第263話 記憶


 無月草を求め、ゴンザレスさんとともにミューザさんが教えてくれた森へとやってきた。

何の変哲もない森ではあるが、ベテラン(?)アルラウネであるミューザさんからの情報なので信憑性は高い。


ただ、無月草の特性――夜にしか出現せず、おまけに朝には枯れてしまうという厄介なもので、その対応がしっかりできるかが入手の鍵を握る。とにかくスピード勝負となるだろう。

 

 そのため、ゴンザレスさんたちは可能な限りの人員を割き、この森に多くの人を配置するようにした。今のところ、ここにモンスターが出現したという情報はないが……念のため用心しておいた方がいいだろう。


 俺たちは俺たちで二手に別れ、無月草が出現しそうな場所へ散っていく。

 ちなみに、チーム分けなのだが――まず、地中に根を張って森の様子を監視できる俺とハノンがリーダーになり、ドラゴン形態となって上空から森の様子を探るシモーネが単独で動くことになった。

 俺の方にはマルティナとシャーロットが。

 ハノンの方にはキアラとアイリアが行動をともにする。


 チーム分けが終わると早速行動開始となった。


「それにしても……無月草、か」


 この世界は、俺がかつてプレイしていたゲーム――【ファンタジー・ファーム・ストーリー】そのもの。かなりのヘビーユーザーと自負しているが、無月草という名のアイテムには聞き覚えがなかった。


 この世界ではかなりレア度の高い薬草だというのに……ゲームでは実装されていないのだろうか。

 仮に、ゲーム内の知識が生かせれば、どこに無月草が生えてくるか予想が立てられるというのに……まあ、ないものは仕方ない。自力でなんとかしよう。

 しばらく森を進んでいると、


「わっ! あそこに凄く大きな滝がありますよ!」


 突然マルティナが叫ぶ。

 彼女の指さす方向へ視線を向けると、確かにこれまで見たことがないくらい大きな滝があった。


 ――と、その滝を視界に捉えた瞬間、脳内にある映像が浮かび上がる。

 それは【ファンタジー・ファーム・ストーリー】のプレイ画面。とある場所を探索している俺……そこにも大きな滝があった。ゲームのグラフィックとはいえ凄い迫力で「進化したものだなぁ」と感心したのを思い出す。


「そうだ……俺はあの滝を知っている……」

「あら? 以前にこちらを訪れたことが?」


 不思議そうに尋ねるシャーロットだが……違う。そうじゃない。あくまでもゲームでプレイしていたって話だ。


「いや……直接来たことはないんだけど」

「直接?」

「っ! な、なんでもないよ。ただ、前に似たような光景を見たことがあったってだけさ」

「そういうことでしたのね」


 一応、シャーロットは納得してくれたようだ。

 さて……こうなると、あの滝をゲームのどの場面で見たのかっていう情報が重要になってくるな。

 もしかしたらそこに無月草の謎を解く鍵が潜んでいるかもしれない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る