんです」


 すると、最後に面接会場へと向かおうとしていた4人が立ち止まって振り返った。


「どうしても4人じゃないとダメなんですか? 5人じゃダメですか?」


「あ、いや、前例が無いから、会議を開いて決めないと。おかしいな。ちゃんと4人の班で余りは出ないはずなのに」


「でも、ひとり残っているんだったら、5人の班を作らないとその子ひとりなんですよね」


 四人組の一人がアーニの手を引いた。

「5人になるけど、なに構わないさ。それとも、嫌?」

「とんでもないです。ありがとう」


 アーニは、4人の班に混ざって面接会場へと向かった。


 面接会場では、面接官が驚いたような顔をした。

「君たちは5人?」

「そうです。ダメですか?」

「まあ、来てしまったのだから、いいだろう。面接を始めよう。一人ずつ順番に、名前と自己アピール、将来の夢を簡潔に述べなさい」


 アーニ達5人は一列に並び、順番に1歩前に出て名前と自己アピールと将来の夢を簡潔に語った。


「僕はカーク。何事も1ばんを目指し、そして実行するのがモットー。将来の夢は誰よりも有名になることさ」


「俺はヨーム。スポーツなら何でも得意。将来の夢は、スポーツでみんなに夢を与えることかな」


わたくしはバーサ。何事もバランスが大事だと思っているわ。将来の夢は美の伝道者になることよ」


「おいらはリーチ。元気が一番。大きな声を出せばみんな明るく楽しくなれる。将来の夢はお金持ちになることだよ」


 そして、面接官がアーニの方を向いた。


「私はアーニ。可もなく不可もないと人に言われます。目立つのは苦手ですが、何事も最後まで諦めない根気はあるつもりです。将来の夢は、ささやかですが、そばにいる誰かを笑顔にできたらいいなと思っています」


 面接官は満足げに頷いた。

「では諸君、最終レース会場へと向かいなさい」


アーニ達5人が最終レース会場へ向かうと、既に会場は熱気に満ちていた。

会場アナウンスが始まる。

「さて、いよいよ最終レース。このレースでゴールに辿り着けなければ、その先は無い。今までにない過酷なレースだが、蹴落とし合いをするも良し、互いに協力するもよし。ただ、ここまでの予選を勝ち抜いてきた諸君らであるから、全員がゴールすることを期待する。健闘を祈る」


 スタートの合図と共に、一斉にスタートした。それは、まさに、筆舌に尽くし難い壮絶なレースだった。1番を目指す猛者たちは、最初から凄まじい騙し合いや蹴落とし合いを演じ、近寄ることさえ恐ろしいほどだった。

 アーニは1番でのゴールなんて夢にも思わず、ビリでも良いからゴールすることだけを目指したが、最初から遅れをとり、すぐに誰も見えなくなった。

それでもゴールを目指そうと、一人頑張るが、くじけそうにもなる。やはり自分には無理なのか。

 アーニは立ち止まり、動けなくなった。


「ほら、頑張りなさい。最後まで諦めない根気はあるんでしょ?」


 声の方を見ると、華やかな笑顔のバーサだった。

「カークもヨームもリーチも先に行っちゃったけれど、あなたが諦めるならわたくしも行くわよ。どうする? 諦める?」


「ううん、頑張る」


 バーサがアーニに手を伸ばし、アーニはバーサの手を取った。


 それからのレース展開を、アーニはあまり覚えていない。たぶんビリでのゴールだったんじゃないかと思う。


 会場には、場内アナウンスなのか、天から響くような声が聞こえていた。


「1番の者もいれば、ビリの者もいる。それが人生。だが、諸君は見事にゴールした。よく頑張ったと、その努力と勇気を称えよう。だが、諸君。このゴールは、実はゴールではない。これからが始まりなのだ。なぜなら……」


 その点から響くような声を聞きながら、アーニは何かに吸い込まれていった。




 気が付くと、アーニは暗くて狭い場所にいた。目は見えなかったけれど、隣に誰かがいることは分かった。外からは絶えず何かの音が聞こえていたが、その意味するところは分からなかった。


 どれくらいの時間が経った頃だろうか。何かが起こり、何かが始まった。これから更に狭くて窮屈で息もできない程の最後の関門を潜り抜けなければならないのだと、アーニの中の本能がささやいていた。


 死んでしまいそうな程の苦痛。


 けれど、その関門を抜けた瞬間、アーニは光に包まれた。


「おめでとうございます。元気な双子の女の子ですよ」


「ああ、神様、感謝します。二人とも生まれて来てくれてありがとう」


 そして、アーニは、最終レースをゴールした後に聞いた言葉の意味を知った。これからが本当の始まりなのだと。

 隣には、一緒に生まれてきたバーサ。


 人生最大のレースを勝ち抜いて生まれてきた二人の、これからに幸あれ。


   (了)

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