ぐうたら大魔王のいる非日常的日常

文月ヒロ

ぐうたら大魔王のいる非日常的日常

 この町に引っ越して来て早2ヶ月。最初は…まぁ、色々あったけど、今はそこそこ充実している。


「ふぁ~あ……。んぁ?なんじゃあ、もう昼かの…」


 訂正しよう、充実じゃなくて辟易している。ついでに言うとそこそこ、ではなく、か・な・り、だ。理由は、今僕の目の前で呑気に欠伸をかました幼女にある。

 愛らしい赤い瞳に白く長い髪、間違いなく日本人じゃないこの子は―――――大魔王である。

 信じるしかないだろう。何故なら1ヶ月前、急に魔法陣ぽいところからひょいと出てきたのだから。


「お~い、ゆーがぁ、腹が減った…。我に飯を献上しろぉ…」


 眠気が抜けきっていない大魔王は、本当にただの女の子のようだ。だが。


「ほっほぉ~、勝手に僕のベッド奪っておいて、さらには貴重な食料まで寄越せと?ホント素晴らしい性格してるな、えぇ?」

「くっくっくっ…。さしものゆーがも我の良さが分かって来たか、我も罪な女よ」

「話聞いてた!?嫌味言ったのッ!イ・ヤ・ミ。お前の所為で、昨日は僕、床で寝たんだからな!」

「向こうでは、こんな綺麗な床で寝れるなら皆喜んだぞ?」

「だったらお前が床で寝ろよ。僕か弱い現代日本人、床ダメ痛いの!ドゥーユーアンダースタンド!?」

「アホか、我は大魔王ぞ。下々の者らと一緒にするでない。それに、この世界では我のような女児を床で寝かすのは犯罪ものじゃろうて。おぬしがけーさつに捕まらんようにしてやってるのじゃから、寧ろ感謝せい」


 嘘つけ、お前成人してるだろ。この大魔王、もとい、このぐうたら大魔王にはいつか痛い目を見せてやる。


「ふふっ」

「な、なんだよぉ…」

「おぬしは甘いのぉ、この我に痛い目を見せるだけとは」


 え、嘘、心読まれた!?なんでッ…。


「大魔王がこれくらい出来んでどうする。ふん、知っておるか?向こうでは人間は我を殺すべき敵として見ておる」

「そ、そりゃ、大魔王だもんな…」

「話は聞かんわ、人間どもは攻めて来よるわでやってられんかったわい。それに比べて、ここは良いのぉ。城から抜け出して来て正解じゃったわ」


 確かに、家出してきた、とか言ってたな。

 ってことはじゃあ、気が済んだら今ベッドの上にいるこの大魔王は帰ってしまうのか。


 そう思ったら、ほんのちょっと寂しさを感じて。


「なぁ。昼食ったら、ゲームでもするか?」

「ええじゃろう。手加減はせんぞ?」

「それはこっちの台詞だよ」


 どうかもう少し、もう少しだけ、この日常が続きますように。

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