GAME3

one bullet 年末の人さらい

 年末近くとなり、仕事納めだと口を揃え、無礼講の忘年会が各所のお店で開かれているようだ。俺はいつものように忘年会には行かず、今年最後の仕事を済ませて会社を出た。

 最近は木島さんと遠藤さんとチームを組んで試合をすることが多くなった。エヴァンスチームの人とは、アプリでコミュニティグループを作って連絡を取り合っているが、仲間集めの手伝いのために過ぎず、チームに入った覚えはない。覚えはないんだ……。じゃあなぜ、俺はここにいるんだ。


 12月30日。俺はどでかい建物の前に立っていた。

 会社を出て早々に、俺は複数の人間に誘拐された。歩いていた俺の横に黒塗りのワゴン車が止められ、扉が開いた瞬間腕を固められ、ワゴン車の中へ放り込まれた。

 犯人は分かっていた。主犯格は臼井。実行犯は児島、北原、見知らぬ顔が2人。俺の自宅へ直行し、強制的に必要な物を準備させられ、夜通し車を走らせ、行きついた先がこの建物だ。


 JPSUプレイカンパニーという名前が建物の上部にでかでかと飾られている。ペイントシューター専門の施設。

 ペイントシューターをしているならこの施設を知らない者はいない。

 日本ペイントシューター連合が建てた施設で、予約を取りさえすれば一般の客でも利用可能だ。

 しかし、日本ペイントシューター連合の会員にならなければ予約を取れないという条件がある。金額も少々高め。一般客と言ってもなかなかの予算がなければ予約できないはずなんだが、本当に予約を取っているのか。


「ほら、ボーっと突っ立てないで行くぞ」

 車から降りた北原は、俺を誘拐した罪悪感すら感じさせないほど淡々と促した。俺は納得がいかないものの後ろをついていく。

「椎堂さんすみません。どうしても逆らえなくて」

 隣を歩く児島は素直に謝ってくる。

「もういいさ。今から戻っても交通費かかるしな。何かしらえきを取らないとここまで来た時間が無駄になる」

 やけくそになりながら吐き捨てた俺に対し、児島は苦笑いしか返せない。

 俺は前行く北原と、そしてその後ろをついて歩く2人に目をやる。長身で奇抜な発色の良い黄緑色のモヒカンヘアの男。

 その隣には、華奢な体つきではあるが、車の中で聞いた声は男だった。おそらく男だ。中性的な印象の男は、耳まで隠れたセミロングのストレートの髪が艶やかでサラサラしている。

「あの2人は新しい仲間か」

 俺は声を潜めて児島に問う。

「はい。左のイケイケ君が梁間良平はりまりょうへいさん。右の方が新内聡しんないさとるさん。2人ともかなり上手いみたいですよ」

「へぇ」

「これで俺はサブ確定ですよ。はあ……」

 児島はため息をついて落胆する。

「これから頑張ればいいだろ。練習してれば結果はついてくるさ」

「そうですね。俺もエヴァンスの一員ですし。この合宿で上手くなってやるっ!」

 児島は息を吹き返したようだ。モチベーションの持続がなければ上手くなる以前の問題になってくるからな。

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