第133話 真夜中の取り調べ

 突如俺たちの泊まる宿屋に現れた少女――名前はアイリア。


 かなりお粗末な拘束魔法を使用し、俺を捕えようとした理由など、いろいろと聞きだしたいことがあったため、キアラの拘束魔法によって逆に捕え、部屋へと連行した。


「さて……どうしたものかしらね」

「ベイルさんも危険な目に遭わせようとした罰は……重いですわよ」

「ひいっ!?」


 身動きの取れなくなったアイリアを前に、キアラとシャーロットのふたりが腕を組んでにらみを利かせている。


「まあまあ、落ち着かんか、ふたりとも」


 そこへ、珍しく場を仕切るような言動で現れたハノン。

 後ろにはピタリとシモーネがくっついている。


「その者の処罰じゃが……ここはひとつ、水竜状態となったシモーネに丸飲みさせるというのはどうじゃろうか」

「「えっ?」」


 予想もしていなかった提案に、キアラとシャーロットは素の反応を見せた。


「何もかみ砕いてバラバラにしてやろうというわけではない。水竜となったシモーネならばアイリアくらいひと飲みでイケるじゃろ」

「イケると思います!」


 なぜかヤル気満々のシモーネ。

 

 ――ここで、俺たちは気づいた。

 ハノンはともかく、あのおとなしいシモーネがここまでノリノリになるなんてあり得ない。つまり……これは本気ではなく、ドッキリみたいなものだ。


 そのドッキリに、


「あわわわわわ……」


 アイリアは見事にハマった。

 無理もない。

 人間の姿をしているとはいえ、大きな尻尾はあるし、今は瞳が完全にドラゴンのものとなっている。信じきるには十分すぎる状況だ。


「ふっふっふっ! それでは早速おいしくいただきましょうか。がお~」

「ひいいいいっ!?」


 だんだん楽しくなってきたのか、テンション爆上がりのシモーネ。それを真に受けてビビりまくるアイリア。後ろではマルティナが温かな眼差しで見守っていた。もはや母親の貫禄だな。


 一方、ふたりのやりとりはしばらく続き、とうとう、


「さあ、この恐ろしい水竜に食われたくなければおまえの秘密を話すがいい」

「は、話したら……食べない?」

「それはあなた次第ですねぇ」


 悪い顔をしたハノンとシモーネがアイリアへと迫る。

 その迫力に気圧されて、ついに真実を口にした。


「こ、ここに泊まっている男を拘束して連れてきたら、僕もパーティーに入れてくれるっていう冒険者がいて……」

「男? ――あっ」


 そうだ。

 この部屋は、もともと俺たちが泊まる予定じゃなかった。

 あの紳士が譲ってくれた部屋だ。


 狙われていたのは俺ではなく、あの紳士だったのか。


「あぁ……非常に言いづらいんだけど――人違いだよ」

「へっ?」

「俺たちはこの部屋を譲ってもらったんだ。……たぶん、君が狙っていたのはそっちの人じゃないかな?」

「そ、そんなぁ……」


 へなへなと力なくその場にしゃがみ込んでしまうアイリア。

 狙われていたとはいえ……ちょっと可哀想になってくるな。


 

 こうして、思わぬトラブルに見舞われたものの、なんとか乗り切った――が、この子の処遇はどうするべきか。

 本来ならば騎士団へ突き出すところだけど……少し、考えてみるか。


 あっ、アイリアに変な依頼をした冒険者とやらにはしっかり責任を取ってもらうことにしよう。

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