副会長を射止めたのは誰だ?
司弐紘
序章 事件の始まり
その羨望は突然に
一学期最後の生徒会連絡会議。要は生徒会の面々と各クラスの代表。そして各クラブの代表が集まるという、それなりに必要な集まりだ。
特にこのタイミングであれば、メインとなるのは二学期が始まると、すぐさま取りかからねばならない学祭に向けての連絡事項が目白押しとなる。
そのため、ただ連絡を受けるだけの会議とは言え出席率は高い。
窓の外に溢れかえる夏の陽気を避けるために、クーラーの効いたこの部屋に集まってきているという側面は確かにあるが、これだけ人が集まっている状況では、クーラーの存在は贅沢と言うより、むしろ必然だろう。
校舎の一階にある、普段は何に使われているのかよくわからない教室。そもそも正しく「会議室」として設定された教室なのか、はたまた「物置」であったのか。
クーラーが効く以上、確かに人が使うように想定された教室ではあるのだろう。しかし現状では「会議室」と「物置」が不確定の有様だ。
何台放り込まれているのかとっさに判断出来ない移動式のホワイトボードを筆頭に、五月に行われた体育祭で使われた“何か”。それに各種書類の束と、それを隠すためとしか思えない積み上げられた段ボール。
たしかにらしいと言えばその通りの部屋なのだろう。
画一的に設置された黒板にこびりついた白いチョークの跡が、やる気のない背景美術にすら思える。
その黒板の前には、長机が中央にデッドスペースを作り出すべく設置されているのも様式美の一環であるのかも知れない。あるいは様式美と考えることで思考を放棄している可能性もある。
どちらにしても高校生には、机の配置などにかまけている時間はないのだ。青春という時間は貴重なのだから。
だからこそ、この教室の中心に座る生徒会長は最近正式に交際を始めた書記と、いちゃついているのであろう。
いや建前としては書記が会長のために各種書類を整えて甲斐甲斐しく世話をしている、とも説明は出来る――つまりは、この状況もまた不確定ではあるのだろう。
そんな状況に出席者各位の精神状態が低気圧に導かれ、やにわに暗雲が垂れ込める会議室。さっさと片付けて、この場所から避難しようとほとんどが決意を固めたその時――
「……ああ、いいのかも」
と、そんな同僚を近くの席で眺めていた副会長がポツリとこぼしたのだ。
才媛として知られ、滅多に姿を現さない――こんな会議には現れるとしても――彼女が、そんな油断しきったような言葉を。
「あ、あんた……彼氏でも欲しくなったの?」
副会長の近くに座っていた体育会会長が、狼狽えて確認する。
この副会長に彼氏が出来る――いや、副会長に好きな相手がいる。
それが、どのような変化を学校中にもたらすことになるのか。被害総額、等と不穏当な単語が出席者各位の脳裏に渦巻く。
いや、まだ確定では……
「え? ああ、ごめんなさい……私、何か言ってた?」
体育会会長の確認に対して、副会長はあからさまに誤魔化した。
その頬を真っ赤に染めて。
もはや間違いは無いだろう。確定したのだ。であれば、次にはこの疑問が浮き上がってくる。
即ち――
――副会長を射止めたのは誰だ?
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