地獄の沙汰もゴール次第

弱腰ペンギン

地獄の沙汰もゴール次第

 時は300X年。人類は増えすぎた人口を地獄へ移民させることにより、生態系を保っていた。

「はいそれではー。位置について—。よーいドンっていったらスタートでーす」

 頭の緩い獄卒長が変な掛け声をして人間を困らせている。

 フライングしたということで何人かが別の地獄へ送られていく。

 ワシ、あの子らの恨み買うの?

「位置についてー。よーいドーン!」

 人間たちのレースが始まった。

「はい、走りながらでいいですからもう一度ルールを確認しまーす。えー、ゴールしたら天国いけます。以上でーす」

 緩い。緩すぎる。

「獄卒長。もう少し真面目にだな」

「えー。めんどい。じゃあ私監視に行きますので。あと閻魔様。セクハラで訴えますから」

「わし訴えられるの!?」

 ここではわしが法なのに!?

 獄卒長がスタスタと去っていった。あれ絶対監視じゃないだろ。

 だって監視所わしの後ろだもん。真逆だもん。

 ともかく、レースがスタートした。

 地獄に移民してくる人間がとても増えたため、地獄の仕事が滞り始めた。

 わしの右手も腱鞘炎になっている。

 そのため、手っ取り早く選別するためレースを行うことにした。えぇ。ハンデはつけてます。

 人間の能力値を算出し、それぞれに様々なバフ、デバフをかけている。はい、重りを乗せてるだけじゃが。

 それ以外の方法もあるが、とりあえずはこれで間に合っている。中には。

「ここからは解説のゴズ……おっとー、一人飛び出していったァー!」

 能力を隠していたのか何なのか、飛び出す奴がいる。こういうのは得てして適正なハンデがつけられていないタイプのやつだ。

 なので。

「閻魔様からの指示が出ました! あの人間に……おーっとこれはひどい! 餓鬼100匹が送られます!」

 邪魔が入ります。

 出る杭は打つ。これ、地獄式の教育。

「が、しかし、一方的にせん滅されたぁ!」

 なんですと?

 餓鬼って普通に人間より強いんですけど。なんなんですかあの人間。チートですか。異世界に転生とかしてたんですか。

「ここで閻魔様からの贈り物が追加です! バッタ! バッタです! 終末のバッタがなんと1万です!」

 チート持ちだろうとこの数は対処できないだろう。ということで足止めされてもら――。

「一、 撃、粉、砕! 1万のバッタが一瞬で消えました!」

 何をしたんだ。魔法でも使ったのか。

「リプレイを見てみましょう……人間が、バッタを掴んで、群れに投げつけたと思ったら全部吹き飛んでいます! 訳が分かりません!」

 あー。はいはい。異世界救ってきちゃった系ね。なんでそんな奴が紛れてんの。ここ地獄だよ。ホント迷惑なんだけど。

「三度指示がありました。えー……え、本気ですか?」

 やるんです。

「あぁ、はい。えっと、強制スタート地点からやり直しです! さぁ、これで先頭の人間は最初から……あっと、どういうことでしょう。スタート地点に戻したというのに、あっという間に集団へ……。空を飛んでます!」

 ……は?

「空を飛ぶ人間は久しぶりです! 実に100年ぶりくらいでしょうか。このレースが始まって長いですが、あまり見ない光景です!」

 ……適正なハンデがつけられなかったとあっては、地獄の、閻魔の名折れだ。仕方があるまい。

「ここでエクストライベントです! えー、よその国から借りてきたワンちゃんと遊んでもらいます。ケルベロスくんです!」

 人間の100倍はあろうという巨体。三つの首。かわいらしいしっぽ。某国のアイドル、ケルベロスくんの登場だ!

「はい、ワンパンでしたー!」

 チクショウ!

「あぁっとしかし! ケルベロスくんのもふもふに、すべての人間が魅了されています。足止めもやむなしです!」

 よくやったケルベロスくん!

「しかししかーし! 先頭の人間がケルベロスくんを撫でまわしながら走り続けている! 巻き込まれたケルベロスくんの体が地面を擦っているぅぅぅ!」

 うわぁ、痛そう。っていうか毛皮が大ダメージなんで気遣ってあげて!

「ケルベロスくん、たまらずに悲鳴です。その声に人間がしぶしぶ手を放しました。頭をなでています。仲良しさんです!」

 どうでもいいわ。

「そうこうしているうちに、先頭の人間がゴールしました!」

 ……丸二日かかるコースなんだけども。まぁいいや。


「賞品の授与です!」

 人間に天国行きのチケットを手渡す。正直、さっさと別の世界に行って欲しいんですが、まぁ仕方がない。

「それでは、次の地獄へ、ゴートゥーヘル!」

 チケットは輝くと、人間を次の地獄へ飛ばした。こうして地獄をめぐるとようやく天国に行け――。

「おい。今のレースで天国いけるんじゃないのか」

 どうして戻ってきてるのぉー。

「だましたのか?」

 人間がわしの襟首掴んできてるぅー。こわいー。

「このレースの結果だけで行けるとは言ってないじゃろうが」

「ほう。天国へ行けると、アナウンスされたが?」

「天国への階段を登れるんじゃから間違っておらん!」

 というかなんで戻ってきてるのぉ!

「まぁいい。俺は自力で天国に行く。そしてハーレムでウハウハする!」

「……天国に、本当に行きたいの?」

「あぁん!? これはそれが目的だろうが!」

 やだ、ヤンキーよ。怖いわ。

「天国行くとね。魂だけになるの」

「あ?」

「肉体も思考もとろけるし、幸福の中で次の輪廻にイタタタタタタ!」

 ヤンキーがひげを掴んでくるんですけど!

「だましたなァ……」

「幸福があるとかウハウハハーレムとかそんなの勝手な妄想じゃんかぁ!」

 理不尽だぁ!

「じゃあどうしろっていうんだよ!」

「輪廻転生して現世に戻れよ!」

「俺の精神とか無くなるじゃん!」

「それだけチートなんだからもう一度転生しろよ!」

「もう10回目で、神様から地獄に落とされたんだよ!」

 何したら落とされるんだよ!

「だからってわしに絡んでもどうにもなりまっしぇーん!」

「あぁそうかい!」

 人間は『トゥ!』という掛け声とともに空へ。

 地獄には、まぁ天井はないからどこまでもいけるよ。ただし。

「グハァ!」

 一周すると地面から生えるけどね。

「てめぇ、だましたな!」

「いいがかり!」

 まったく、野蛮人だよこの人間!

「おとなしく次の地獄へ行って、天国へ至って、輪廻転生しなよ」

「……出来ん」

「なんで。ウハウハハーレムなんて次の人生で作れば――」

「俺にとって、大事な女が現世に居るんだよ」

 あらやだラブコメ?

「ほうほう。詳しく」

「嫌だね」

 まぁ、そらそうだよね。

「ともかく、俺はここから出て現世に――」

「出れんよ」

「……は?」

「出れんってば」

「……ここはあれだろ。黄泉路とかそういう」

「いや、地獄だし。あと、イザナギイザナミの例があるので、対策はされました。ここは一方通行です」

 なのでわしも出れません。

「……そうか」

 あきらめてくれたか。いやぁ、助かった。ここでは死なないとはいえ、命の危機を感じたのは久しぶりだったわぁ。

 オレンジ色の道着を着たとんがり頭の時以来だわぁ。

「なら、時空を超えるしかないか」

「へ?」

 そういうと人間は、それから数百年、修行と称して地獄を荒らしまくり、ついには次元の壁を超える技を身に着け、現世へと旅立っていった。

 確かに、地獄は現実の時間の流れと、必ずしも一致するとは限らない。とはいえ今更現世に戻ったところで意味はないだろうと思ったのだが。

「俺には、時間をさかのぼる魔法がある」

 そうでしたチート野郎でした。

 そう言って地獄から旅立ち、きっちり100年後。

「よ」

 あの人間が彼女を連れて戻ってきました。大往生したらしいです。

「来世で、二人でやり直すわ!」

 そういう男の笑顔は、晴れやかでした。

「だったらついでで地獄を荒らしていくなよ」

 翌日から、地獄の修繕が始まりました。

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地獄の沙汰もゴール次第 弱腰ペンギン @kuwentorow

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