そのきは ぬくもり

マァーヤ

そのきは ぬくもり

体育は嫌いだ。

いや嫌いでもない…苦手なだけだ。

とくに球技。

バスケットだとか、バレーだとか…

ボールがうまく扱えない。

そもそもグループでなんかするの、イヤだ。

走るとか…ひとりでできるのがイイ。

いや、マラソン苦しいから好きじゃないけども。


と、いうわけで。

さぼりをするわけですよ。

先生…なんだかちょっと体調すぐれないので見学させてください…

あそこの木陰で休んでますから…

と、ね。


こんなくそ暑い日に、外でドッチボールとか…しかも男女合同でだよ。

小学生以来だよ。もう高校生なんだけど、男女でするとか…

まぁ、矢崎先生と佐野見先生が付き合ってる、て話しだし。

そりゃお互い体育教師だから男女合同で授業しちゃえばラクだし、楽しいだろうし(あのひとたちが)

みんなも文句言いつつ、まんざらでもなさそうだ。

男子が弱めのボール投げて、女子がきゃーきゃーいいながら逃げて、

逃げる女子をかばうようにそのボールをキャッチする男子に、

これまた女子たちがきゃーきゃー騒ぐの繰りかえり。


あぁ…見てるだけでだるい…


目をつぶり樹に背をもたれれば、ひんやりとする。

木陰の中で、そよそよ優しいそよ風を感じる。

これが幸せの時間でなくて、なんであろうか…

くそ暑い中、汗流しながらボールから逃げるとかヤダヤダ。

自分は自分のまわりだけ時がゆるやかに過ぎてゆくような、

この”体育さぼってだらけています”という勝手な優越感が、なんか好きだ。


暑い中、はしゃげはしゃげ、下級男女ども。

こちらは貴族の時間ぞよ~。


バシンッ!!


「っ痛っ!」


んんんっんんっくそいてぇっ…もろに顔面にボールが当たったっ。

顔だけじゃなく勢いで頭を樹にぶつけたしっっ。

前も後ろも痛いっ痛いっ痛いっっっー-のっ!


くそっ誰だよっ、ボール当てたやつ。

ぶっ殺す!

そもそもなんであの距離から勢いあるままボールが飛んでくんだよっ。


「わりぃーっ

 寝てるかと思って軽くなげたつもりが顔面直撃しちまった」

すまんすまん、と言いながら笑い顔で男子が駆け寄ってきた。

 あれが軽くかよ…てか、なぜ投げたし。ムカつく。


「ちよっ鈴井くんっ、なんかうらみあんの?」


自分の頭をなでるべきか、顔をおさえるべきか…

たく、まだじんじんとする…


「うらみつーか、

 お前、サボりだろ」

ボールを拾ってみんなのとこに投げたあと、なぜか自分の右横に座った。

「…べついいいじゃん、体育苦手だし。

 てか、なんでここに座るの?

 早くドッチボールにもどんなよ」


近すぎて、うざい。

お互いの肘があたる。


「ぁ、オレ怪我したから、見学」

そういって右のひざっこぞうを指差した。

…ちょっとだけすりむいている。

ほんとうに、ちょっとだけ。


「そんだけで、見学とか、どんだけおこちゃまなの?」

「サボりの口実。

 オレもお前みたいに昼寝してぇーし」

「寝てないっつーの」


ーたくっ貴族の時間を返せよ。


「最近おまえさー

 オレ避けてる?」

 !?

「べ、べつに避けてないけど」

確かにちょっと目を合わせないようにはしてたけど…

避けてるつもりはないつもりだけど…

なんか、なんてゆうか…鈴井くんが千秋と一緒に帰る姿みたら

見ちゃけなもの見たかもな~て、気がして…

自分から話しかけられなくなっちゃった…だけのことなんだけども…


「オレ今日の体育楽しみにしてたんだよなぁ。

 グループわけ出席番号順じゃん?

 おまえと一緒のグループだから、ボールから守ってやろうかな~て。

 ! おいっ鼻血でてんぞ!」

わりぃ投げたボールまじで強すぎたのかもっ、慌てて鈴井くんが立ち上がった。


そして後ろのポッケをまさぐって、

出したハンカチで私の鼻を押さえてくれました。

ハンカチをもってるのにも驚いたけど、それよりなにより熱いのです。


「…んんんん汗臭い」

「まぁなあ」


今日という陽気のせいだろか…? ほてる。


空は青く高く、

あいかわらず女子たちがきゃーきゃーいっている、声がする。



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