第277話 野菜品評会

 ゼノディア王国からやってきた使者――ルークさん。

 彼は俺にゼノディア王国で開催される野菜の品評会へ出場してほしいと要請しに来たのだ。

 以前も、ローダン王国の騎士が俺を訪ねてきたことがあったけど……あの時とはなんだか様子が違い、どうにもこの誘いには裏がありそうな気がした。何せ、俺の参加がゼノディアの未来にかかわると言うのだからな。


 その点について詳しく話を聞こうと、俺はルークさんに迫る。


「あ、あの、ゼノディアの未来というのはどういう意味ですか?」

「それについては裏で聞こうか」


 突然背後から声をかけられて振り返ると、そこには商会の主であるグレゴリーさんが立っていた。どうやらずっと出かけていて留守にしていたらしく、たった今戻ってきたようだ。


「どうやら、入り口近くでワーワーと話す内容ではなさそうだしな」

「そ、そうですね」

 

 冷静さを取り戻したルークさんとともに、俺とシモーネとアイリアは奥にある見慣れた応接室へと向かった。


 場所移動も終わり、改めて話を聞いてみたのだが、


「あなたの参加でゼノディアの未来が変わるのです!」


 さっきと変わらない熱量で迫られる――が、相変わらずの飛躍っぷりだった。


「その未来が変わるという点を詳しく教えてもらっていいですか?」

「あ、ああ、失礼」


 コホン、と咳払いをしてから、ルークさんはこのドリーセンの町にたどり着くまでの経緯を説明し始めた。


「まず、この野菜品評会なのですが……実はただの品評会ではないんです」

「でしょうね」


 正直、それは予想できた内容だった。


「ご存知でしたか!?」

「いや、普通の品評会だったら、わざわざ王国の騎士がこんな遠くまで訪ねてはこないでしょう?」

「そ、それもそうですね」


 なんだかちょっと抜けている人だなぁ……ちょっと不安になってきたよ。


「ただの品評会ではないという理由はなんですか?」

「じ、実は……姫様が大きくかかわっているんです」

「姫様が?」


 俺は思わずグレゴリーさんへ視線を送る。もしかしたら、姫様が絡んでいるということでこの品評会の裏に隠された狙いが読めたのではないかと期待したのだが……どうやら、グレゴリーさんもピンと来ていないらしい。

 謎をすべて解明するには、もっと情報が必要だ。


「なぜ野菜の品評会に姫様がかかわっているんですか?」

「それは……この品評会が、姫様のために開かれるからです」


 暗い表情で、ルークさんはそう告げる。

 姫様のための品評会……?

 ますます分からなくなってきたな。


「なぜ、品評会が姫様のためになるんですか?」

「……姫様のお口に合う野菜を見つけるためです」

「えっ?」


 それは予想外の言葉だった。

 姫様の口に合う野菜って……その言い方だと、


「ひょっとして、ゼノディア王国のお姫様って――」

「お察しの通り……死ぬほど野菜が苦手なんです」


 どうやら、姫様の野菜嫌いを克服させるのが、この品評会の真の狙いらしい。

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